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異文化の中で歩む後悔なき道…元ドイツ代表DFベックはなぜトルコに新天地を求めたのか/独占インタビュー

2015年の夏、アンドレアス・ベックはドイツ南部ののどかな町、クライヒガウ(1899ホッフェンハイムの拠点)を去り、人口1000万を超える大都市、トルコのイスタンブールへ新天地を求めることになった。移籍後すぐに、彼はベシクタシュの主軸に定着し、15-16シーズンのチャンピオンタイトルを手にした。

だが、2016年にトルコでは数多くのテロやレジェップ・エルドアン大統領に反発するクーデター未遂といった事件が勃発。ベックはボスポラス海峡のほとりの街で、不安な時を過ごすことにもなった。

ベックは『Goal』の独占インタビューで、政治やテロ、難民問題に対する独自の見解を語ってくれた。シュペル・リグ(トルコのプロサッカーリーグ)とブンデスリーガの比較についても述べている。

■身の回りで起こっていることに無関心ではいられない

――ベック、あなたはすでに『Facebook』上ではトルコ語でファンに情報を発信していますね。ドイツ語を習得するのは難しいとはよく言われることですが(注:ベックは旧ソビエト連邦出身)トルコ語に関してはどうですか?

ああ、トルコ語のスキルはかなり進歩しているよ。とある女性教師に教わっていて、定期的に語学学校にも通っているんだ。時間に余裕がある時には積極的に授業に参加しているよ。トルコに来てから1年半経ったから、確かに進歩している。だけど、まだまだ上達の余地はあるね。聞き取りはほとんど問題ないんだけど、トルコ語を話そうとなるとそう簡単にはいかないんだ。

――先日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相がトルコのレジェップ・エルドアン大統領を訪問しましたが、政治について考えることはよくありますか?

もちろん。身の回りで起こっていることに無関心ではいられないから、何が起こっているのかいつも気をつけているよ。実際、トルコではたくさんのテロ事件が起こっているせいで、常に政治が焦点になっている。そういう時には自問せずにはいられないよ。「今、トルコやドイツでは、何が起こっているんだ」ってね。

――ドイツとトルコの関係は悪化していると考えられています。このことはトルコでも問題視されていますか?

日ごろ暮らしている中でその問題を耳にすることはそんなにないかな。だいたい僕は、前からずっと、ドイツとトルコの関係はうまくいっていると思っているんだ。ドイツには何百万人ものトルコ系移民が暮らしている。僕自身も、ドイツにたくさんのトルコ出身の友人を持っている。僕から見れば、ずっととても友好的な関係が続いていると思うよ。

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■イスタンブールに流れた緊迫感

――2017年、イスタンブールの新年は新たなテロ事件によって始まりました。昨年、多くのテロ事件があったにもかかわらず、あなたは身の危険を感じないと言っていましたね。今はどう思いますか?

僕の考える限り、今も状況は変わっていないね。ここにいても危険はないと感じているよ。いろいろな事件のことを思うと悲しい気持ちになるけれど、大晦日の夜からイスタンブールの情勢はずっと落ち着いているし、もちろん、この状態がずっと続いていくれればいいと思っている。テロがあった昨年の6月から、しばらくイスタンブールは緊張した空気だったからね。

――ところでアメリカのドナルド・トランプ新大統領が出した入国禁止令に対して、ブレーメンのアレクサンダー・ヌーリ監督が批判の意向を示し、関わりを避ける態度を取っています。これは正しい対応だと思いますか?

親しくない人のリアクションについて、個人的な意見を言うつもりはないよ。それは各自の自由だと思うけど、一般論としてサッカー界の人間がフットボール以外の事について、あれこれ考えるのはいいことだと思う。

■難民というテーマは他人事ではない

――あなたはロシア生まれで、3歳の時に家族と一緒に移民としてドイツへやって来ましたね。そのせいで、移民の問題に対しては人一倍敏感なのでしょうか?

どうだろうね…。僕はロシアで生まれたし、母はロシア人だ。僕たち家族はドイツでいい友人に恵まれて歓迎してもらったけれど、それでも生活していくのは楽ではなかった。そうそう、僕の妻はドイツ育ちだけどアイデンティティはクロアチア人だ。そして僕は今、お客さんとしてここトルコにいるんだからね。ベック家はとにかく多国籍な状況だね。

――では、異文化に親しむことは、あなたにとって昔から常に向き合ってきたテーマだったわけですね?

そうさ。環境に溶け込むというのは、生きていくうえで重要なことだ。だから僕はできる限りまわりに適応したり、言葉を学ぶ必要があると感じている。難民の問題について言うなら、それぞれが大切にしている文化やアイデンティティを尊重することが重要だと僕は考えている。それは、トルコで暮らす僕自身についても言えることだ。難民というテーマは僕にとって他人事ではないんだよ。たぶん僕は、自分の過去のせいで、ほかの人達よりいくらかこういう問題に過敏になっているのかもしれないね。

――文化という観点から見て、イスタンブールでの暮らしはどうですか?

イスタンブールはとにかく巨大で、毎日何か新しいことを経験することができるんだ。毎日ただ練習に行くだけで、町のヨーロッパ風の地区からアジア風の地区へ移動することになるんだ。オリエンタルと言うべきかな。だけどもちろん僕にとっての一番の関心事はフットボールだから、僕はできるだけフットボールに専念するようにしている。それ以外はたいてい家族と一緒に、そして最近はもちろん子供と一緒に過ごしているよ。

Vincent Aboubakar Andreas Beck Besiktas

■リヨンとの負けられない大一番がある

――では、フットボールの話題に移りましょう。16-17シーズンの出来は満足のいくものですか?

僕達ベジクタシュは今、順位表のトップに立っているしうまくやっていると思う(ベジクタシュは第27節終了時点で首位。2位バシャクシェヒルとの勝ち点差は5)。国内のカップ戦では早期敗退したけれど、そのかわりヨーロッパリーグにはまだ残っている。この後リヨンとの負けられない大一番(4月13日&20日)があるしね。僕個人に関してなら、順調と言っていいと思う。

――15-16シーズンは、あなたはレギュラーと言える存在でした。その後は度々選手の入れ替えが行われるという、この新しい状況をあなたはどう思いますか?

僕は常に最大限の力を出すことを目指している。だけど、僕たちはチャンピオンズリーグで戦ってきたから、それに応じてうまくローテーションしているんだ。僕のポジションでも僕とギョクハン・ギョニュルが交代でプレーすることについては、すでにシーズン前からチームのプランとして知らされていたよ。これまでのところ僕とギョニュルはうまくローテーションしてきたし、実際これが機能していると思うよ。もし3日に1度試合に出なければならないとしたら、体がおかしくなってしまう。それと、僕はチャンピオンズリーグのグループリーグ6試合ですべて先発を務めたから、それだけでもう満足だね。

――トルコのシュペル・リグにあって、ブンデスリーガにないものとは何ですか?

トルコでは観衆の応援が熱狂的だ。それがフットボールに強く影響していて、信じられないほどの緊張感がもたらされる。これは興味深いことだよ。ドイツのフットボールとはまったくの別物、とても感情的、とてつもなく競争心が激しい。それは、今まで上位にいたクラブが引きずりおろされるようなことがザラにあるのを見てもわかる。だから、トルコリーグで生き残るのは簡単なことじゃないんだよ。

――特にダービーはすごいですよね。

ああ、ダービーの時は完全に特別な雰囲気になるね。確かに、そういう雰囲気はブンデスリーガでは経験できないよ。とにかく、僕はブンデスリーガで10年過ごしたけれど、トルコと比べられるような雰囲気を経験したことはなかった。もしかしたら、ルール・ダービー(ドルトムントvsシャルケ)ならまだ少しは似たような感じがあるかもしれないけれど。まず見られないことだね。

――昨シーズン経験した優勝を振り返ってください。

ああ、トルコへ来た最初のシーズン、すぐさまチャンピオンになるなんて素晴らしいことだったよ。特に、その前にベシクタシュが優勝したのは2009年だったんだからね。正真正銘、ファンと一緒にお祭り騒ぎの1週間だった。公式の祝賀パーティーにスタジアムでの祝賀会、それにボスポラス海峡でのクルーズ……。どれもとても特別な経験だったよ。言葉ではとても言い表すことなんてできないほど最高の時間だった。

Andreas Beck Besiktas Genclerbirligi 22092015Getty Images

■ユヴェントスへの移籍話はまとまらず

――あなたは今トルコリーグでプレーしていましたが、イスタンブールではなくトリノ……つまり、ユヴェントスに移籍する話もあったと聞きます。ユヴェントスからのオファーはどこまで具体化していたんですか? また、どうして移籍にまで至らなかったのか教えてください。

あの時はユヴェントスから実際にオファーがあったし、交渉もかなり進んでいたんだ。だけど、残念ながらまとまらなかったってことさ。それでも僕は幸運だよ。そのおかげでベシクタシュへ来ることになったんだから。

――後悔はしていない、と?

もちろんさ! 今、ここでプレーできて良かったと心から思っている。フットボールに関してもプライベートな面でも、僕はここで素晴らしい時間を過ごしているんだからね。

――以前あなたのチームメイトだった、セバスティアン・ルディとニクラス・ジューレの2人が、2017年夏からバイエルンに移籍することになりました。彼らにビッグクラブ移籍のお祝いは言った?

ああ、言ったよ。僕はもうブンデスリーガにはいないけれど、ドイツで何が起こっているのか、しっかりチェックしている。今、ホッフェンハイムがチームとして好調を維持しているのは僕にとってうれしいことだ。セバスティアンとはまだ連絡を取り合っているし、もうお祝いも言ったよ。素晴らしいシーズンを送った後、満を持して、バイエルンへ移籍するんだから。これからもっと名声を手にしてほしいと思っているよ。

――では、最後にお尋ねします。アンドレアス・ベックというフットボーラーは、現役を終えた後はどうする予定でしょうか?

いくつかぼんやりと考えていることはあるけれど、もっと深く考えるには、まずもっと先の段階にならないとね。僕は3月に30歳になった。長い間ずっと大きなケガをすることなくやってきたし、コンディションも絶好だと感じている。いい状態を維持できているから、あと数年はピッチに立ち続けられると思う。僕にとっては、ピッチで毎日選手として頑張ることが、至上の喜びであり、そうあり続けたいことなんだ。僕は先のことを考えるより、むしろこれからも安定したパフォーマンスを出せるよう、研究し続けたいと思っている。だから、今はまだ引退後のことは考えたくないな……。ある日、そのことに真剣に向き合うようになったら、僕は引退を決意するかもしれない。

――まだしばらく現役でプレーできると確信しているんですね。

そうさ。今はみんなが応援してくれるよう、走り続ける毎日を楽しむことにしているよ。

取材・文=Roman Unger/ロマン・アンガー

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