現地時間11日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦セカンドレグ。リヴァプール対アトレティコ・マドリーは、延長戦の末に3-2でアウェイチームが勝利。2戦合計4-2で、アトレティコがベスト8に駒を進めた。
アンフィールドで行われた一戦。リヴァプールは7割を超えるポゼッション率を記録し、枠内シュート11本、コーナーキック16回と圧倒した。延長戦では逆転となるゴールを決め、確かに突破へ近づいた。しかし、ディエゴ・シメオネ監督の魂が乗り移った不屈のアトレティコはその後3点を追加し、聖地で歓声を上げたのだった。
この奇跡的な一戦を現地で見た記者は、何を思ったのだろうか? スペイン紙『ムンド・デポルティボ』アトレティコ番記者ハビ・ゴマラ記者によるレポートを、今回は特別に公開する。
文=ハビ・ゴマラ(Javi Gomara)/ スペイン紙『ムンド・デポルティボ』アトレティコ・デ・マドリー番
翻訳・構成・一部加筆=江間慎一郎
■答え
(C)Getty Images欧州でも新型コロナウイルスの感染が広がるなか、約3000人のサポーターがリヴァプールで応援することを強行。どうすれば、説明がつく? 彼らが応援するチームは今季、ほとんど死に体だったが、世界最高と名高いスタジアムを舞台にして、世界最高のチームを相手にして復活を果たした。どうすれば、説明がつくのだろうか? ほかに説明のしようがなく、しかしながら究極の説得力を備えた答えは、こうだ。
「アトレティコ・デ・マドリー」、これである。
ビートルズの町は月曜から狂気じみていた。その日から赤白のサポーターは町にやって来ていたが、スペインの首都から届くニュースは危惧すべきものだった。学校や高齢者施設の閉鎖が決定し、あまつさえ空港すら閉ざされてしまい、国内外の行き来がかなわなくなるとの噂すら流れた。だが、こうした混沌の中で、赤い町にはどんどん白が加わっていった。アトレティコがアウェーチケットの払い戻しを決めても、効果はなし。スペイン政府のスポーツ上級委員会が「無責任だ」と断じる中、赤い町にはどんどん赤白が混じっていった。リヴァプールへ、リヴァプールへ……。思いは、止められなかった。愚かしい者たち。愚直な者たち。情熱だけに生きる者たち。とどのつまり、愚かしい者たち。
試合当日、リヴァプールは赤と、それとは違う赤と、そして白の町になっていた。そして、その赤白が泊まるホテルの一つには、もちろんディエゴ・パブロ・シメオネ率いるチームが宿泊していた。彼らは午後6時、ホテルからアンフィールドへと出発している。
スペイン屈指、いやしかし世界最高と声高に叫びたいスタジアム、ワンダ・メトロポリターノでのファーストレグはアトレティコの先勝(1-0)に終わったが、それでも突破の本命はリヴァプールで変わらなかった。「あいつらはアンフィールドがどういうものなのか知らないんだ」、ワンダのドレッシングルームでリヴァプールの面々はそう話していたという。ただ、彼らにも予想し得ないことがあった。アンフィールドで、アトレティコの3000人の信奉者は、アンフィールドを占拠する大多数のサポーターをときに黙らせたのである。
■巨人
(C)Getty Images「アトレティコの人々が歌い始め、チームは前進するための活力を取り戻した。自陣から出て行くための勇気を手にできた」。シメオネは試合後、屈服寸前の選手たちが立ち直った奇跡について振り返った。そう、アトレティコは延長戦前半、もうタオルを投げ入れる寸前のところまでいったのだ。リングのコーナーで、ストイックに拳を浴びせてくるリヴァプールを前に、意識を保つだけで精一杯。それでも、決して倒れはしなかった。そして相手の拳が“空振った(GKアドリアンのパスミス)”のを見極めて(パスをカットしてスルーパスを出したFWジョアン・フェリックスの)から、右腕(マルコス・ジョレンテの右足のシュートによるゴール)の一撃をリヴァプールの顔面に見舞い、よろけさせた。
3000人の歓声が上がるリングで、顔面がボロボロながら目に闘志を宿らせて続けたアトレティコは、起死回生の一撃から一歩を踏み出して、リヴァプールにラッシュを仕掛けた。マルコス・ジョレンテがさらにもう一発。加えてもう一人のレアル・マドリー下部組織出身、モラタのよく空を切る強烈なストレートも決まった。リヴァプールは攻め続ける意思を示そうとしたが、前のめりでリングに沈んだ。ゴングがけたたましく鳴っている。
こうして、エクスタシーがやってきた。シメオネは気が触れたようにスペインとアトレティコの旗が振られるスタンドへと駆け寄っていった。モラタはひざまずいて、レアル・マドリーの選手時代にビセンテ・カルデロンを怒り狂わせる歌を歌ったことを謝った。ジョレンテがそんな彼に一番に駆け寄り、ともに勝利を祝った。ベンチのコーチと選手たちはまるで彼らの一人ひとりがゴールを決めたように喜んだ。また片方のゴールには……、ヤン・オブラクが凝然と立っていた。
スロベニアの巨人は水の入ったボトルをその手に取り、口に持っていって、もう一度地面に置き、両手を頭の上にやって拍手をし、空を見上げて、大きく息を吸い込んで吐き出した。永遠のように彼が見続けていた悪夢は、その瞬間に終わりを迎えている。この物語がハッピーエンドとなったのは、間違いなく彼のおかげだ。ユルゲン・クロップのチームは、このノックアウトラウンドを突破するのために十分な2ゴールを決めたが、オブラクはその得点数が2倍か3倍になるのを防いでいた。リヴァプールは34本ものシュートを放ち、そのどれもが良いシュートで、彼らがどういったチームなのかを確かに示した。だがしかし、彼らが目指した“そこ”には、オブラクがいたのだった。
■フットボールとは
(C)Getty Imagesフットボールは喜び。フットボールは苦しみ。フットボールは使えない選手との烙印を押されかけていたM・ジョレンテとモラタのゴール。フットボールはこれまですべて裏切られてきた最後の刹那の運。フットボールはアンフィールド。フットボールはそこでの抵抗と叙事詩。そしてフットボールは、オブラクなのである。個人タイトルに恵まれていないなど、世界では常識ではないらしいが、彼こそがフットボールだった。
試合終了後の祝宴は、しばらくの間続いている。三千の赤白の人々はアンフィールドで歓喜を歌声に乗せ、アンフィールドをワンダ(もしくはカルデロン)に変えてしまい、そんな彼らにチームの面々が近づき拍手で互いの健闘を讃え合った。どうせ負けるという前評判とウイルスの脅威にも、数週間前から購入していたチケットを握りしめ続けた愚かしい者たちは、あらゆる意味で“やっちまった”のだった。
ユルゲン・クロップは、アトレティコのプレーを理解できないと言ったが、アトレティコもそうした論理などはまったく理解できていない。心は根拠の分からぬ根拠を持ち、その心の根拠の中で進んできたのがシメオネのアトレティコなのだから。赤白の幸せの涙と赤の悲しみ――ビートルズの町のある夜に起こった出来事は、フットボールの歴史に確かに刻まれた。もし、誰かが「たかだかフットボールだろ?」と言うのならば、どうぞこの一戦を見ればいい。もし試合で起こったことの説明がつかない場合には、こう口にすれば十分である。
つまりは、「アトレティコ・デ・マドリー」、と。
P.S.リヴァプールからスペインの首都へと戻ったとき、もちろん彼らは新型コロナウイルスと真剣に向き合わなければならない。
日本の皆様も、手洗いや咳エチケットの徹底など、感染予防に努めてください。みんなで、このウイルスに打ち勝ちましょう!
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