201998

橋本英郎コラム:「27」のつぶやき(2)

■難しかったシーズン序盤

シーズン開幕直前の第1回からだいぶ時間が経ってしまいました。今回は今季のこれまでのことと西野監督、神戸のボランチについて話をしたいと思います。

これまでを振り返ってみると、シーズンの入りはそれほど良くなかったと思います。2連勝スタートはしたけど、先がなさそうな雰囲気のある戦い方ではあったと思います。戦い自体に手応えはなかったですね。

その後は自分自身もその流れに完全に飲み込まれた感じでした。うまくどうやっていくのかが見えないままの流れに巻き込まれて…、ごちゃごちゃしたまま進んでいました。コンディションは最初よりはちょっとずつ出る時間が短くなった時のほうが良かったですが、逆にその時には試合に絡めなくなって。

出場機会が減っていったのは、移籍の難しさというものというわけではなかったと思います。チーム戦術がはっきりしなかったという問題だったのかなと。タク(野沢拓也)も最初の頃はすごく苦しんでいて、僕と同じぐらいパフォーマンスは上がっていなかったですけど、彼の場合はセットプレーという武器を持っている分、外せないというところがあったと思います。僕よりミスが多い試合があっても外れなかったし、そういう強さで出ていることでパフォーマンスも上がっていったと思います。もう今ではタクのチームじゃないかなっていうぐらいまとまっているというか、形になってきている気もします。そう思うと、移籍というよりは戦術云々のところで僕がうまく消化できなかったことの方が大きかったのかなと思います。


■G大阪時代とは違いが見える神戸での西野監督

そして、西野監督が来ました。僕としては、ガンバの時にやってきたスタイルと、神戸のみんなが今までやってきたスタイルがあまりにも違うので、それをどう変えて、どう強くしていくつもりなのかということにはすごく興味を持っています。

慣れればすぐにできるようになることなのかなと思ったりもしますが、今はガンバと同じ練習、例えばボール回しをしていても全然スムーズにいかない。それでも最初はフォーメーションからのシュートをしてもうまくいかなかったみたいで、僕が入った時にはみんなが「だいぶ良くなってる」と言っていたので、続けることでスムーズになるのかなとは思っています。最初はちょっと残念な感じを受けました(苦笑)

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監督の発言の内容は、ガンバの時と変わってきていると思います。ガンバの時は、基本的に自分たちがボールを持つことに関して細かく言うことはありませんでした。それがガンバというチームのベースだったから。ただヴィッセルでは、守備がベースだということを言い続けています。そこからポゼッションに少しずつ近づけていければいいという感じなのかなと。ガンバの時は、ポゼッションをベースに、守備の時の入りをどうするかということをすごく言うというアプローチの仕方だった。だから逆ですよね。西野さんとしてはやりやすいと思いますよ。守備の方を強化していくのが得意というタイプではないのかなと思いますから、先に守備があることで安定感の上に攻撃を出していける。攻撃の発想力やコンビネーションの動くタイミングという部分は今もずっと練習でやってはいるので、変わってきているとは思います。


■「動くこと」を求められてきた神戸のボランチ

ここからは神戸のボランチについて話をしたいと思います。周りからは「神戸のボランチはボールがつなげない」とよく言われていますよね。これは印象の違いかもしれないですけど、僕は依然に比べてすごく良くなったと思っていました。ボランチが課題だということは以前から言われていて、西野さんが来てからもそれは言われ続けていますが、(大屋)翼にしてもヒデ(田中英雄)しても、変なところでボールを失うことはあったとしても、チームの流れという意味ではすごく良い方向に流していっている気がしたので、なぜそんなに(良くないと)言われ続けているのかはわかりませんでした。

ボランチ2人が出し手のタイプじゃないということはあったと思います。試合を見ていると、2人とも裏まで走って行くことが多い。それはそれで簡単ではありません。だから、そこの発想の違い。出し手が欲しかったら良くないのかもしれないけど、「走れる」ということを選ぶのであれば2人はすごく良かった。走らなくて良い時にも走っていることもあったとは思いますけど。

以前はチーム全体として無駄走りがすごく評価されるというところはすごくありました。西野さんはそのあたりを言っているのかもしれないですね。ボールを止める時に止まれば良かったのに、走りすぎてミスをしたり、ディフェンスにいきすぎることで他のスペースを空けてしまったりとか。今までであればスプリントを何度も繰り返すことが評価につながっていたけど、それが少し違ってきているかもしれない。そのあたりは見方によって変わってきますから。

今年神戸に来てからはずっと、「動くこと」で評価されるという中でやってきたので、それをしないと評価されないと思っている部分がありました。だから、ケガで離れて見ている時はそんなに悪いとは思っていませんでした。

これまで神戸については、攻撃についても守備についても「個人主義」だと感じていました。「自分のマークは自分」、「目の前の選手に負けなければいい」となっているようなところがあって。だから、その中でのボランチは大変だったと思います。それぞれが「自分のマーク」にはいくけど、そこで終わってしまうことがあった。だから、1対1のようで1対2の仕事をこなせるのがボランチの仕事として求められていた。それは結構きついことだけど、運動量がすごかったからこなせていた。がむしゃら動いて、ボールが動く度にスプリントを繰り返す。それが神戸のスタイルとして映っていたと思います。

これまではその仕事ができるボランチがいて良かったけど、今はそれだけしかできなかったから「ボランチが(良くない)」と言われてしまっている。でも、そういうハードなプレーができるボランチって少ないと思うんですよ。神戸には今までにも外国人が来たりもしたけど、結局残っているのが今の選手。それができる選手しか残っていないとういことでしょう。違うプレーをできる選手はいたけど、神戸で求められることができる選手ではないことが多かったということだと思います。


■もっと評価されてもいい神戸のハードワーカーたち

今プレーしている動ける選手だと「つなげない」と言われるけど、それは無茶とも要求だとも言えるでしょう。動ける上につなげよっていうのは簡単じゃない。つなぐと言っても、サポートをしっかりしてくれなかったら難しいのに、ボランチに対する要求だけ高くなっているような感じがあった。ヒデにしろマー(三原雅俊)にしろ翼にしろ、彼らは文句を言わずやり続けてきた。それでも結果が出なかったら批判されて、評価にもつながってこなかったように思います。

でも、彼らがやっていることというのは、評価されるべきことをやっていると思うんですよね。すごいことをやってきたと思います。前は走行距離をすごく重視されていたんですけど、ボランチの数字はもう異常だった。それだけスピード上げて距離も走っていたらミスが多くなるのは当たり前ですよ。その分他の選手が走ってあげているかということも考えなきゃいけなかったかなとは思いますね。

マー(三原)がボールを拾っている数は本当にすごいと思いますよ。かなり頑張ることができる。それでもなかなか評価されていなかった気がするんですよね。僕が今年神戸でボランチをやろうとした時も、「それをやるのがボランチや」ということがありましたけど、簡単じゃない。チームの中ではそれが基準で、「やって当たり前」というのがあったけど、他からすれば、相当高い要求だと思うし、すごく評価が高いはず。無駄はすごく多いかもしれないけど、それをやることで他の選手を埋めるのが神戸のボランチだったと思います。

神戸のボランチには、そういったプレーにさらに「プラスアルファ」が求められるわけですけど、今まで役割を果たしてきた選手は、キム・ナミルたち。韓国代表で主将もやった選手ですよ(笑)。それぐらいの選手でなければプラスアルファが出せないということなんですよ。1年目にすごかったボッティが怪我がちになったりもしましたが、それぐらいガタがくるような仕事だったということだと思います。

ボランチは相手のボランチにプレシャーにいって、パスを出されたら味方CBと挟みにもいかなければいけないし、サイドから入ってきた選手も抑えるように言われる。その後の攻撃にも出て行かなければいけない。全体が「連動している」と見えたのは、ボランチが頑張っていたからだと思いますよ。もちろんそれに追い付く技術があれば、レアルみたいなスピード感があるサッカーになるとは思いますけど、それを追求していくのはなかなか難しい。西野さんが監督になってから、選手たちはこれまでの神戸の常識とは違う常識が来て戸惑っていましたが、徐々に慣れてきて自信もついてきたと思います。これまでの財産に新しいもの加わっていくここから、チームがどうなっていくかは楽しみなところです。


■今後がすごく楽しみなチーム

後半戦の楽しみはすごくあります。個人的には試合に出て結果が出て欲しいなというのが強くあります。連勝を経験しておきたい。あとはボランチの距離感に慣れることができれば、そこが掴めるようになったらかなり楽しくて、すごく楽になるんですよ。1人が動いている時に相方が休んでいても、距離感が良い時はこぼれてきたボールが休んでいる方に転がってきて、どこにでもつなぐことができる。1人は奪うことに専念できるし、もう1人はプレーしやすい。協力してカバーし合えていれば、コンビを組む選手が埋めてくれているから、ダッシュでポジションに戻らなければいけないということも減ってくるし、スライドも楽になる。運動量としての数字は増えないけど、効率は上がります。今までは非効率なやり方だったので、効率良くなってくると見た目が変わってくると思います。

攻撃では個人で頑張ってしまっていたから、1対1で勝てれば点が入るけど、そうでなければ取れないうというところがありましたが、そこから今は変わってきていると思います。チームとして勝つやり方に向かっているという感じがあるので、助け合いの気持ちが強くなれば、良くなっていくでしょう。

攻撃がうまくいきだすと、どうしてもそれが気持ち良いから、守備の意識が薄れてしまうというのがあるので、今後はそこをどう保っていけるか。そこがポイントになってくるでしょう。「ボールを奪うこと」を優先してきた神戸が、どう変わっていくのかは僕自身すごく楽しみだし、それがうまくいけば、上のステージにいけると思っています。

変わっていくチームの中でやっていることは楽しいし、みんなが新鮮に受け止めて進んでいく姿は良いですよね。ガンバ時代と同じ練習をやっていてもメンバーが変われば全然違う感じがあって、僕も新鮮にできています。これからも皆さんに試合で「変化」を感じてもらえるようにやっていきたいと思っています。


取材日:7月11日

橋本英郎(はしもと・ひでお)

1979年5月21日生まれ。大阪市出身。ジュニアユース時代からG大阪でプレーし、98年にトップチームに昇格。2005年にJ1、08年にはACLで優勝を経験。クラブW杯ではマンチェスター・ユナイテッド戦でゴールを決めた。07〜09年には日本代表でもプレー。本職はボランチだが、他のポジションでも質の高いプレーが可能で、10年には6試合連続ゴールを記録した。今季から神戸で戦う。
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