「この試合が沢山の選手をテストできる最後のチャンス。11月は2試合(ブラジル・ベルギー)ともベストメンバーで行かなければならないし、3月も余裕はないと思うので、ある意味これがラストチャンス。全員が自分の持ってるものを出して、アピールできる試合になればいいかなと思います」
長谷部誠(フランクフルト)に代わってキャプテンを務めている吉田麻也(サウサンプトン)が試合の意図を明確に説明してくれた通り、10月日本代表2連戦のラストとなる10日のハイチ戦(横浜)はテスト的な色合いの濃い一戦になる。川島永嗣(メス)、山口蛍(C大阪)、、大迫勇也(ケルン)といった2018年ロシアワールドカップ最終予選の主力に代わってピッチに立つのは、東口順昭(G大阪)、遠藤航(浦和)、杉本健勇(C大阪)といった面々だろう。彼らがロシアに生き残れるかどうか。ハイチ戦はその重要な試金石になる。
■生き残りのため、出番の少ない選手に求められることとは
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は6日のニュージーランド戦(豊田)の後、8・9日と試合会場の横浜・日産スタジアムで非公開練習を行ったが、先発メンバーを9人入れ替える陣容を準備していた模様。今回はGK東口、4バックは(右から)酒井高徳(ハンブルガーSV)、昌子源(鹿島)、槙野智章(浦和)、長友佑都(インテル)、中盤3枚はアンカーに遠藤、インサイドハーフに小林祐希(ヘーレンフェーン)と倉田秋(G大阪)、3トップは右に浅野拓磨(シュツットガルト)、左に乾貴士(エイバル)、1トップは杉本の4-3-3でスタートする可能性が高い。
ただ、ハリルホジッチ監督が「状況などを考えて真ん中を2アタッカーにしてのぞむかもしれない。その時は中盤も2枚になる。その状況に合わせて使っていきたい」と前日会見で語ったように、試合途中から杉本と武藤嘉紀(マインツ)の2トップなどにトライすることも考えられる。
いずれにしても、代表キャップ数の少ない杉本、小林、倉田といった攻撃陣は「ここで明確な結果を出さなければ後がない」というくらいのインパクトを残す必要がある。大迫、武藤、今回招集見送りとなっている岡崎慎司(レスター)というタレントがひしめく1トップに挑む杉本は特に厳しい戦いが予想される。9月のサウジアラビア戦(ジェッダ)で初キャップを飾り、この2試合で着実に出場時間を伸ばしている187㎝の大型FWだが、まだゴールという結果に手が届いていない。
「セレッソでは2トップですけど、代表は真ん中1枚なんで、あんまりサイドに流れすぎると中で勝負する人がいなくなる。しっかり真ん中で勝負できるようにしたいと思ってます」と本人もやるべき仕事をキッチリ整理して、ピッチに立とうとしている。収める力に長けた大迫、多彩なパターンで点を取れる武藤、裏への抜け出しが武器の岡崎と比較して、杉本が秀でる部分があるとしたら、やはり高さ。もともとヘディングや競り合いなどを武器にはしてこなかった選手ではあるが、ここでは生き残りを賭けてライバルにはない長所を研ぎ澄ませていく必要がある。それが4年前に代表入りし、2014年ブラジルワールドカップ参戦を果たしたセレッソの先輩・柿谷曜一朗(C大阪)と同じ道を歩むために求められることだろう。
小林・倉田のインサイドハーフは特徴が異なるだけに注目だ。小林はオランダ2年目を迎えて戦術眼が磨かれ、落ち着いてゲームコントロールしながら周りを動かし、自分も決定的な仕事に絡めるようになってきた。倉田は「止まってたら倉田じゃない」とハリルホジッチ監督に言わしめる豊富な運動量と泥臭さがウリで、それを駆使してニュージーランド戦の決勝点を奪っている。この2人がお互いの良さを引き出しながら組み立てていければ、日本は効果的な攻撃を構築できるのではないだろうか。2人を背後からサポートする遠藤の一挙手一投足も重要になってくる。浦和レッズでは右サイドバックで起用されることが多く、ボランチとしての経験をあまり積めてはいないが、ここまで来たらやるしかない。「リオ経由ロシア行」を前々から意識しているリオ・オリンピック世代のリーダーだった男の存在価値を、今一度示すべき時だ。
両サイドアタッカーの浅野と乾は、ロシア切符を獲得した8月31日のオーストラリア戦(埼玉)で先発したコンビ。裏に抜け出すスピードに長けた浅野と技巧派の乾またタイプが違うため、相乗効果が出やすい。
「前回(ニュージ―ランド戦)は途中から出たけど、全く自分のよさが出せていなかった。裏への抜け出しや推進力は意識したけど、なかなかゴールに近づけなかった。次はそういうところを意識したい」と浅野が意欲を示せば、乾の方は「途中から出る時はより攻撃のことを考えられるけど、先発になるとチームのバランスとか、流れとか、守備の役割とかを考えないといけない」と全体を見渡した動きを心がけるという。2人の関係がうまく行けば、チームのバリエーションはさらに広がる。左太もも裏負傷が癒え、出場可能になった原口元気(ヘルタ)も含め、サイドのオプションにも注目したい。
守備陣はある程度、計算できるメンバーが並ぶが、昌子と槙野というのは代表初コンビ。吉田不在のセンターバックがどこまでやれるかは要チェックだろう。後半から出場する可能性の高い植田直通(鹿島)もそうだが、新たな力の台頭は必要不可欠だ。「センターバックの底上げは本当に必要」と吉田も語気を強めただけに、彼らにはしっかりとした仕事を期待したい。守護神の東口もこのチャンスを逃したら、川島と大きく水を空けられることになるだろう。それは日本にとって必ずしもいいことではない。足掛け7年で2試合しか出場していないという代表での苦しい立場を脱するべく、冷静かつ大胆な働きが必要だ。
対戦国ハイチはFIFAランキング48位。40位の日本とはほぼ同格だ。しかしながら、W杯北中米カリブ海4次予選で敗退を余儀なくされており、今年3月以降は国際試合を戦っていない。多くの日本代表選手が「情報がない」と嘆いていた。だからこそ、相手の出方を見ながら戦い方を変化させていく柔軟性や臨機応変さが問われる。代表経験の少ない面々の中で11月の強豪2連戦、そしてロシアへの挑戦権をつかむのは一体、誰なのか。真のサバイバルの行方を見守りたい。
取材/文=元川悦子
