ルーカス・ポドルスキは、面白い人だ。
常に笑顔を絶やさず、視線は前に向いている。サービス精神が旺盛で、SNSを活用したファンとのコミュニケーションを欠かさない。
取材の合間には冗談を言って周りを笑わせ、我々を見つけると「久しぶり」と声をかけてくれる。前の取材を座ってこなしていたら体がなまったらしく「ちょっと体を伸ばしたいから立ってインタビューやろう!」なんて、提案してきたりもする。(そんなわけで、お互い立って話をしました)
ポドルスキは気さくな人だ。
Jリーグでプレーした経験を持つ元西ドイツ代表のピエール・リトバルスキー氏は「(ポドルスキは)オープンな性格だし、日本への適応は問題ないよ」(※1)と、“お墨付き”を出したことがある。
いたずらが大好きで、ドイツでは「Spaßvogel(ひょうきん者)」として言わずと知れた存在だ。来日前には、こんな動画への出演も快諾したほど。
ポドルスキは来日を待ちきれない様子
— Goal Japan (@GoalJP_Official) 2017年7月4日
7/6(木)11:50~
ヴィッセル神戸加入記者会見&独占インタビューは #DAZN でライブ配信!@vissel_kobe@Podolski10#vissel#Poldi#ようこそPoldi#strassenkickerpic.twitter.com/7EdNYZHbZu
もちろん、結果が出ない場合は感情を露わにする人間的な一面もある。
しかし、それも含めて、ポドルスキは素敵な人だ。
ではなぜ、多くの人を魅了するポドルスキはフットボーラーとなり「日本」という選択をするに至ったのだろうか? 今回は、彼の活躍を足元から後押しする『アディダス ジャパン』の協力の下、独占で話を聞くことができた。
彼が持つJリーグへの思いとは? フットボーラーとしての信念とは?
インタビュアー=大川佑(Goal編集長) 協力=アディダス ジャパン
Getty Images■世界を知る男が語る「Jリーグの魅力」と「目指すべき場所」
ヴィッセル神戸に加入して以来、12試合に出場して5得点。最近では第30節のサガン鳥栖戦でゴールを決めた。さらにその2試合前、第28節のアルビレックス新潟戦では相手守備陣をドリブルで翻弄して豪快なシュートを叩き込んでみせた。
「この数週間でとても良くなってきていると思う」とポドルスキは話す。
「いいチームと対戦した時、僕らのほうがうまくプレーしたのに勝ち点3を取れないアンラッキーな試合もいくつかあった。だけどこの数週間、4、5試合はよく走れている。最後までこれが続くといいと思っているよ。そうすればいいシーズンを送れるはずだ」
彼はかつてケルンやバイエルン、アーセナルやインテルに所属し、トップレベルで活躍した経験を持っている。ドイツ代表で130試合49得点という輝かしいキャリアを誇る男に、Jリーグはどう映っているのだろうか。
そんな質問を投げかけると、開口一番に返ってきた答えは「リーグ同士を比べることなんてできない」だった。
「アジアはヨーロッパから10時間も離れている。僕らはヨーロッパのチームと対戦しないし、そういう選択肢もない。もし僕らがヨーロッパのチームと毎週対戦するなら、メンタリティの違いを比べられるんだけどね」
その上で、JリーグにはJリーグの素晴らしさがあると強調する。
「Jリーグには素晴らしいスタジアムと素晴らしいチームがある。例えば浦和レッズはアジアチャンピオンズリーグの準決勝に残っているよね(編集部注:インタビュー後、決勝に進出)。とてもJリーグにとっていいことだ。マーケティング面でもいいことだと思う。Jリーグはもっと成長することができる」
「僕が力になれれば嬉しい。海外からもっとプレーヤーを呼んだり、マーケティング面も成長できることを願っているよ」
Jリーグの発展に貢献したい――。
これはポドルスキが来日のときから口にしていることだ。では、具体的にどんな方法で、サッカー人気を上げていけると考えているのだろうか。
「詳しいことは分からないけど、日本は野球にフォーカスしているよね。一番人気のスポーツだ。僕たちはそのギャップを埋めないといけない。野球とフットボールのギャップをね。野球にもっと近づかなければならない」
「これはJリーグが目指すべきことだと思う。僕はリーグのトップではないから、ただ全力でプレーして自分にできることをやるだけだよ。野球との差を縮めることは、Jリーグの仕事だと思う。色々なことができると思うよ。子どもたちは道端でボールで遊ぶのが好きだしね」
「僕は僕のできることしかできない。ピッチの中でも外でもね。そして他の選手やクラブも後に続いてくれると嬉しい。もっとフットボールをする子どもたちに焦点を当てていくことも大事だ。もちろん、野球は日本でとても重要なものだし、無視してはいけないが、差を埋めなければいけないと思う。今の差はとても大きいからね」
「日本のナショナルチームは素晴らしいけど、日本でフットボールをもっと魅力的なものにしていかなければならない。マーケティングやその他の面で。素晴らしいスタジアムがあるし、ファンは味方にも敵にもとても良い雰囲気を作ってくれる。それに、観客席はいつもほぼ満席だ。だから僕たちはそういった点を、Jリーグをもっと良いものにしていくために使わなければならないと思う」
■海外日本人選手がJリーガーにもたらす影響力とは?
海外で活躍する日本人選手に関する質問をしたとき、興味深い答えが返ってきた。
「大迫(勇也)が(故郷の)ケルンでゴールを決めてくれているよね。ただ、僕がケルンの試合を見るのは僕の故郷のチームだからさ。だから、特にチェックしている選手がいるわけじゃないんだ」
そう前置きしつつ、語り始めたのは、Jリーグのことだった。
「たくさんの日本人選手がヨーロッパでプレーしていて、とてもいいマーケティングになっている。Jリーグでプレーしている選手にとってもいいことだね。Jリーグで活躍すればドイツなどのヨーロッパのチームに行ける。これはJリーグでプレーする選手たちや子どもたちにとって、とてもいいことだと思うよ」
「Jリーグだけではなくヨーロッパでプレーするチャンスもある。とても素晴らしいことだよ」
日頃からJリーグや日本のサッカーのことを考えてくれていることを、象徴する回答のように感じられた。欧州リーグや海外で活躍する日本人選手のことをもう少し聞きたいという気持ちを抑えつつ、こんな質問をしてみた。「Jリーグでプレーしてみて、欧州で活躍できると感じる選手はいますか?」と。
「分からないな。選手それぞれにやり方があって、僕個人が『ヨーロッパでプレーするためにはこれをすべきだ』なんて言うことはできない」
最初はそんな風にかわされてしまったが、次第に欧州で活躍するために必要なことを明かしてくれた。
「ハードワークして、いいプレーをしなければならないし、ヨーロッパに行くことは簡単なことではない。気持ちの準備も必要になる」
「簡単なことではないよ。日本人選手はテクニックやパス技術に優れているけど、もしイングランドやドイツで活躍したいなら、もっとパワーやインテリジェンスの面で準備が必要になると思う」
(C)Goal■少年時代の自分…サッカー少年少女に伝えたいこと
アディダスが発表した新たなカラーパック『PYRO STORM PACK(パイロストームパック)』(10月5日発売)にちなみ、スパイクに関する質問も聞いた。
「(スパイクを履くとき)ルールのようなものはないね。ただ時々試合前に温かい水をかけることがある。スパイクを少し柔らかくするために」
「僕はパワー、スピードが武器のプレイヤーだ。スパイクは選手にフィットしないといけないし、フィットすればうまく動ける。それらが全部うまく合わさった時に、気持ちよくスパイクを履ける。それが重要なことなんだ」
そう、ポドルスキは熱っぽく語る。
最後にお願いしたのは、プロサッカー選手に憧れる子どもたちへのメッセージだった。彼は少し間を置き、言葉を選びながら、自身の思いを語ってくれた。
「子どもたちに何をすべきかを伝えるのは難しいな。僕が子どもの時はいつかどこかのクラブでプレーすることを夢見ていたよ。学校で、ストリートで、クラブチームで、毎日サッカーをしていた」
「今までの人生はずっとフットボール一筋だった。ハードワークしていたし、パーティやクラブに行ったり、ガールフレンドと遊んだりはしなかった。フットボールのことだけを考えていたよ。ストリートで5対5や6対6を友達とよくやっていた。それがとても良かったと思う。パワーもテクニックも必要で、すべての要素が詰まっていたからね。これが僕の学び方だった。フットボールをストリートで学んだんだ」
「フットボールを愛している。他の選手たちは別のことを考えていたけど、僕はフットボールだけだった。もちろん、年齢が上がるにつれて運も必要になってくるよ。自分を欲しがり、プレーさせてくれるコーチに出会うとかね。そして、もしプレーできるチャンスが来たら、実力を証明しないといけない。コーチやクラブに、自分は準備万端だということを見せないといけないんだ。それが、僕がやってきたことだよ」
フットボールに人生を捧げ、フットボールとともに歩んできた。そんな男が今、日本を選び、仲間たちとともにJリーグを変えようと奮闘している。
彼はどんな未来を、日本のサッカーファンに見せてくれるのだろうか。
「フットボールを愛している」
ルーカス・ポドルスキは、信念を持つ男だ。
だからこそ、その言葉に偽りがないことを、Jのピッチで示し続けてくれるに違いない。
インタビュアー=大川佑(Goal編集長) 協力=アディダス ジャパン
※1.ポドルスキのJリーグ神戸移籍をリティは大歓迎「日本で笑顔を取り戻すはず」
