イングランドのプレミアリーグを除けば、各国欧州リーグの移籍市場も佳境。例年通りであれば、ここから多くの駆け込み移籍が実現するはずだ。
『Goal』では、移籍市場の裏側、つまりクラブや仲介人(代理人)たちの動き方を徹底的に解剖していく。その“案内人”となるのがマインツのSD(スポーツディレクター)を務めるロウヴェン・シュレーダーだ。現在43歳になるシュレーダーは10年以上に渡ってプロのフットボーラーとしてプレーした後、2009年からグロイター・フュルトやヴェルダー・ブレーメンで役員として仕事をしてきた。3年前からは1.FSVマインツ05でスポーツディレクターの任に就いており、現場の移籍市場事情を内外からよく知る人物である。
『Goal』のインタビューに応えたシュレーダーは移籍市場の動き方や仲介人の世界について語ると共に、マインツ市場2番目に高額の移籍金で新加入したエディミウソン・フェルナンデスを例にとり、移籍が実現するまでの流れについて解説する。
■「イングランドの市場は他と違っている」
(C)Getty Images――シュレーダーさん、移籍ウィンドウが開くと「市場はまだ動き出しておらず、すべてが非常に静かな状態にある」と言われるのをしばしば耳にします。何が起これば移籍市場が動き出したことがわかるんですか?
まず、様々な選手について事前の情報収集は年中行われている。“動き出す”という言葉が意味するのは、すべてがより具体的になって、書面上の交渉に入ったということだ。その場合、いくつかの取り引きの全体が動き出すための引き金の役割を果たす。たった一つの移籍が成立するだけでも何かを引き起こし、それによってすぐに別の扉が開くことになる。もちろん、たいていの場合これはイングランドで起こる。イングランドでは想像を絶するほど巨額の資金が一役買っているからだ。イギリス人は売り渡す側のクラブに新たな資金を供給する。するとそのクラブにはメンバーに一つ空席ができるから、またそれを埋めることが必要になる。そうやってだんだんと車輪の回転が加速していくんだよ。
――イングランドの市場はどんなふうに動くんですか? まさに資金が豊富で、そのため短期間で思い切ったこともできますから、他の国の市場より時間に余裕があるんでしょうか?
イングランドの市場は他とまったく違っていて、たいていの場合何もかもが3週間という圧縮された時間の枠の中で進んでいく。市場はその間イギリス人で溢れかえり、彼らは非常に精力的に仕事を進めていく。彼らは特定の選手に狙いを定めているわけではない。純粋に買い手同士の戦いで、誰も人を助けようなどとは思っていない。だから、彼らはまったくリラックスした様子でこう言うんだ。「移籍期間の終わる8月8日まで時間はある」ってね。他のトップリーグのウィンドウがもっと長く開いているのは、誰も自分たちを制約したいとは思わないからだ。自分には制限をかけずに、8月8日まではイギリス人の動きを計画に組み入れることができるとわかっているんだよ。理想的に運べば、イングランドの資金が自分の金庫に流れ込んできて、その資金を使ってさらに3週間仕事ができるというわけだ。
――それは都合のいい状況ではありませんか?
その通り。もし選手を失うのなら、たとえそれが苦々しい損失だとしても、私は8月28日に失うよりは8月7日に失いたいね。以前はまだ8月の27日や28日にイギリス人がやって来て、お目当ての選手の価格が高騰していたり、移籍ウィンドウが閉じる直前になってクラブの方に手放す気がなくなっていたりしていることに驚いていたものだ。
――最近は、以前よりも“ドミノ現象”が起こることが多くなっています。ドミノ現象が効果的に働くためには、最高レベルのクラブにいる選手たちの一人がたまたま下位のクラブへ移っていく必要がありますか?
いや、そんなことはない。誰もが自分の領分で戦わなければならないんだ。たとえば私たちが競い合うことができるのは、私たちと同じレベルで工夫しているアウクスブルクやフライブルクのようなライバルたちだ。私たちより上位に位置するクラブがそのレベル内で問題を抱えている場合、一段下に目を向けて私たちのレベルの選手たちに関心を示すこともよくある。そういうクラブが国際大会への出場機会より高額な給与を提示して売り込んでくることがあれば、状況は私たちにとって厳しさを増すことになる。
■交渉、代理人との関わり方
Getty――以前に比べて、移籍市場のどういう点に根本的な変化が見られますか?
まず気づくのは移籍金額くらいだ。だが、結局それも数字だけのことだ。金額が上がったせいで、それに伴う責任もいくらか変化しているにしてもね。私の見るところでは、交渉そのものに変化はない。交渉は常にケースバイケースで対応しなければならないんだ。非常にいいコネクションがあったり、ほんの少し普段よりうまく運べる場合もあれば、どう交渉を進めればいいかわかっている場合もある。けれど時には、目的を達するにはまず途方もない努力をしなければならない時もあるんだ。
――選手の売り買いする際の、言ってみれば手仕事的な面は以前より難しくなっていますか?
それも場合によりけりだ。どんなふうに交渉するか、どんな契約の内容や構成方法を好むかについて、それぞれのクラブには得意なやり方がある。あるクラブはいくつかの条項を余計に盛り込むし、別のクラブは固定額をより重視する。そして多くのクラブでは、全体として様々な付帯条件をつけてくる。固定額や手数料、ボーナス、転売の際の取り分などなどだ。ここでもまた、交渉相手が誰なのかが重要になる。昔からの知り合いを相手にする場合もあれば、たとえばフランスではよくあることだが、クラブの会長を相手にすることもある。よく知っているとは到底言えないかもしれないような人物をね。
――いったい毎日どのくらいの数の仲介人(代理人)と電話で話すんですか?
非常にたくさんの数だ。一人ではすべての電話はとてもこなしきれない。たぶん、どの分野のマネージャーも口をそろえてそう言うだろう。何らかの優先順位を決めざるをえないし、ある電話がどんなふうに目的に役立つ可能性があるかを判断しなければならない。相手かまわず誰でも喜ばせることはできないし、すべてを追い求めることもできないからね。親しくしている3人の仕事仲間と私がリーダーを務めるスカウティングチームの面々は信頼できる人々で、電話の面でかなり私の負担を軽減してくれているし、完全に秘密も守ってくれている。この仕事では、秘密を守ることは至上命令だからね。
――FIFAが2015年3月に公認エージェント制度を廃止したため、それ以後は各国のフットボール協会に登録すれば誰でも仲介人として移籍業務に関わることができるようになりました。そもそもどうすれば、仲介人が実際に選手を代弁していると信じることができるんですか?
実際、これは新しく、難しい展開となっている。仲介人を名乗る人物の中には災害級に滅茶苦茶な者もいれば、“ディール・ブレイカー”(取り引きを破談に追いこむような重大な障害を指すM&A用語)的な者もいる。選手には手の打ちようがないことが多々ある。神経質になった両親の片方が、どこかの誰彼に息子に対する全権を与えてしまうこともある。そして、そういった人々が電話してくるんだ。すると今現在誰が正当な仲介人なのか調査することが必要になって、そのために移籍へ向けた仕事に支障が出ることになる。
――最近そういう状況に出くわしたのはいつのことですか?
(2018年にメスからマインツへと加入した)ムサ・ニアカテの時は、初めのうちいくらか見通しの利かない感じだった。当時は非常にたくさんの仲介人と称する人々から電話がかかってきて、『ワッツアップ』で無数のメッセージを受け取ったよ。結局彼のエージェントはあまり有名でないフランスの仲介人だったんだが、全体的に秩序のある仕事ぶりで、仕事の内容もトップクラスだった。私たちが彼と契約を固めると、それでもまたいくつもメッセージが来た。それによると、「ちなみに、あの選手をあなたにお勧めしたのは何と言ってもこの私です」というんだ。本当に、私たちにしてみればわけのわからないジャングルに踏み込んだような目に遭うこともあるんだよ。そのせいで仕事が難しくなるんだ。
■国ごとでの交渉の違いは?
――文化的な違いはありますか? たとえばフランスのクラブとスカンジナビアのクラブでは、交渉の仕方がどのくらい違っていますか?
文化による違いはないね。常にタイプが問題で、その時々の相手の性格次第だ。特に外国や知らない土地では、そこの事情に詳しい優れた仲介人のチームが必要になる。常に敏感でいることが必要で、様々な点を理解していなければならない。誰が決定権を握っているのか? いつその人物に連絡が取れて、交渉を始める準備が整うのか? 交渉の際にまずは大言壮語しておいて、2回目の話し合いでようやく要求をきちんと整理してくるタイプなのか? あるいは全体的に単刀直入で、早くから防御線を張ってくるタイプなのか? そういったすべてが大事な情報なんだ。
――多くの国のクラブは、移籍の業績面や財政面に関わる要素をドイツの場合ほど厳密に吟味しないと思いますか?
うん、確かにそう思うね。ドイツではより組織立ったやり方で対処して、これまでの給与の枠組みからはみ出すような年俸を設定することで暫定的な計画全体が破綻してしまう前に、取り引きを中止してしまうんだ。さもないと、結局ロッカールームに緊張したムードが蔓延することになるからね。ドイツ以外の国ではそんな時に見て見ないふりをして、むしろこう考える。「とにかく今はこうしておこう。大事なのはこの選手を手に入れたってことだ」ってね。そういう場合に、個別のケースごとに可能な報酬額を考えて頭を悩ませることがドイツの場合より少ないんだよ。
Getty Images――マインツは750万ユーロ(約9億1500万円)でウェスト・ハムからエディミウソン・フェルナンデスを獲得しました。彼はクラブ史上2番目に高額な選手です。彼の移籍をもとにして詳しい流れを説明してください。最初にコンタクトを取ったのはいつだったんですか?
元々、彼のマネージメントの担当者たちとは定期的にコンタクトを取っているんだ。以前彼らの担当する他の選手たちに目をつけていたことがあるからね。その後3年前に初めてエディミウソンに関心を持ったんだ。私はもっと以前のU-21代表の頃からすでにエディミウソンを知っていて、彼のことを頭の片隅に置いてその歩みを見守っていた。それから定期的に彼についてのスカウティングレポートを入手するようになった。彼は早くからすでに非常にいいランクに位置づけられていたから、プレミアリーグやセリエAのクラブも獲得に乗り出してきた。
――そうなると、「これはまずい」って思いますよね?
まあ、そんな感じだね(笑)。そんなことになった途端、これはまずうまくいきそうにないということがわかる。だが、それでも足掛かりが失われてしまったわけじゃない。その後もマネージメントの担当者たちとはコンタクトを取り続けるんだ。彼らから忘れられないようにしていれば、後でいわば変則的な道筋でその選手を手に入れることができるかもしれないからね。
――ですが、エディミウソンはしばらくの間マインツにやって来ませんでした。
移籍が実現するまでの準備段階は極めて複雑なものになることもある。エディミウソンはレンタルでフィオレンティーナへ移籍していた間にほぼ30試合に出場している。そうなるとアプローチするのは難しそうだが、それでも彼に関するウェスト・ハムの意向を問い合わせてみないわけにはいかない。それはまたタイミングの問題でもあって、私たちが興味の持てるクラブとして選択肢の中に入っている、まさにそういう時に電話をかけるといった幸運も必要だ。まさにタイミングを外さなかった場合にはいよいよ舞台に上がり、約束を取りつけて選手と会い、マネージメントの担当者たちと話し合い、実現可能な契約内容の大枠を決めなければならない。とにかく、ひたすらハンドルを回し続けるしかないんだよ。
――結局、あの移籍にはどのくらいの数の人間が関わっていたんですか?
エディミウソン側の代表メンバーとの取り決めの時には、彼の仲介人とウェスト・ハムのテクニカルディレクターだけだ。だが、特にイングランドのクラブとの取り引きの場合には、これは異例のことだ。
――では、どの段階からエディミウソン自身も同席していたんですか?
最初にコンタクトを取ってからだいたい5日後のことで、この日にサンドロ・シュヴァルツ監督との話し合いも行われたんだ。事を迅速に進めることも必要だった。エディミウソンはシーズンが終わった後でスイス代表としてUEFAネーションズリーグにも出なければならなかったからね。私たちがある選手に興味を持った場合には、なるべく早くマインツへ連れてきて、スタジアムやどんなトレーニングができるかを見てもらいたいと思っている。私たちが何が何でも彼を欲しがっていることを感じてほしいんだよ。
■マインツでの目標は…

――アブドゥ・ディアロやジャン=フィリップ・グバミン、ジャン=フィリップ・マテタ、ピア・カンディ、あるいはニアカテなど、最近のマインツはフランス市場に打って出ることに力を入れていますね。なぜ、ブンデスリーガでプレーする20歳のドイツ人選手より、リーグ・アンで12位(昨シーズンのマインツがブンデスリーガで12位だった)のクラブの20歳の選手の方が簡単に契約できるんですか?
単純に給与レベルが違うからだ。その年齢のドイツの若手選手には極めて多くの選択肢がある。そういう中で私たちマインツはブンデスリーガの中でむしろ食物連鎖の末端におり、わずかなチャンスさえ手に入らないことがよくあるんだ。もちろん、選手の方でもどの道を進みたいか決めることになる。より高い順位にあるクラブではマインツの場合より出場機会が減ることをマイナスと捉えるか? そして、彼のマネージメントを担当する者たちがそれをどう評価するか?
――移籍ビジネスで有利な立場にある市場のことは別にして、ここ数年のマインツは前へ進み続けていますね。ですが、まず初めに残留問題を片付けなければならないような状態からいつか抜け出せるでしょうか?
とにかく少しずつ進めていくしかないね。今やマインツは自信を身につけており、ただ単にそれを示すだけのためにスローガンは必要ない。私たちは一年一年結果を出して、そこから自分たちの強みを引き出していかなければならない。ここ数年の成果によってマインツは明らかに自信を手に入れたと私は思っている。もし今のマインツのように、どんな試合の前にも確信を持って「この試合をものにするぞ」と言えるとしたら、それは最高の財産であり、すでに有意義な一歩を踏み出していると言える。
――この先数年間のマインツにとっては、残留が当たり前のことになっていなければならないということですか?
残留が目標の第一段階だと言うのは悪いことではない――そんな思い上がった気持ちを持つのは私たちには許されないことだ。“残留”(もとのドイツ語は“レベルの維持”という意味)というのはとにかく馬鹿げた言葉でもある。まさにそういう決まったレベルがどこかにあるように聞こえるのだから。だが、全体につけられた名前が“ブンデスリーガ”なんだ。私たちはドイツ最高レベルのリーグで、国で最高のチームの数々と肩を並べて競い合っている。すべてのチームの中で最大の資金を持っているわけではないというだけのことだ。ブンデスリーガに留まることができさえすれば、私たちのクラブはさらに成長することができる。残留という目標が早い段階で達成されれば、次の一歩を踏み出したことになる。そしてその場合、シーズン前と同じように、私たちにさらにどれだけの力が残っているかを見ることができる。長期的な観点から言えば、それと共にうまく資金を使って、選手の売り買いの両面で賢い決定をして総資産を増やすようにしなければならない。
――マインツでいい仕事が行われていることは、ブンデスリーガで連続して11年目を迎えるという点だけでなく、様々な評判、たとえばあなたにまつわる評判によってもわかります。あなたは、ヨーロッパのカップ戦に出場してほぼ間違いなく大半の試合で勝ちを収めるようなクラブの最前線で仕事をしてみたいと思いますか?
私はマインツで非常に居心地よく感じている。ここで私は首脳部や監査役会と協力して様々な問題を進展させ、自分のアイデアを出して実行に移すことができるし、サンドロ・シュヴァルツと非常に厚い信頼関係を築いて協力し合っている。私はまさに今この場所に生きており、契約を結んでここにいる。マインツというクラブにすべてを捧げており、最大限の成果を出したいと野心を燃やしている。それでも、たとえそれがいつになるにしても、そのうちクラブを去る日が来るかもしれないという考えをいつまでも除外しておくわけにはいかない。自分の進む道が結局どこへ向かうことになるかは、いつものように私の気持ちがはっきり教えてくれるだろう。
――タイトルを獲得することなく役員としてのキャリアの終わりを迎えることになったらどうでしょう。それに甘んじることができますか? それとも何か物足りなさを覚えるでしょうか?
もちろん物足りないだろうね。マインツと共にドイツカップを制することができれば最高だろう。それはごく当然のことだ。私たちが皆ここで毎日懸命に働いているのは、まずは何より試合で勝ちを重ねていき、あわよくばいつか何かのトロフィーも手に入れるためなのだから。
▶サッカー観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【関連記事】
● DAZNを使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
● DAZNが「テレビで見れない」は嘘!6つの視聴方法とは?
● DAZNの2019年用・最新取扱説明書→こちらへ ┃料金体系→こちらへ ※
● 【簡単!】DAZNの解約・退会・再加入(一時停止)の方法を解説 ※
● 【最新】Jリーグの試合日程・放送予定一覧/2019シーズン
● Jリーグの無料視聴方法|知っておくと得する4つのこと
「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です



