ロマン・ヴァイデンフェラーは向かって左下へ上体を沈めた。1秒とかからない動きだった。だが、そのコンマ何秒後には大きな喧騒に包まれることになる。ヴァイデンフェラーがアリエン・ロッベンの放ったPKを止め、窮地を救ったのだ。
「もちろん、周り中でものすごい興奮が沸き起こって、スタジアム全体がひっくり返ったみたいだった」
ヴァイデンフェラーは『Goal』のインタビューで語る。「あんなすごい騒ぎはほとんど経験したことがないよ。すさまじかったね」と続けた。
後に、当時ドルトムントの監督だったユルゲン・クロップは「シーズン全体のカギを握るようなシーン」と振り返った。ヴァイデンフェラーは「自分のセーブがどうかなんて頭になかったよ。僕にとってはチームの力になること、1-0のスコアを守り切ることだけが重要だったんだ」と話している。

このシーンが出現したのは試合開始後86分のことだった。その少し前、ロベルト・レヴァンドフスキが、ヒールを使ってマヌエル・ノイアーの止められない位置に流し込み、ドルトムントが1点を先制していた。もしロッベンのPKが決まって1-1に持ち込まれれば、永遠のライバルであるバイエルンに対してわずか3ポイントのリードで、2011-12シーズンの終わりまでさらに残り4節を戦うことになっていただろう。だが、ヴァイデンフェラーのセーブによって、リードは6ポイントに広がった。タイトルの行方は守護神の手によってほとんど決したのであった。
■「本当にレベルの高い試合だった」
Getty2012年4月11日、ジグナル・イドゥナ・パルク(ドルトムントのホームスタジアム)の照明が煌々と輝く中で手にした1-0の勝利。これでドルトムントはバイエルンに対して4連勝を果たしたのである。思えば前半から、ドルトムントの戦いぶりには明らかに自信が顔をあふれていた。ケガによるマリオ・ゲッツェの不在にもかかわらず、ドルトムントはほとんど思いのままに試合の流れを支配し、クロップのパワーフットボールを完璧に実現させていた。唯一物足りない点と言えば、差し当たりチャンスを活かしきれていないことくらいだった。
「バイエルン戦となれば、僕たちはいやでも奮起しないではいられなかった。早い時点で得点しようと頑張ったんだが、そうはいかなかった。この日のノイアーはとても手強かったね」
ヴァイデンフェラーは回想する。試合開始後6分、ノイアーの驚くべき反応の良さに阻まれて、グロスクロイツとレヴァンドフスキが共に大きなチャンスを逃すこととなった。37分、レヴァンドフスキのヘディングシュートに今度はゴールポストが立ちはだかった。バイエルンの攻撃陣はほぼ完全に牙を抜かれた状態だったが、幸運にもスコアレスでハーフタイムを迎えることになった。
だが、エンドが変わった後半、徐々に様相が変わっていく。ドルトムントは前半の45分間に見せた猛烈なスピードのツケを支払わされる形となり、バイエルンが試合をコントロールするように。ヴァイデンフェラーは「どんな小さなことでも最終的に試合を決定づけることになるかもしれないと、誰もがわかっていたんだ。力の伯仲した、本当にレベルの高い試合だったよ」と話す。
■スタジアムに訪れた3度の興奮
Gettyそして、最終局面がやって来た。77分にレヴァンドフスキが巧みなシュートで先制点をもたらすと、8万を超える観衆で埋め尽くされたドルトムントのホームスタジアムに最初の爆発的などよめきが轟き渡った。その後さらに2回、同じようなどよめきがスタジアムを包むことになるのだが、2度目のどよめきは怒りによって引き起こされたものだった。審判のクヌート・キルヒャーの微妙な判定によってヴァイデンフェラーがファウルを取られ、バイエルンにPKが与えられたのだ。「抗議の口笛がゲルゼンキルヒェン(シャルケのホームタウン)中に響き渡ったようだった」と、後にグロスクロイツは語っている。
ドルトムントファンにしてみれば明らかに不当なPKであり、当の本人であるヴァイデンフェラーから見てもあまり妥当なものとは思えなかったという。
「あの時はロッベンが頭を働かせて、PKを仕組んだんだ。僕は全然ロッベンに触ってなんかいなかったからね。彼はああいう状況をうまく利用できるくらい抜け目がなかったし、結局はほんのちょっぴり運も良かったんだよ」
それでも、ロッベンのPKが阻止されると、またもや3度目の爆発的な興奮がスタジアムを襲った。今度は、最初と同じように喜びと高揚と満足によるものだった。そんな騒ぎの中で展開された光景、失敗に終わったPKの後、ネヴェン・スボティッチがアドレナリンをたぎらせてロッベンの前に立ちはだかり、面と向かってにらみつけながら、ロッベンのPKが最初から失敗する運命にあったことを匂わせたシーンは今でも語り草になっている。
「そういう光景は観衆にとって必ずしも気持ちのいいものじゃないけれど、ああいう場合は大目に見てやらないといけない。とにかく興奮してるんだから」
その時のヴァイデンフェラーには、スボティッチとロッベンの間の束の間のいざこざをまともに目に留めるほどの余裕がなかったのだ。
「それまで、僕は全然PKキラーだとは思われていなかった。だから、あのボールを止められてとにかくほっとしていたよ」
こうして、ドルトムントは1年前と同様、再びドイツフットボールの頂点に立った。クロップは非常に若く飛び抜けた才能に恵まれたチームを作り上げたが、そのチームでリーダーシップをとったのは、当時31歳だったヴァイデンフェラー(昨年の夏に現役を退き、現在ドルトムントのマーケティング部門のアンバサダーを務める)やセバスティアン・ケール(同じくドルトムントでチームマネージャーの職にある)といったベテランたちだった。
「セバスティアンも僕も、年齢が上だというだけでリーダーになっていたわけじゃない。僕たちは若い世代を導いて、自分たちがすごいチームで、とても素晴らしい化学反応を起こしてるんだということ、けれどその状態を維持するためには、毎日全力を傾けて努力しなければならないということをはっきり伝えたんだ」と、ヴァイデンフェラーは当時のチームにおける自分の役割を説明する。
■ドイツカップも制したBVB
Gettyドイツ誌『キッカー』は、試合翌日に「王者の資格を示した一戦か?」と見出しを打った。試合終了後、ヴァイデンフェラー、グロスクロイツ、レヴァンドフスキ、マッツ・フンメルスらは南スタンドの前でサポーターと声を合わせて、「ドイツ王者になるのは誰だ? それはボルシア・ドルトムントだ!」と歌う。早くも優勝の前祝いを行っているかのようだった。しかし、ピッチ上で気を緩めることなかったとヴァイデンフェラーは語る。
「僕たちは確かにバイエルンに対する勝利を祝った。けれど、今でもよく覚えているんだが、僕たちは一戦一戦ちゃんと頭を働かせて、決して思い上がったりしないよう常に心がけていたんだ。何としても次の大きな目標、つまりリーグ2連覇を成し遂げたいと思っていたんだよ。本当のお祝いはそれを成し遂げてからだった」
このお祭り騒ぎはちょうど7年前のこと。それからほぼひと月後、最終的にドルトムントは勝ち点8のリードでブンデスリーガ2連覇を達成したのみならず、ドイツカップでも、これまた大いに興奮を呼んだ決勝戦において5-2でバイエルンを下して優勝を果たし、2冠に輝いた。この時期、“ミア・ザン・ミア”(バイエルン語で「我らは我ら」意で、FCバイエルンのモットー)に対するドルトムントの反撃はクライマックスに達したのだった。
このチームこそ、2017-18シーズンに至るまで6連覇を果たしているバイエルンの覇権を最後に破ったチームである。
■「バイエルンはドルトムントで買い物ツアーを始めた」

ドルトムントのハンス=ヨアヒム・ヴァツケ会長によれば、2012年のドイツカップ決勝でドルトムントがバイエルンを破るとすぐに、ウリ・ヘーネスとカール=ハインツ・ルンメニゲの表情には固い反撃の決意が認められたという。ヴァツケは2014年に『ビルト』紙に対して次のように明かしている。
「我々がリーグ2連覇と2冠を達成してからは、当然、バイエルンは我々をつぶしたいと思うようになった。ただし、それは我々を使い物にならないチームにしようとしているとか、我々を嫌っているという意味ではない。むしろ重要なのは、我々をライバルの位置から締め出すことだった。だが、それはだいたいにおいてもっともなことであり、そういう状況の中で我々は生き延びていかなければならないんだ」
2013年にバイエルンはドルトムントのスーパータレント、マリオ・ゲッツェを買い取り、1年後にはロベルト・レヴァンドフスキが契約満了に伴ってバイエルンへ移籍した。そして2016年には、バイエルンはさらにマッツ・フンメルスまで取り戻した。
「もちろん僕たちにとっては気持ちのいいことじゃなかったし、みんなとてもがっかりしていたよ」とヴァイデンフェラーは語り、次のように付け加える。
「けれど、競争というのはまさにそういうもので、大きなものが小さなものを呑み込んでしまうんだ。それに、当時のドルトムントはまだ今と違って財政的に苦しかったから、バイエルンが僕たちのところで“買い物ツアー”を始めても、甘んじて受け入れるしかなかったんだ。僕たちにはどうしようもなかったよ」
いずれにせよ、ヴァイデンフェラーは「選手を引き抜かれたりせずに2011-12シーズンのチームのメンバーのままで戦い続けていたら、もう1回、あるいはもっと何度も優勝できただろうね」と確信している。
それから多くのメンバーが入れ替わった現在、ドルトムントが2012年以来初めてとなる優勝を手にする可能性は今までになく大きなものになっている。土曜日に頂上決戦を控えるドルトムントは、バイエルンに勝ち点2の差をつけて、首位のチームとしてアリアンツ・アレーナに登場する。
ドルトムントファンなら誰しも、偉大なライバルとの直接対決となるこの一戦で、ひょっとしたら7年前を再現するように、タイトル争いにほぼ決着がつくのではないかと心の底から期待している。2012年4月の晩の立役者たちの一人、86分にロッベンのPKを止めたことでジグナル・イドゥナ・パルクを揺るがしたヴァイデンフェラーもまた、切にそれを望んでいる。「2-1でドルトムントの勝ちだね」と、彼は慎重に予想する。そして、シュートを決めるのは誰かという問いに対しては、「それはその時のお楽しみさ」と笑顔を見せたのだった。
取材・文=オリヴァー・マイヴルム/Oliver Maywurm
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