アーセナルはどこに向かっているのだろうか。
どこに目標を置き、どのような体制で、どのようなフットボールを目指し、どのように実現していくのか。ピッチ上のリーダーは誰で、チームをまとめるのは誰で、誰が指示を出し、誰が味方を鼓舞し、誰が勝利へ導くのか――。
ここ数週間のアーセナルには、それがほとんど見えなかった。エミレーツ・スタジアムは、冬のロンドンと同じように分厚い雲がかかっている。
■後任
Getty22年間クラブのすべてを握ったアーセン・ヴェンゲルが去ってから、ウナイ・エメリに指揮が託されたこと自体は悪くなかった。
しかし、初年度は22試合無敗を記録するなど素晴らしい時期もあったが、最終的にチャンピオンズリーグ(CL)出場権は獲得できず。ファンの理解は得られなかった。生まれたネガティブな雰囲気が尾を引き、2シーズン目は常に批判にさらされ続け、27年ぶりに公式戦7試合で勝利なしと陥った時点で、エメリはクラブを追われることとなった。
プレミアリーグ上位を目指すどころか降格圏が近づき、指揮官や選手の目からも光が消え失せていた。試合後会見では「良いパフォーマンスだった。選手はよくやってくれた」と繰り返すばかりで、解任以外選択肢はなく、必然の決断だっただろう。だからこそ、本人も「プロフェッショナルな姿勢」で受け入れ、解任後には公式HPを通じて「アーセナルで監督を務められたのは本当に誇りだった」と感謝のコメントを残した。
クラブはエメリ解任時の声明で、正式な指揮官を探していることも発表している。
具体的な関心を示していることが明らかとなっているのはヌーノ・サント(ウォルバーハンプトン:監督)、ミケル・アルテタ(マンチェスター・C:コーチ)、マッシミリアーノ・アッレグリ(フリー)。だがヌーノやアルテタはクラブで重要な仕事を任されており、シーズン中の引き抜きはあり得ないだろう。アッレグリに関しては「今季いっぱい休養する」と明言しており、最低でも来夏までは招へいできない。結局、エメリ後に任命する正式な指揮官は未だ決まっていない。フレディ・ユングベリが暫定で指揮を執るまま、2週間が経過した。
■無関心
Getty Images今季同じく成績不振でマウリシオ・ポチェッティーノを解任し、ジョゼ・モウリーニョを招へいしたトッテナムとは大きく差をつけられた。ライバルチームはポチェッティーノ解任をメディアに知られる前に行い、12時間以内にモウリーニョ着任を発表している。世界的な名将を迎えたスパーズは、以降公式戦5試合で4勝1敗。見事に立て直し、4位チェルシーの背中も見えてきた。
これを見れば、近年の成績だけでなく、クラブ運営でもトッテナムに完敗だ。
怠惰な運営はここ数シーズン顕著であり、直近5年で行った補強は成功したとは言い難い。ダニー・ウェルベックら現在すでに退団している5選手の獲得に7000万ポンド(約100億円)近くを費やした。今夏クラブ史上最高額7200万ポンド(約97億円:当時)で加入したニコラ・ペペもインパクトに欠け、ダビド・ルイスも守備陣を引き締めることはできていない。一方で、アレクシス・サンチェスやアーロン・ラムジーといった全盛期の選手たちをフリーで手放し、安価で放出したヴォイチェフ・シュチェスニーやセルジ・グナブリーといった選手は、それぞれイタリア、ドイツのチャンピオンチームで主力を務めている。2016-17シーズンからは、毎シーズン移籍収支が7000万~1億ポンド(約143億円)近いマイナスだ。
そもそも昨年11月には、ヴェンゲル後のクラブの舵取りを担うはずだったイヴァン・ガジディス前CEOが去り、スカウト部門のトップだったスヴェン・ミスリンタートも去っていった。今夏OBエドゥをテクニカルディレクターに迎えてようやく体制は整ったが、それまではドタバタ続きで全くうまくいっていない。
このような状況は、大株主スタン・クロエンケの“無関心”が大きな原因だ。クラブにそれほど興味のないアメリカ出身の大富豪は、現在自身が所有するアメリカン・フットボールのロサンゼルス・ラムズ本拠地移転計画に熱心であり、アーセナルは二の次である。何かとつけて「健全な経営」をアピールしているが、クラブが危機に陥っても予算を追加することはない。
『Goal』の取材では、ラウール・サンジェイを筆頭としたフットボール部門の責任者は早い段階での指揮官交代を提案していたことがわかっている。しかし、クロエンケは首を縦に振らなかった。混迷の中でもクラブの株価は上昇しているため、変化は必要ないと判断したのだろう。今夏からは息子のジョシュが積極的にアーセナルに関わり、エメリ解任後も選手たちの前でスピーチを行うなど歩み寄りは見せているが、実権を握るのは父スタン。ジョシュは声明で「エミレーツは、私と家族にとって特別な場所」と話したが、父の目がクラブに向けられなければ、改革は難しい。
■最後の希望

明確な決断を下すべき存在がその役割を果たせない以上、混乱に陥るのは必然であり、強いリーダーシップがなければ、クラブが路頭に迷うのは当然である。ヴェンゲルというカリスマが去ってから、アーセナルには“意志”が感じられなくなった。
大株主のスタンスは今後も変わらないだろう。となれば、残された道はピッチ上の人間が何か特別なことを起こすしかない。
ユングベリが率いた最初の2試合、それぞれ下位に沈むノリッジ・シティ(2-2)、ブライトン戦(1-2)では変化は見られず。2試合とも内容でも敗れ、OBマーティン・キーオンに「降格圏のチームみたいだ!」と言われた、その時のままだった。
それでも、第16節のウェストハム戦では、分厚い雲の間から一筋の光が差した。前半は低調な戦いで先制点も許す悲惨なパフォーマンスだったが、この日プレミアリーグ初先発を飾った18歳が嫌な雰囲気を変えている。ガブリエル・マルティネッリは、60分に同点弾を叩き込んだだけでなく、90分間で20本近くスプリントを記録した。試合開始から最後まで攻守においてチームのために走り続け、鼓舞し続けた。若武者に引っ張られるように、ペペとピエール=エメリク・オーバメヤンにも久しぶりのゴールが生まれて3-1の逆転勝利。敵地で前半ビハインドを背負った後の逆転勝利は、7年ぶりのことだった。選手たちは、何かが吹っ切れたように2カ月ぶりの勝利に感情を爆発させた。
その手腕には疑問が残るものの、少なくとも選手たちはユングベリへ厚い信頼を寄せている。GKベルント・レノは「ハーフタイムでフレディが勇気を出すべき状況を提示してくれて、僕らはそれを実行した。彼は穏やかだけど、とてもまっすぐだ。良い感じだよね」と、暫定指揮官の効果を喜んだ。主将オーバメヤンも「フレディはよりテンポを上げろといって、僕らは自分自身を信じて勝利できた」と話している。試合後にピッチ上で次々と笑顔でハグをかわす姿は印象的だった。前監督の英語力を揶揄していたとされる選手たちだが、黄金期を知るOBによってそのメンタリティに変化が生まれるかもしれない。少なくとも雰囲気が変わったのは事実だ。
ようやく手にした勝利。ようやく芽生えたほんの小さな希望の光。が、現在の順位は9位だ。これ以上勝ち点は落とせない。今季もCL出場権を逃すことになれば、契約更新に応じないオーバメヤンとアレクサンドル・ラカゼットは去ることが濃厚で、自立経営モデルも再編が迫られる。主力の退団は確実だ。本当の意味で、後がない。
そうして迎える次節の相手は、マンチェスター・シティ。こちらもすでに今季4敗を喫し、首位リヴァプールとは暫定で17ポイント差。優勝戦線に生き残るためには1試合も落とすことはできず、死に物狂いでエミレーツへ乗り込んでくるだろう。
これ以上に浮上のきっかけとなる一戦はない。儚い希望をかけて、王者に挑戦する。マンガのような真のラストチャンスで、彼らは何を見せられるのだろうか。
文=河又シュート(Goal編集部)
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「※」は提携サイト『 Sporting News 』の提供記事です





