うわさに聞いていた日産スタジアムの巨大さに思わず表情がほころんだ。
日本代表とのキリンチャレンジカップ2017を翌日に控えた9日、ハイチ代表が試合会場となる日産スタジアムで公式練習を実施。かねてから「日本代表に入りたい」と話していた日本とハイチのハーフで、アメリカを含めた三カ国の代表資格を持つMFザクリー・エリボも元気に姿を見せ、チームメイトともに約1時間にわたって体を動かした。
スタジアムへ入ってきた瞬間、アメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)のニューイングランド・レボリューションで同僚の小林大悟と話していた内容を思い出し、日本代表と対戦する実感が湧いてきた。
「ダイゴさんから『めっちゃデカいよ』って聞いてて。こんなデカいスタジアムでプレーするのは初めてだから楽しみ」
ザクリーはアメリカ・ボストンから移動してきたこともあり、練習前に時折あくびをするなど時差ボケが残っている模様。練習後にはチームの様子を「そう、時差ボケ(笑)。ホテルでもみんな、めっちゃ寝てる。ザグは結構日本に来るから、頑張って起きてるけど」と得意の関西弁を駆使しながら笑った。
MLSのニューイングランド・レボリューションと契約後、オフシーズンには母・美樹さんの出身地でもある大阪に何度も“帰郷”しており、日本に来るのも昨年12月以来だという。彼自身も大阪で生まれて3歳まで育った慣れ親しんだ国ではあるが、今回は全く違う気持ちで日本の地を踏んだ。
「いつもは家族と一緒に大阪へ帰ってくるけど、今回は試合のためだから気持ちが全然違う。明日は日本で初めてサッカーの試合をするし、おじいちゃんもテレビで見てくれていると思うから」
病床にある母方の祖父は現在、大阪府内で入院しているが、愛する孫が日本代表と対戦するというニュースを見聞きして「うれしい。頑張ってほしい」と話していたそうだ。
祖父を元気づけるためにも、そして自身の未来を切り開くためにも、今回の日本代表戦では気持ちの入ったプレーを見せたいところだ。この日の練習前にはマルク・コラ監督に呼ばれてベンチに座り込み、メモを見せられながら戦術の説明を受けた。
「あれは全部タクティクスの話。メンバーはタクティクスを考えて監督が決めることやけど、チャンスが欲しいから、練習から頑張ってる。もし出たら、めっちゃうれしい」
出場機会を得て活躍すれば、将来のJクラブ移籍、そして日本代表入りの可能性が広がる。いずれは「日本でプレーしたい」と考えているが、今回はいったんその思いを封印する。
「今はハイチ代表だからね。チームのためにプレーしたいし、ハイチ代表のために頑張って勝ちたい。一番大事なのはチーム。めっちゃ自信はあるし、それが大事だと思う。フィールドに出て、自信がなかったら何もできない。それが一番大事だから」
ハイチ代表デビュー戦は、まさかの日本代表戦。日を追うごとに報道量が増え、注目を集める存在となっている。ここで活躍して闘病中の祖父に吉報を届け、そして自身の未来を切り開きたい。
強い気持ちで臨む日本代表戦は日産スタジアムで10日の19時30分にキックオフを迎える。長髪をなびかせて疾走するザクリー・エリボのプレーに注目しておいて損はない。
文=青山知雄
