リーグ・アンも残すところ4分の1になった。
開幕後間もない8月から20位に定着しているメスは、残り試合でなんとかプレーオフ(リーグ2との入れ替え戦)出場のチャンスが得られる18位まで順位を上げたいところ。現時点で18位にいるトロワとの勝ち点差は『8』だ。
そのトロワとは、つい先日、2月17日の26節で対戦した。GK川島永嗣の数々のファインセーブにも助けられて終盤まで0-0をキープしたが、残りあと2分というところで痛恨の失点。惜しくも1-0で敗れた。直接対決での勝利には、相手から勝ち点3のチャンスを奪い、自分たちがそれを得る、すなわち6ポイントの価値がある。最低でもドローは目前だっただけに、この敗戦はメスの選手たちに精神的なダメージを与えた。
さらに翌27節のギャンガン戦も、アウェーながら2-1とリードしていたところを、86分に同点にされての痛恨のドロー。
そして次の28節、17位と残留当落線上にいるトゥールーズとの重要な対戦も、前半戦のリードが守りきれず、84分に同点弾を決められて勝ち点1にとどまった。
3試合続けて残り10分を切った時間帯に勝ち点を失う…。
■キーパー泣かせのPSG戦に
そんな心が折れてしまいそうな状況の中、3月10日に行われた29節では、最強パリSG戦に彼らの本拠地パルク・デ・プランスで挑んだが、結果は5-0の完敗。
フル出場でゴールを守った川島永嗣は、前半、相手のシュートコースがまったく切られていない、むき出しの状態で4ゴールを浴びた。
川島自身、そのうちの2本については「止められたかもしれない」と悔やんだが、チーム全体もやや落ち着きを取り戻した後半戦はスーパーセーブを連発。
目立ったセービングだけでも際どいチャンスを4度潰した川島のパフォーマンスがいかに際立っていたかは、レキップ電子版で毎試合行われているその日のTOP選手投票の候補5人の中に、2得点をあげたクリストファー・エンクンクやキリアン・ムバッペらPSG勢に混ざってメスから一人だけ挙げられていたことでもうかがえる。
それでも5失点を喫した直後の川島の表情はさすがに厳しかった。
「いやもう、前半はひどかったと思います。ボールにもプレッシャーに行けていなかったし、プレッシャーをかけにいく努力も足りなかったし、守備の面でもプレッシャーにいくのかゾーンにいるんだかわからないすごく中途半端な状況だったので、パフォーマンスはよくなかったと思います」
相手がPSGということでメスの選手たちに多少萎縮した部分もあったのかと尋ねると、「それもあるとは思いますけど、それにしても前半は自分たちのエフォート(努力)が足りなかったんじゃないかと思います。(後半は)もっと行けていたと思うし、相手に簡単に突破されない、というのは後半のほうができていたのかな、と思います」と冷静に振り返った。
「自分たちとしては、いまのこの状況で何かしなくてはいけない。パリ相手にどれだけやれるか、というのはあったと思いますけど、それにしてもちょっと前半は…」
前半はメス側にもクロスバーに当てたシュートなど、何度かチャンスがあっただけに、後半と同じようなパフォーマンスが序盤からできていればと悔やむ気持ちはもっともだ。
■「切り替えるしかない」
しかし崖っぷちにいるメスに悔やんでいる暇はない。川島の意識も、しっかり先々の試合に向けられていた。
「切り替えるしかないです。この試合もそうでしたけど、もう戻れないし、1試合1試合が本当に勝負。勝ち点をしっかり自分たちが重ねていかないと」
ドローに終わったトゥールーズ戦のあとも、川島は「チームは希望を持っている」と前向きに話していた。
「今シーズンは前半戦まったく勝てなくて、何をしていいのかわからないという感じがあった。けれど今は自分たちがやることが見えている。12月から1月はいい感じだった。2月は勝てていないけれど、ここを自分たちで乗り越えていかないと残留はないので」
そして自分自身に課せられた使命をこう表した。
「ひとつのセーブが結果を変える。僕自身はそれを繰り返すことでしかチームに貢献できない。だから集中して流れを変えられるように。自分が少しでもやれることを増やすことでしかチームは変えられないから」
国際マッチデーも控え、メディアの関心はW杯に行きがちだが、現地でもそれを聞かれるたびに川島はこう答えている。
「このチームを残留させられなければ意味がないと僕は思っているので」
■諦めず前を向くメス
トゥールーズ戦の後だったか、フレデリック・アンツ監督が話していた。
「後がない、という緊張した中でプレーしていると、テクニック面でも出せる力が十分に出し切れないこともある。しかもそれが毎週毎週続くんだ。選手たちにとってそれがいかに厳しい状況であることか…」
という言葉からは、ギリギリの状況で戦っている選手たちの様子がひしひしと伝わってきた。しかしそんな逼迫した挑戦に、メスの選手たち、そして川島は、覚悟をもって臨んでいる。
「諦める理由はなにもないし、数字的にも可能。あとは本当にどれだけ自分たちがそれに全力で取り組めるかということ。『こだわり』だと思います。自分たちのやることに集中して、1試合、1試合を…」
残るは9試合。勝ち点8差は不可能な数字ではない。
一戦、一戦、神経を研ぎ澄ませ、集中して残留へ向けての戦いに挑んだ後には、必ず、選手たちの手にその挑戦から得た産物が残る。
取材・文=小川由紀子


