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早川史哉は前進し続ける――急性白血病から1210日。愕然とした険しい道のりを経て目指す頂き

急性白血病の診断から1210日。公式戦3年4カ月ぶりのベンチ入りを果たした早川史哉の名がビッグスワンのオーロラビジョンに映し出された。昨年11月にプロサッカー選手に戻って以降、今日に至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。それでも前進することを止めず、ついに大きな一歩を踏み出した。そんな早川を突き動かすもの、彼がこれまでもこれからも変わらず目指し続けるものとは。【文=飯尾篤史】

■3年4カ月ぶりのベンチ入り

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 ぎっしり埋まったゴール裏からブーイング混じりの厳しい言葉が飛ぶ。ホームゲームにもかかわらず、0-3の完敗を喫したのだから、無理もない。

 だが、選手たちが挨拶を終えると、「おかえり!」「待ってたぞ!」「頑張れ!」といった温かいエールがひとりの選手に向けて送られた。チームが敗れたため、彼は笑顔を見せることはなかったが、声のするほうに手をかざし、声援に応えていた。

以下に続く

 8月17日に行なわれたアルビレックス新潟―ファジアーノ岡山戦。16年4月に急性リンパ性白血病を発病し、同年11月に骨髄移植手術を受けた早川史哉が、公式戦の舞台に戻ってきた。

 結果的にこの日は、出番が訪れなかったから、「戻ってきた」という表現は適切ではないかもしれないが、大病を患って以来初めて、実に3年4カ月ぶりにベンチ入りを果たしたのだから、実に大きな、本当に大きな一歩だったのは間違いない。

 「ついに来たか、っていう気持ちと、チャンスがくれば思い切ってプレーしてやろう、って思っていました」

 ベンチ入りを告げられたときに心境を振り返った早川は、サポーターへの気持ちも素直に打ち明けた。

 「たくさんの声援をいただいたのは本当に嬉しかったし、サポーターのオレンジのユニホームを見て、温かい気持ちにもなりましたね」

■チームに馴染めてきている実感がある

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 プロ契約凍結解除を発表したのは昨年11月のこと。時期尚早との声もあるなか、覚悟を持ってプロサッカー選手に戻り、今季の戦いに臨んでいた。

 5月の練習試合では復帰後初めて90分フル出場も飾った。体力的にも、パフォーマンス面も、まだまだ納得のいくレベルではないが、それでも公式戦での復帰という目標に少しずつ、着実に近づいていた。

 実は、前節のモンテディオ山形戦でアウェー遠征に帯同してもいた。コンディションに不安な選手がいたため、試合当日に急きょ呼ばれたのだ。

 「19人目に選ばれたことで、自分の現在地が分かったというか。目標に向かって少しずつ近づいているな、っていうイメージがありました」

 とはいえ、今節のベンチ入りは「ノーチャンスだと思っていた」と打ち明ける。自身と同じディフェンスのポジションに舞行龍ジェームズが加入し、ポジション争いはさらに激しくなっていたからだ。だが、それでもメンバー入りしたという事実が、早川にまた少し、確かな自信をもたらした。

 「監督からは『守備的なポジションならどこでも対応できるように』と言われていたので、3つくらいのポジションを想定して準備していました。複数のポジションができるのは自分の特徴ですから。ディフェンスラインからボールを大切にして前進していくという監督のスタイルも手伝って、チームに馴染めてきている実感がある。そのなかでもっと自分の色を出せるようになれば、常に監督の選択肢の中に入ってくると思うので、自分自身をもっと突き詰めていきたいですね」

 これまではスタンドからチームの戦いを眺めていたが、この日、ピッチレベルで仲間たちのプレーを見つめて、感じたものがあった。スピード感と激しさである。

 「上から見ているときとも、紅白戦とも、インテンシティや選手の本気度が全然違いました。バチバチでしたし。そういうのは、上で見ているだけでは伝わってこない。それを知れたのは大きい。実際、あのなかに入って技術や自分らしさを出せるのか。それが今後の課題のひとつになってくると思います」

■それでも、目指す頂きはまだまだ遠い

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 昨年3月にアカデミーの練習に参加するようになり、8月には部分的にトップチームの練習に混じるようになった。最初は再びボールを蹴れることが嬉しく、楽しかった。だが、次第に周りとの圧倒的な差を痛感し、打ちのめされた。

 「山に登り始めた頃って、目指すべき頂上がおぼろげだけど、進めば進むほど、頂上までの距離が明確になって来るじゃないですか。で、まだまだこんなに遠いんだとか、こんなに険しかったんだって、愕然とするというか。そんな感じでした」

 ベンチ入りを果たした今も、目指す頂きはまだまだ遠い。自身のパフォーマンスが完全に戻っていないことは、他でもない自分自身が感じている。だが、それでも目標に向けて前進している実感がある。

 「道はあいかわらず険しいですけど、ここは崩れないかな、と確認しながら、恐る恐る登っているイメージ。本当に今は、一歩、一歩踏みしめている感覚です」

 目指しているのは、公式戦での復帰だけではない。愛するクラブのJ1復帰に貢献する――。これも早川が大事にしている目標だ。

 「チームを第一に考えてやることも自分の良さだと思っています。そのなかで、これまで以上にチームに馴染み、チームをよりいい方向に持っていけるようにならないといけないし、そういう選手が増えないと、いいチームになっていけないと思う。そのきっかけみたいなものを、自分が作れるといいと思います」

 2年ほど前まで青白く、むくんでいたのが嘘のように引き締まった表情で、きっぱりと言った。プロに復帰してまだ半年程度ということを考えれば、公式戦でのベンチ入りは、間違いなく大きな出来事だった。しかし、それも、あくまでも通過点に過ぎない。これから先も険しい道が続くが、早川史哉は高い目標に向かって力強く、一歩、一歩踏み出していく。

取材・文=飯尾篤史

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