J2降格圏までの勝ち点差はわずか2。清水エスパルスにとって残りの6試合は、どれも死力を尽くして戦うべきものになるに違いない。そして次節、ホーム・IAIスタジアム日本平で迎え撃つのは宿敵・ジュビロ磐田。勝利を収めれば、必然的にチームは勢いづく。静岡ダービーは清水のその後の戦いを左右する重要な一戦になるだろう。
現在のチームの中で誰よりも静岡ダービーを知る男、枝村匠馬。アカデミーからトップチームへと進み、何度も静岡ダービーを経験してきた。プロ1年目、2005年10月22日の磐田戦でプロ初先発を飾ると、そのままレギュラーの座を獲得。翌06年は第16節のダービー初得点から4試合連続ゴールなどシーズン通算9得点を挙げて、自身のプレースタイルを確立した。枝村にとっての静岡ダービーはプロとしての分岐点といえる。
「絶対に勝たなければいけない」――。10月14日の決戦に向けて静かに闘志を燃やす男が、静岡ダービーとJ1残留への想いを語った。
――静岡ダービーの記憶はいつ頃からありますか?
枝村 小さい頃からダービーは観ていました。1994年のリーグ初のダービーは延長戦でトニーニョがゴールを取ったんですよね。その試合はテレビで観ていました。そこからは、ほとんど見ていると思います。
――アカデミー時代にも静岡ダービーはあったと思います。その印象はどうでしたか?
枝村 その頃は頻繁に練習試合などでジュビロと対戦していたので、「たくさん試合をやったな」という程度の記憶ですね。もちろん対抗意識みたいなものは持っていて、「負けてはいけない」とは思っていましたが、プロほどシビアな世界ではなかったのかなと。
――ダービーの中で一番印象に残っている試合は?
枝村 やっぱり(1999年の)チャンピオンシップですね。ジュビロはそれまでにも年間チャンピオンになっていましたが、エスパルスは初優勝がかかった試合だったので負けた瞬間はさすがにショックを受けました。
――05年にトップに昇格して、最初のダービーは覚えていますか?
枝村 本当に緊張しましたよ。アマチュアの世界との違いを感じましたね。ただ、プロで初めて先発した試合がダービーだったんです。どちらかというと、緊張したのは初先発だったからという方が大きかったのかもしれません。
――第13節鹿島アントラーズ戦で途中出場からプロ初出場を果たしましたが、それから初先発となった第28節の静岡ダービーまで出場機会がありませんでした。どのような経緯で先発になったのですか?
枝村 たしか、その時はけが人が多かったんですよ。それで他に選手が誰もいなくて自分が使ってもらえたのかなと。ただ、そこで試合に出られたのはラッキーだったというか、運も左右したのかなと思います。
――その試合では両チーム最多となる4本のシュートを打っています。
枝村 全然覚えていないですね。どんなシュートを打ったのかも、どんな展開だったかもあまり……。ヒョウさん(兵働昭弘/現ヴァンフォーレ甲府)がゴールを決めたのは覚えています。ただ、プレー自体は自分の中でそれなりに良かったなと思っていましたし、実際にここから試合に出られるようになりました。きっかけになった試合なのかなと思います。
――その翌年、06年の対戦ではダービー初ゴールを決めました。
枝村 相手のボールを奪って、そこからドリブルしてシュートですね。そこで決められたことは良かったんじゃないですかね。「何で入ったんだろう」という感じでしたけど。だから、これまで出場してきたダービーの中で一番印象深いのが、このダービーですね。
――09年のダービー(第23節)では2得点を挙げています。
枝村 自分の得点もありましたけど、今までのダービーの中で一番良い勝ち方をした試合ですね。早い時間帯に点差が付いたので、大量点(5-1で勝利)につながったんだと思います。
――これまでダービーに出場してきて、対戦相手として一番印象に残っている選手は?
枝村 前田遼一選手(現FC東京)かな。やっぱり勝負どころで決めてくる。チームとしても抑えようとしていましたが、前線で何でもできる選手だったので対戦していて嫌だなと思っていました。
――逆に清水でいつも活躍していた選手は?
枝村 チョ・ジェジン選手は本当にすごかったですよね。タイプ的には前田(遼一)さんのような感じで何でもできましたし、そういう選手がチームメイトにいたのは頼もしかったですね。

――ところで、前回のダービーは悔しい結果になりました。
枝村 一言で言うと“歯が立たなかった”。チームとしても調子が良くなかったですし、チームの完成度も相手の方が高かったです。自分も53分間の出場にとどまりました。パフォーマンスも冴えていなかったし、それは仕方がないと思います。相手に早い時間帯で点を取られてしまったし、うちは攻守ともにまだ形が確立されていませんでした。
――今回のダービーはどのような展開を予想していますか?
枝村 今の両チームの状況を考えると、やっぱりジュビロがボールを支配するゲームになると思いますね。個々も強いし、組織も強い。全ての面で上回られているなと思います。
――警戒すべき選手を挙げるとすると?
枝村 やっぱり(中村)俊輔さんじゃないですか? ボールが全て俊輔さんのところで収まりますしね。磐田に移籍してきて、存在感がより際立ってきているなと思います。ボールを持ったら上手いのはもちろん、何より見ているところが違います。前回の対戦では決定的な仕事をされた上に、それ以外のところでは周りが安心するようなプレーをされてしまいました。そういう選手がいればチームとして上がってくるなと感じました。
――清水のキーマンは誰になりそうですか?
枝村 それを挙げるのは難しいと思います。チーム全体で戦わないと、太刀打ちできないのかなと。前節の大宮アルディージャ戦もそうでしたが、ある程度ラインを下げて戦うことになると思うので、個人というより全員の頑張りが必要です。
――その大宮戦では、それまで続いていた複数失点が止まりました。静岡ダービーを戦う上でプラス要素になりますか?
枝村 ホッとした部分はあるかもしれないですけど、それがまだ安定していません。だからこそ、ここで無失点に抑えて、勝つことで自信にしたいです。
――その上で今回はどのような展開に持ち込みたいですか?
枝村 もちろん絶対に勝たなければいけません。ただ、点の取り合いになってしまうと難しくなると思うので、まず失点をしないようにするという“シブい”展開に持っていく方が、勝算があるのかなと思います。そういえば、河井(陽介)がこんなことを言っていました。「最近のエスパルスは劣勢の状況の方が勝てる」と。自分としてはボールを持てている試合の方が勝っていると思っていたのですが、そうではないようです。だから、今までそういうジンクスみたいなことは信じていませんでしたけど、河井の言葉を信じてみます。
――ダービーも含めて残り試合は何が大事になりますか?
枝村 とにかく勝ち点を取ることです。ダービーはもちろん、それに加えて残留争いの直接対決を落とさないこと。直接対決は相手も死に物狂いで向かってくるだろうから、簡単にはいかない。ただ、それでも絶対に勝たなければいけないと思います。
――残留に向けての意気込みを聞かせてください。
枝村 当然、できるだけ早くJ1残留を決めたい。15年に一度J2に落ちていますし、その時のつらさは自分だけでなくみんな忘れていません。今年残留することができたら、若手がもっともっとチームに絡んでくるだろうし、今、台頭してきている若手ももっと成長してくれるはずです。そして、その若手がチームを引っ張る存在になってくれると思います。
――最後にダービーを楽しみにしているサポーターに向けて一言お願いします。
枝村 サポーターの方々には、ここまで厳しい戦いをしている中でも諦めずに応援してもらっています。だからこそ、このダービーは自分たちが結果でそれに応えなければいけません。前回は負けてしまいましたが、それを今年中にやり返すチャンスでもあります。もう一度サポーターに喜んでもらえるようにとにかく勝利を目指します。
●インタビュー・文=田中芳樹
