2017-11-01-Shonan©J.LEAGUE

湘南ベルマーレ、苦難を乗り越えJ1復帰…4つのポイントで振り返る“再スタート”のシーズン

2017年10月28日、湘南ベルマーレが1年でのJ1復帰を果たした。翌29日にはJ2優勝を確定させ、ホームのサポーターとともに歓喜の美酒に酔いしれた。3試合を残してのJ2優勝――。2位以下を大きく引き離しての優勝だったが、シーズンを振り返れば、決して順風満帆の1年とは言えなかった。メンバーの入れ替わりや主力の負傷。苦難が続く中、どのようにしてこの1年を乗り越えたのか。4つのポイントから曺貴裁体制の6年目を振り返る。

■優勝の原動力になったものとは

2012年に曺貴裁監督がトップチームの指揮を執って6年目、攻守に能動的に仕掛けていくいわゆる湘南スタイルは、積み重ねた年月の分だけ周囲にも認知されてきた。2012年と2014年に果たした2度の昇格の実績も影響しているだろう。湘南対策は進み、対戦する際の相手の温度もともに高まっている。かたやチームは新陳代謝を繰り返し、圧倒的な成績でJ2を制した2014年を知るメンバーも多くが入れ替わった。そうして「0からのスタート」を掲げた今季、しかし、シーズン序盤に主将の高山薫がケガで長期離脱を余儀なくされ、藤田征也や副将の菊地俊介ら前回の昇格の経験者も同じくピッチを離れた。厳しい船出だった。

開幕から勝ち点こそ積み上げたが、たとえば第6節、カマタマーレ讃岐に0-3で敗れたように、不安定感は拭えなかった。だが敗戦はもとより、勝敗に左右されることなく粛々と内容を見つめ、修正しながら、一歩ずつ、半歩ずつ彼らは歩を進めた。ケガで全員が揃わない中、「誰が引っ張っていかなければいけないかと見たときに、自分がやっていかなければと思った」と岡本拓也らが語るように、それぞれが自覚を強めた。

苦しい試合は、彼らに戦いの幅ももたらした。ゲームの流れを読み、相手の時間帯を感じ取ればブロックを築いて攻撃を受け止める。あるいは1-0で勝利した第38節・愛媛FC戦のように、ポゼッションは譲りながらもセットプレーでゴールをこじ開け、難しい展開の中でも勝ち点3をもぎ取るなど、自分たちが大切にしているスタイルを育みつつ、勝つための振る舞いを身に付けた。相手を圧倒するような試合は少ない。だがリーグ最少失点が示すように、局面でそれぞれが身を挺し、粘り強く僅差を制して勝ち点3を積み上げていく。

公式戦のパフォーマンスを引き上げたのはトレーニングにほかならない。球際を激しく渡り合い、紅白戦をはじめ公式戦さながらの熱量がピッチを包む。「試合に出ている選手と出ていない選手がこんなに同じ空気で練習しているチームに所属したのはプロ生活で初めてだ」と、今夏から加わったドラガン・ムルジャは舌を巻いたそうだ。

「それこそが我々の力の源」だと、曺監督は言った。選手にあまねく目を向ける指揮官の下、選手一人ひとりの自覚と日々の切磋琢磨が週末につながり、その毎節の積み重ねが39試合目に結実したのだった。

■ターニングポイントとなった一戦

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シーズン前半、アビスパ福岡と僅差の首位争いを演じていた湘南は、前半戦を2位で折り返し、第22節で首位に立った。だが、それから間もない第24節・モンテディオ山形戦で今季3度目となる0-3の大敗を喫してしまう。立ち上がりからアグレッシブな姿勢が影を潜め、球際で後手を踏み、セカンドボールから押し込まれた。完敗だった。

つかの間のオフが明けると、彼らは練習初日からビーチトレーニングで追い込み、目の前の一戦に持てるすべてを傾ける自分たち本来の姿勢をあらためて見つめ直す。そうして翌節の徳島ヴォルティス戦から4連勝を含む12試合負けなしを記し、混戦模様のリーグを抜け出した。内容を見つめ、自らに矢印を向け続ける彼らを端的に表した転機のひとつと言えるだろう。

■今季のキーマンは帰ってきた守護神

主将の高山や副将の菊地らが長期離脱するなか、最後尾でチームを支えたのがGK秋元陽太だった。1年ぶりにチームに復帰した背番号1は、持ち前の鋭い反応はもちろん、流れを読んでゲームをつくり、また厳しく叱咤するばかりでなく状況に応じたコーチングも意識した。菊地の離脱から間もない第18節・徳島戦からはキャプテンマークも引き受けた。

仲間への働きかけは、ピッチの上だけではない。「自分がなにかしらのいい影響を与えられれば」と、ともに食事に行くなど年下の選手と過ごす時間を大切にした。

優勝を決めた第39節・ファジアーノ岡山戦では1失点こそ喫したもののビッグセーブを重ね、仲間を鼓舞した。「湘南をJ1に上げたい。結果で恩返ししたい」。開幕を前に語られた言葉がシンクロする。そのプレーには、チームを思う強い自覚がシーズンを通して宿っていた。

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■曺貴裁体制、3度目のJ2で身につけたものとは

今季のチームは前述のとおり、前からボールを奪いに行く、奪えば縦に素早くゴールを目指すといった、これまでに培った自分たちのスタイルはそのままに、試合中に必ず訪れる苦しい時間帯になにをすべきか、勝つための振る舞いを、シーズンを通して身に付けた。

2014年のように独走のままリーグを駆け抜けたわけではなく、2012年のように連勝と連敗が交互に訪れたわけでもない。山形戦のような完敗もあれば、同じく0-3で敗れた第14節・福岡戦や2-2で引き分けた第31節・横浜FC戦のように、素晴らしい内容が最良の結果に結ばれぬゲームもあった。なかなか全メンバーが揃わないなかで、第7節・東京ヴェルディ戦のように神谷優太や杉岡大暉、石原広教、齊藤未月ら次代を担う若手が躍動した戦いも印象深い。

もちろん両ゴール前の精度など、攻守において伸びしろは尽きない。ただ、「首位だからという余裕はまったくなかった。いつ落ちるんだという危機感しかなかった」と秋元が振り返ったように、苦しい記憶が多くを占める今季の経験と、それを通じて深めた戦いの幅は、トップリーグでシビアなシチュエーションに向かい合った際にきっと活きるに違いない。苦い経験も逆境もそのすべてを糧に、個人もチームとしても成長した彼らは来季、ふたたびJ1の舞台に立つ。

文=隈元大吾

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