ユルゲン・クロップの代理人を務めるマルク・コシツケ氏が、『Goal』と『DAZN』のインタビューに応じた。
現リヴァプール指揮官であり、2019年のFIFA年間最優秀監督にも選ばれたクロップ。かつてドルトムントでブンデスリーガ連覇の偉業を達成した男は、2015年から指揮を執るリヴァプールを着実に常勝軍団へと成長させ、昨季は14年ぶりのチャンピオンズリーグ制覇を達成。今季もリーグで唯一の開幕6連勝を達成し、クラブ史上初のプレミアリーグ制覇へ最高のスタートを切るなど、マージーサイドのクラブをけん引し続けている。
そんなクロップの親友であり、代理人を務めるコシツケ氏が“親友”と称する52歳の熱血漢との出会いや彼の素顔、妻ウラとのエピソードを語ってくれた。
そして、クロップがなぜこんなにも特別な存在なのか、なぜ政党や大企業の関係者までもが彼にコンタクトを求めるのか。それにもかかわらず、なぜクロップはごく普通の生活を送ることに満足しているのか、その秘密を明らかにする。
インタビュー=セバスティアン・ベネシュ
■熱血漢との出会い
Getty――コシツケさん、あなたは数年来クロップのエージェントを務めていますね。それにはどういう経緯があったのですか?
「私は長い間アディダスで、その後はナイキで働いていた。ある時ユルゲンが当時のお抱え弁護士を連れて私たちの事務所へやって来たんだ。それから何度か話し合って、彼はナイキのブランド・アンバサダーになった。2003年のことだ。その後2007年に私は独立して仕事をすることに決めた。もちろん、その時は特にユルゲンのことをターゲットとして考えていたわけじゃない。今でも覚えてるんだが、彼に別れを告げに行って、『これからいわゆる怪しげなアドバイザーになるつもりだ』と言ったんだ。すると彼は答えた。『え? 僕も誰か探しているところなんだ。君はナイキじゃちっとも金を払ってくれなかったから、そろそろお返しをしてもらってもいい頃だな』ってね。そんなわけで、わりとすぐに一緒に仕事をすることが決まったんだよ(笑)」
――今では、あなたはたくさんの監督を担当していますね。たとえば、フロリアン・コーフェルト(現ブレーメン)やサンドロ・シュヴァルツ(現マインツ)、ユリアン・ナーゲルスマン(現ライプツィヒ)などです。言ってみれば、あなたは監督のアドバイザーという“ニッチ”を自分で見つけ出したのでしょうか?
「いずれにせよ、私ははっきりとそこに狙いを定めていたね。なぜなら、私はいつも考えていたんだ。フットボールにおいて最も重い責任を担う監督に対して、外部からのサポートは最も手薄になっているとね。選手なら誰にでもアドバイザーやマネージャーがついているのに、一方で監督は、特にうまくいってない時でも一人ぼっちで仕事をしている。当時の私は、成熟した人々と一緒に仕事をするのを非常に楽しんでいたよ。中には、ちょうど今の私のように、父親のような年齢の人もいたんだから。最初のうちは多くのクラブにとって新しい試みだったが、今ではすっかり定着しているね」
――普段仕事のある日はどんなふうに過ごすんでしょうか?
「私には普通の意味での“普段の日”というものはないんだ。そのせいで妻は困ったりもしてるんだがね。毎週毎週違ったことが起こるから、妻は前もって準備するということができないんだ。初めの頃は、特に営業活動をしていることが多かったよ。ユルゲンと私が最初に下した決断は、マインツをやめることだった。そして2番目の決断は、ZDF(ドイツの公共放送局)の解説者の仕事を終わらせることだった。これはユルゲンの妻ウラはまったくもって気に入らなかったようだけどね。ピザのカートンを持ってその場に立っていたウラから言われたことは、決して忘れられないよ。『コシツケ、あなたは今とんでもない厄介ごとを抱え込んでるのよ。私たち一家の収入源を2つともつぶしてしまったんだから』って(笑)。その時点で、ユルゲンにはまだ何も新しい仕事がなかったんだからね」
――その後あなたはどうしたんですか?
「まずは、決定権を握る人々にユルゲンのことをよく知ってもらうのが重要だった。ユルゲンは人をやる気にさせるのが得意で情熱的な監督だというだけでなく、綿密な仕事をする信じられないくらい素晴らしい監督だってことをね。彼の人気はちょっと下り坂だったんだ。しばらくして、ついにいくつか良いオファーが来た。マインツを去っていた彼は、いわば自分で自由に選ぶことができた。彼がドルトムントへ行くことに決めたのは悪い決断じゃなかったね」
■現代社会で理想のリーダー像?
Getty Images――今では、クロップはワールドクラスの監督として知られています。メディアからの多くの問い合わせにはどう対処していますか?
「数人で分担してやっているよ。リヴァプールに関する問い合わせはすべて、メディア部門のチーフであるマット・マッキャンが担当している。ドイツからの問い合わせについては、以前ドルトムントのスポークスマンだったヨゼフ・シュネックが昔からの縁で今も受け持ってくれている。ヨゼフは今もドルトムント時代の古いメールアドレスを使っているから、“bvb.de”で終わるアドレスに宛ててリヴァプールの監督について問い合わせしなければならないっていうので、たいてい初めは変に思われるんだ(笑)。だがリヴァプールへ来てからは、ユルゲンはもうメディアからの問い合わせは受け付けていないんだよ。商売上の問い合わせに社会活動を目的とする問い合わせ、あるいはトークショーへの出演依頼もあってキリがないからね。政党まで彼に何かを期待するようになっているんだから。もしユルゲンが望むなら、彼は至る所に顔を出すことができるだろうね。それでも、彼は監督という自分の仕事にしっかり集中しているよ」
――経済界からも多くの問い合わせがあるようですね。スポーツ界の人間の何が、財界の大物たちの心を捉えているのでしょうか?
「大企業や中企業の経営者は、誰もがリーダーシップというテーマに強い関心を持っている。人間というのは変化するものだ。リーダーシップの問題は、昔は今よりいくらか権威主義的に処理されていたかもしれない。だが今では“チームの中に良い雰囲気を作り出して最大の成果を得るにはどうすればいいか”が問題になっている。その意味で、ユルゲンは多くの者にとって模範的な存在なんだ。様々な国籍、様々な社会的・文化的背景を持ち、まだ非常に若い選手たちが集まっているチームで、彼はリーダーシップを発揮しているんだからね。それに別の面から言えば、彼はある確固たるイメージを外に向かって発信しているんだ」
――具体的にはどういうことですか?
「ユルゲンが関心を持っているのは、次の試合日に勝利を収めるということだけじゃない。選手たちがクラブをどう思っているか、誰にとっても気持ちよく仕事ができる環境が整っているか、ということに常に気を配っているんだ。そのためには、毎日の仕事に喜びを感じられるようにするのが根本的に重要なことだ。彼はいつも『ここにみんなで集まっているからには100%の力を出し切ろうじゃないか』と言っている。つまり、そういうことが混じり合っている何かだ思うんだ。自分の仕事が毎日世間からあれこれ言われても、彼はそれでへこたれたりはしない。四半期ごとの数字によって評価される大企業のトップなら、毎日周りからの評価に晒されるされることはないけれど、ユルゲンの場合は、どんなふうに仕事をしてどんな様子に見えるか、毎日自分のことを書き立てられている。そして、それにもかかわらず自分の仕事を立派にやり遂げている。まさにそこが企業のトップたちを惹きつけるんだよ」
――ニューヨークでリヴァプールとの話し合いが行われた時、サラリーの話になると、クロップはあなたを残して部屋を出たと聞いています。詳しくはどういうことだったんですか?
「あれはそんなに珍しいことじゃないんだ。サラリーのことが話題になれば、だいたい監督は同席しないものなんだよ。監督とクラブの間に良い雰囲気が流れて、ずっとそのままでいるのが望ましいからね。だから、“バッファ”としてのエージェントの存在に意味があるんだ。ユルゲンは『そうか、これからお金の話なんだね。それじゃあ私はちょっとセントラルパークへ散歩に行ってこよう』と言ったんだが、これはアメリカで仕事をしてきた彼ら(リヴァプールのオーナー企業であるフェンウェイ・スポーツは、アメリカのスポーツクラブ経営会社)にとっては非常に異例なことだった。あの日彼は、きっと10個は帽子を買ったろうね。人に気づかれずにいなければならなかったし、話し合いはちょっと長引いてしまったから。その後、彼から何度もSMSが届いたよ。『様子はどうだ?』とか『いったいいつ終わるんだ?』とか…。私たちはまだ時差ボケもしていたしね。とうとう部屋の全員が腰を上げたんだが、みんなが腹の中で『うまくやったぞ』と思っていたよ。向こうは望んでいた監督を手に入れたし、私たちの方は納得できる金額を受け取れるようになったんだから」
■クロップ“秘密のレシピ”
Getty――あなたはリヴァプールへ行くと、クロップの家に泊まるそうですね。2人はどういう間柄だと思いますか?
「私たちは“本物の仲間同士”だ。わりと早い時期からはっきりわかっていたけどね。ナイキにいた頃からもう、私たちはぴったり息が合っていたんだ。呆れるほどおしゃべりしたものだよ。一度、フランクフルト空港で飛行機に乗り遅れそうになったこともあったよ。2人で2、3杯ビールを飲んで煙草を吹かしていたら、スチュワーデスが来て言ったんだ。『クロップさんと、それからたぶんコシツケさんですよね? ずっとお呼び出ししてたんですよ』って(笑)」
――クロップの“秘密のレシピ”とはどういうものなのでしょうか?
「私は、ひとつの時代精神のようなものだと思っている。一方で彼は、トップクラスの監督ならそうでなければならないように、フットボールというものをよく理解している。だが別の面から見ると、人間との付き合い方こそが彼の最も重要な能力だ。それはまったく独特なものだからね。周りの人に対して惜しみない信頼を寄せ、責任は自分で引き受ける。そのことは、特に彼のトレーニングスタッフたちがよく知っているよ」
――彼はどうやって信頼を伝えるのですか?
「自分より何かしらの面でうまくやれる人たちと付き合い、それを彼らに任せることを厭わない。それに彼には天賦の才がある。雄弁で、独特の調子で話し、レトリックを駆使することができる。正しいタイミングで正しいポイントを指摘するのは、学んでできることじゃない。それに、彼はどんなに成功しても自分では大したことだと考えず、まったく脚光を浴びたいとも思っていない。いつかユルゲンが仕事をやめたら、もう彼の姿を見かけることはあまりなくなるだろうと私は思っている。引退したら、彼は家族や友人たちと過ごし、犬を連れて散歩に出かけ、パドルテニス(縮小版テニス)をしたりスカート(トランプのゲーム)をやったりして楽しく暮らすだろう。ユルゲンはごく普通の人間で、それはまた過熱したメディアの世界では非常に特異なことだから、彼はかなり独特な印象を与えているんだよ」
■次の目標はプレミアリーグ制覇
Getty――クロップ指揮の下、リヴァプールはチャンピオンズリーグで優勝を果たし、素晴らしい躍進を遂げています。彼のさらなる目標は?
「今のリヴァプールを見れば、チャンピオンズリーグを制した後に何が起こったのかがわかる。リヴァプール自身はそれほど意識していないにしても、外部から見れば間違いなくそこにある非常に大きなプレッシャーからひとまず解放されたんだ。おまけにUEFAスーパーカップでも優勝することができた。リヴァプールの関係者たちは、現在進行中のプロセスを誇らしく思っているだけでなく、再びタイトルを手中に収めることができて非常に喜んでいる。だから、まだ何かユルゲンに目標が残っているとすれば、それはプレミアリーグで優勝することだろうね」
――プレミアリーグでの優勝を目指すのはこれから先も難しいことでしょう。
「その通りだ。プレミアリーグにはまさに“6強”と呼ばれる強豪チームがある。ちょっと前にユルゲンは非常に穏やかな調子で、『我々リヴァプールが抱える最大の問題は、マンチェスター・シティだ』と言っていた。どうなるかはこれからわかるだろう。ユルゲンの契約はまだ2022年まで残っているし、その前にクラブが契約の延長を望むだろうというのは、公表されてはいないものの誰もが知っていることだ。だが、それまでにはまだ少し時間がある。あらゆることがどう展開するか、それに気候変動のせいでイングランドが今よりも好天に恵まれるのか、あるいはドイツにしか好天をもたらさないのか、それを見究めなければならない」
――天候の悪さがクロップを悩ませているのですか?
「兎にも角にも、天候の問題は軽視するわけにはいかない。11月か12月に、リヴァプールが事前に契約の延長を問い合わせてきたのを覚えているが、その時私は『まだ待つ方がいい』と言ったんだ。朝ウラとユルゲンが起き出す時、外は真っ暗だ。夕方また2人が顔を合わせる時、外はやっぱり真っ暗だったり薄暗かったりして、霧雨が降っている。ドイツでは、ウィンターブレイク中に天気が悪い時には、クラブは2週間の休暇に入るんだ。休暇から戻ると、すぐに飛行機に乗って太陽の照る場所にあるトレーニングキャンプへ出かけて、そこで何日か過ごすことになる。イングランドの監督は、その間に13試合をこなさなければならないこともある。疲れることだし、簡単なことじゃない」
――クロップと友情を育み一緒に仕事をしてきた年月の中で、一番面白かった出来事は何ですか?
「そもそも、この12年間に起こったことは何もかもが美しく、素晴らしい出来事ばかりなんだ。私たちは、時にはブレーメン出身のマルク少年とグラッテン出身のユルゲン少年に戻ったり、あるいはスポーツを学ぶ2人の学生に戻ったりして、自分たちの人生に起こったことを話し合って笑っているよ。以前ドルトムントがキルヒベルク・イン・チロル(オーストリアのチロル州にある村)でトレーニングキャンプをやっていた時に、当時オペル(ドルトムントのスポンサーを務めるドイツの自動車メーカー)の会長だったトーマス・ゼドランと彼の相談役の2人と同席していたんだ。2人は翌日の4時半に起床して、飛行機で次のミーティングに駆けつける予定になっていた。一方のユルゲンと私は、9時にジョギングに出かける約束をしていた。その時ユルゲンが2人を見つめながら尋ねたんだ。『大学で何を勉強したの? 経営学かな?』って。後で彼は笑い転げていたよ。大学でスポーツを学んだ私たち2人は、たっぷり睡眠をとれる上に悪くない仕事にありついているというのに、向こうの2人は真夜中にもうまた背広に着替えなきゃいけないっていうのでね(笑)。ユルゲンといると、いつもそういう時間を過ごせるんだよ」
▶プレミアリーグ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【関連記事】
● DAZNを使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
● DAZNが「テレビで見れない」は嘘!6つの視聴方法とは?
● DAZNの2019年用・最新取扱説明書→こちらへ ┃料金体系→こちらへ ※
● 【簡単!】DAZNの解約・退会・再加入(一時停止)の方法を解説 ※
● 【最新】Jリーグの試合日程・放送予定一覧/2019シーズン
● Jリーグの無料視聴方法|知っておくと得する4つのこと
「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です



