11月4日のJリーグ・ルヴァンカップ決勝で川崎フロンターレを2−0で下し、悲願の初タイトルを獲得したセレッソ大阪。この大一番後の最初の公式戦が18日のJ1第32節・横浜F・マリノス戦だった。チームは2週間の調整期間を得たが、山口蛍、杉本健勇、キム・ジンヒョンの3人は代表活動から合流したばかり。特に欧州から帰国して2日間練習しただけの日本代表コンビのコンディションが懸念された。
そのマイナス影響が出たのか、この日のセレッソはやや出足が鈍かった。追い打ちをかけたのが、前半13分のダビド・パブンスキーのミドル弾。寄せが甘くなった水沼宏太は「入りがムチャクチャ悪かったので(相手に)入れられてもしょうがない展開だった。優勝してからの1戦目だけに、いい入り方をしなきゃいけなかったのに甘さが出た」と反省しきりだった。
早い時間帯のビハインドを取り返そうと、そこからも彼らは攻撃の主導権を握ったが、尹晶煥監督が「前半は中央ばかりにこだわりすぎていた」と指摘する通り、中へ中へという攻めが目立ち、中澤佑二ら横浜守備陣に阻まれる。32分の杉本、前半終了間際の柿谷曜一朗の決定機も決められず、嫌なムードのまま前半を折り返すことになってしまった。
しかし、後半に入ると彼らは外からの崩しにシフトし始める。この意識が結実したのが、後半19分の清武弘嗣の同点弾だった。水沼のサイドチェンジを受けた丸橋祐介が中に折り返した瞬間、少し下がり目の位置から飛び出してきた背番号46が左足を一閃。喉から手が出るほどほしかった1点を手に入れた。
「前半は僕が中にいたんですよ。でも相手が4−4−2で守っていてブロックを作られてしまった。そこでマルが『後半、キヨ君は蛍とソウザの近くにおった方がいいよ』と言ってきた。僕はちょっと下がりながらボールを触って、そこから出て行ってゴールすることができた。相手も2枚目から出てくる選手をつかみ切れていなかったんで、うまくいきました」と清武はチーム内でいいコミュニケーションが取れたことを明かす。
尹監督も「選手たちがうまく話し合って修正できた」と高く評価していたが、今季のセレッソは自己解決能力が格段に上がったのは確か。もともと個人能力の高い清武、柿谷、山口といった面々が揃っているのも大きいが、彼らが自らアクションを起こしていけるようになったのが躍進の大きな要因になっているのは間違いない。
清武の一撃で火がついたセレッソ攻撃陣はここから爆発する。4分後には左に開いた柿谷からのパスを受けた清武は、左足ダイレクトのバックヒールでゴール前に配球。ここに水沼が侵入し、逆転弾を蹴り込む。「とりあえず曜一朗を狙ったら、そこに宏太がいた」と本人も苦笑いした。それでも「あそこに人がいるってことが今のチームの距離感のいい証拠。それはすごくいいこと」と前向きに語った。かつてドイツ・ハノーファーで背番号10を背負い、見る者を魅了した清武が本来の凄みと鋭さは取り戻してきたことはチームにとって力強い要素に他ならないだろう。
さらにこの2分後には、丸橋の右CKをエース・杉本が得意のヘッドで3点目。25歳のバースデーを自ら飾ると同時に、今季通算ゴールを20の大台に乗せ、興梠慎三(浦和)とともにランキングトップに並んだ。
「15点くらい取り出した時から20っていうのを目標にしてきた。それを通過点として超えたことはよかったです。でもまだ2試合あるから1番になりたい。2番だったらホンマ、ベッタ(ビリのこと)と一緒やと思うんで。それは慎三君だったり悠(小林=川崎)君も同じ気持ちだと思うから、楽しみにしてもらえたらと思います」と日本代表の大型FWは不敵な笑みをのぞかせた。
11月のブラジル(10日=リール)・ベルギー(14日=ブルージュ)では続けて途中出場したが、得点を奪えず不完全燃焼感を抱えて帰国した。その悔しさもJ1得点王タイトルへの思いを後押しする材料になっている。
「日本と世界の違いを俺が語ったら『お前ごときが何を言ってんねん』って言われるだろうけど、やっぱりブラジルと日本は事実として違うと思う。あいつらに勝つために何をしなくちゃいけないかを考えてやらないといけない。俺1人だけが頑張っても勝てるわけじゃないけど、1人1人が何かを感じて意識して変えていかないと。自分のその1人。もっとレベルを上げることにフォーカスしてやっていくつもりです」と杉本は目を輝かせた。ここまで彼が成長への強い意思を押し出したのは初めてかもしれない。エースの覚醒もセレッソの大きな力になっている。
終盤にはヨニッチもゴールし、終わってみれば4−1の圧勝。勝ち点3を積み上げ、ACL圏内の3位をキープ。横浜との上位対決を制したことで、2014年以来のACL出場権獲得にまた一歩前進した。前々から「ACL圏内」と強調し続けてきた山口蛍も「今日勝つと負けるじゃ全然違うと思うし、そういった意味では直接(対決)で勝てたのはホントに大きい」と力を込めた。彼はブラジル・ベルギー2連戦でフル出場しながら、この日も疲れを感じさせないパフォーマンスを披露。鉄人ぶりをいかんなく発揮している。杉本も「蛍君は(代表で)2試合全部出て、今日も出て走って、ホントにすごいと思います」と驚嘆のコメントを口にしていた。このタフさと泥臭さがあるから、今季のセレッソは攻守両面で安定感をキープしていられる。中盤のダイナモの絶大な存在感が改めて浮き彫りにされた一戦だった。
残すところ今季J1はヴィッセル神戸とアルビレックス新潟の2戦のみ。神戸もクラブ内の不協和音が報じられ、新潟もJ2降格が決定。チーム全体が難しい状況に陥っている。そういう相手を確実に叩くことがACLをガッチリ手にする絶対条件だ。彼らにはまだまだペースを上げ続けてほしいものだ。
文=元川悦子
