今季の目標:主力としてフル稼働し、2部リーグ制覇に貢献する
結果:ダービーなど要所で輝きを放つも、最終盤に出番を失った
採点:65点
文=遠藤孝輔
■初の海外挑戦、ダービーでの“ジャガーポーズ”
イングランドでの就労ビザが許可されず、アーセナルからシュトゥットガルトへの期限付き移籍が発表されたのは、ブンデスリーガ2部第3節が行われた昨年8月26日だった。獲得に携わったスポーツディレクターのヤン・シンデルマイザーは「完璧な補強になった」と即戦力としての期待を口にしていた。
もっとも、新天地への適応がスムーズにいく状況ではなかった。新たなチームメイトと連携を磨くために必要なプレシーズンキャンプなどに参加できなかったし、国外リーグ初挑戦という不安材料もあったのだから。この段階では、レギュラーをつかむには相応の時間が必要と目された。
しかし、初めてメンバー入りした第4節のハイデンハイム戦でリーグデビューを果たすと、オラフ・ヤンセン暫定監督の初陣となった翌5節のカイザースラウテルン戦で先発に抜擢される。この記念すべき一戦で2トップの一角を務め、その後は4-1-4-1システムの2列目サイドが主戦場になった。
浅野にとって頼もしかったのは細貝萌(今年3月に柏レイソルへ移籍)の存在だろう。自身の特徴をよく知る同胞が、自らの持ち味であるスピードを活かそうとするパスを何度となく供給してくれたのだ。チームに溶け込むうえでも力になったのは間違いない。
初ゴールを記録したのは第11節のカールスルーエ戦だった。ドイツ南部屈指の熱狂度を誇るバーデン=ヴュルテンベルク州ダービーで先制弾を叩き込み、お馴染みの“ジャガーポーズ”をドイツで初披露した。日を追うごとに深まったのは同期入団のシモン・テロッデ、カルロス・マネとのコンビネーションだ。1ゴール1アシストを決めた第14節ニュルンベルク戦後には、両雄とともに「スーパートリオ」(ビルト紙)と称された。
ただし、計2ゴール・4アシストをマークした前半戦の出来を考えれば、第28節カールスルーエ戦での2得点のみに終わった後半戦の結果は物足りない。最終盤はアレクサンドル・マキシム(ルーマニア代表)やヨシプ・ブレカロ(クロアチアU-21代表)とのポジション争いで後れを取り、昇格が懸かったラスト3試合で一度もピッチに立てなかった。
■ライバルの加入とマルチタスク
大きな転機は冬に訪れた。ウイングを本職とするジュリアン・グリーンとブレカロがチームに加わり、浅野の定位置がサイドアタッカーからインサイドハーフに変わったのだ。このコンバート直後の2試合は優れた状況判断を活かした好プレーを見せ、ハネス・ヴォルフ監督の抜擢にしっかりと応えたが、徐々にパフォーマンスレベルが低下。結果的にインサイドハーフとしての先発出場は6試合に留まった。
浅野は今季、ウイング、インサイドハーフ、2シャドーの一角、2トップの一角、1トップと前線のあらゆるポジションでプレーした。監督から与えられた役割をこなすのが選手の務めとはいえ、ポジション変更によるタスクがコロコロと変われば、よほどのマルチロールでないかぎり、安定したパフォーマンスを継続的に示すのは難しい。
一方、プラスに働いたのは加入時に指揮を執っていたヨス・ルフカイが、第4節終了後にチームを離れたことだろう。シンデルマイザーSDとの確執が取り沙汰された彼は、若手の起用に消極的な考えを持っていたからだ。ルフカイの電撃辞任がなければ、22歳の浅野が早いタイミングでレギュラーの座をつかむことはなかったかもしれない。
■散見された“天を仰ぐ”場面
改善の兆しが見られなかったのは決定力不足だ。右足、左足を問わずにフィニッシュのクオリティーが伴わず、決定機を逸して天を仰ぐシーンが散見された。数多く訪れた得点チャンスを考えれば、二桁に近いゴールを記録してしかるべきだった。
ただ、フィールドプレーヤーの中ではチーム7位のプレータイム(1670分)を記録するなど、年間を通して戦力になっていたのは事実。大きなケガをせずにシーズンを乗り切ったのも収穫で、自慢のスピードがドイツでも明確な武器になることは証明した。とりわけチームがカウンター狙いに徹した際の縦への推進力は圧巻だった。
2部リーグで4得点に終わった事実を考えれば、アーセナルが諸手を挙げて復帰を受け入れる可能性は低く、現時点では残留が有力視される。対戦相手の質が一段も二段も上がるブンデスリーガで課題を乗り越え、飛躍を遂げるような2年目に期待したい。
■移籍の可能性は?
20%
保有権を持つアーセナルに復帰するうわさはなく、シュトゥットガルトのシンデルマイザーSDは5月上旬の時点で、ドイツメディアに「拓磨が残留する可能性は高い」と明かしている。6月中には去就がはっきりする見込みだ。
文=遠藤孝輔
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