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【私が選ぶCL歴代最強チーム】史上最も「美しく勝つ」を体現したチーム…3年目の“ペップ・バルサ”の衝撃

■完成されたペップ・バルサ

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かれこれ20年くらいチャンピオンズリーグ(CL)を見てきたが、「これは手が付けられないな」と思った優勝チームはいくつかある。そして、そのうちの複数がバルセロナだった。

以下に続く

最近で言えば、2014-15シーズンのチーム。決勝でユヴェントスを3-1で破ったこのときのバルサには、「21世紀最強のアタッキングトリオ」と誉れ高いリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの“MSN”がいた。いずれも個性豊かな選手であるが見事に調和し、CLで3人合計27ゴールという数字が示すように誰もがゴールを奪えるだけでなく、互いにアシストもする彼らのアンサンブルは単純に見ていて楽しかった。相手チームの目線からすれば、もうお手上げというか、封じる手立てが見当たらない破壊力に思えたものだ。

2008-09シーズンのバルサも違った意味で衝撃的だった。ペップ・グアルディオラが就任して1シーズン目。当時のペップはまだバルサBを1年間率いただけの“新人監督”だったが、その登場はまさに「彗星のごとく」という言葉が似合うもので、彼らが見せる新しいサッカーに驚かされた。バルサらしいパスワークの風味はもちろん醸し出した上で、目を見張ったのはチーム全体で見せる“攻撃的守備”。今でこそ「ゲーゲンプレッシング」という言葉と戦術が定着したが、当時まだそれは目新しく、サミュエル・エトーやティエリ・アンリといったスター選手でさえ前からアグレッシブに猛烈なプレスをかけていき、中盤でボールを奪えば目も止まらぬ速さでショートカウンターを繰り出し、フィニッシュに持ち込むまでのそのスピード感は圧巻だった。

そして、そんなペップのスタイルが完成の域に達したのが、2010-11シーズンのバルサだった。08-09シーズンも確かに強かったが、ペップ政権3年目を迎えたこの年はさらに完成度が上がり、プレスもポゼッションも崩しも研ぎ澄まされていた印象だ。

■完璧な3トップ、極上の3MF

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前線の3トップは、メッシ、ダビド・ビジャ、ペドロ。前述の“MSN”と比べればややスター性に乏しく映るかもしれないが、この“MVP”(この呼称はあまり流行らなかったが)はより実利的で、合理的で、それでいてバルサらしさもある完璧なバランスのトリオだったように思える。

もちろんそれぞれ個の力も秀でていたのだが、彼らは単独での局面打開よりも、中盤と有機的にパス&ゴーを繰り返しながら、リズムとテンポで相手の裏を取るようなクレバーな崩しを好むフロントスリーで、それがバルサらしさを体現していた。それでいて、ペドロとビジャは守備にも貢献し、激しいプレッシングを決して怠らない。メッシはこの頃からドリブルやフィニッシュだけでなくゲームメーカーとしての才も発揮するようになり、いわゆる“偽9番”のような形で攻撃のあらゆる局面に関与していた。

そのメッシと絡みながら精密機械のように正確なポゼッションワークを刻んだのが、アンドレス・イニエスタ、シャビ、セルヒオ・ブスケッツのMFトリオだった。この3人がピッチにそろうと、相手からすればボールの“奪いどころ”がまったくない。たとえば、10-11のCL決勝、マンチェスター・ユナイテッド戦がそうだった。

この試合は、ウェイン・ルーニーがブスケッツに激しくまとわりつき、チェックに行ってバルサのボールの出どころを潰そうとした。だが、ルーニーが近づけばブスケッツはボールをイニエスタ、シャビに素早く渡し、彼らがまたテンポよくボールを前や横に展開していく。その動きに対面したマイケル・キャリック、ライアン・ギグスのセントラルMFコンビはついていけず、両ワイドのアントニオ・バレンシアやパク・チソンが中に絞って加勢すればボールをサイドに展開され、逆にサイドを埋めれば中から崩されと、ユナイテッドはことごとく裏を取られた。

そして、27分にバルサの先制ゴールが生まれる。シャビがキャリックを振り切ってボールを受けるとドリブルで持ち上がり、ペドロにラストパス。ペドロが落ち着いてゴール右隅にシュートを流し込み、この1点をきっかけに試合のペースは一気にバルサへと傾いていくことになる。ユナイテッドは7分後に一度はルーニーのファインゴールで追いついたものの、その後は防戦一方。後半、メッシの強烈なミドルシュート、さらにビジャのゴールでスコアは3-1となり、完勝でビッグイヤーを掲げたのだった。

■名将ファーガソンもお手上げ

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かくして08-09シーズンに続いて決勝でバルサに敗れる形となったユナイテッドを当時率いていたのは、歴戦の名将アレックス・ファーガソンだったが、その彼をして10-11シーズンのバルサは「今まで私が対戦した中で最も強いチーム」「シャビとイニエスタの2人なら一晩中でもボールをキープできる」と言わしめた。何より、このときのバルサは観るものを楽しませるだけでなく、実際にプレーしている選手たちが誰よりもペップの斬新な、かつバルサの伝統的な要素も含むこのスタイルを楽しんでいたし、絶対の自信を持ってそれをファンに届けている雰囲気があった。自分たちのスタイルを一点の曇りもなく信じていたからこそ、先制して7分後に同点ゴールを許しても、彼らはまったくもってブレることなく、ボールを保持して試合をコントロールし続け、あっさりとユナイテッドを突き放すことができたのだと思う。

綺麗なポゼッションや緻密なプレッシングといった戦術的完成度の高さもそうだが、それ以上に信念を貫き続けて勝ち星を積み重ねて頂点まで駆け上がったチームだったからこそ、この10-11シーズンのバルサ以上に「美しく勝つ」を体現したチームは、他にないのではないかと感じる。

今シーズンもいよいよCLが開幕するが、注目したいのはそのペップが率いて4シーズン目に入るマンチェスター・シティが、10-11シーズンのバルサにどれだけ近づけるか。もちろん、シティはまだ優勝したことがないチームであって、バルサとは歴史も異なり、メッシという勝負強さの権化みたいな選手もいない。それでも、ここ数年のイングランドで見せてきた「美しく勝つ」メソッドと実際の勝ち方、それに完璧なチームバランスと緻密なプレッシング&ポゼッションワークは、当時のバルサを見たイメージに通じるところがある。

願わくは、決勝ラウンドのどこかでペップ・シティと本家バルサの対決が見てみたい。それがもしファイナルなら、最高のショーになること請け合いだ。

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