プレミアリーグ史上最多勝ち点(100)、最多連勝(18)、最多得点(106)記録を更新した2017-18シーズン。そして史上初の国内3冠を成し遂げた2018-19シーズン――。イングランド到着3年間で、ペップ・グアルディオラは国内タイトルすべてを勝ち取ってしまった。
そんな48歳のスペイン人指揮官は、今季もエティハド・スタジアムのタッチラインで情熱的に声を張り上げている。以前に「4年は長すぎた」と語った男が、マンチェスターで4年目を迎えているのだ。その理由は、疑いなくチャンピオンズリーグ(CL)制覇を成し遂げるためだろう。
そんなペップは、4年目のシティで何をやろうとしているのか。そして、今季ビッグイヤーを掲げることができるのか。シティに弱点、そして彼らを倒すためには何をすれば良いのだろうか。
今回、ポルト大学大学院でサッカー指導者として学び、実際にポルトガル1部リーグ、ボアヴィスタFC・U-22でコーチを務め、現在はJFLの奈良クラブでゼネラルマネジャーを務める林舞輝氏が4年目のペップ・シティを徹底分析。かの有名なジョゼ・モウリーニョも講師を務める養成講座も受講した“プロ”の眼から、“最強”を誇るマンチェスター・シティを紐解く。
文=林舞輝(奈良クラブGM)
■4年目のペップ・シティ最大の変化
Getty Imagesグアルディオラ4年目のシーズンとなった、今季のマンチェスター・シティ。バルセロナ退任時に「4年は長すぎた」と後悔に近いコメントした彼が、リーグ史上最多勝ち点や史上初の国内3冠を制した後も4年目のシーズンを堂々と迎えるということは、それだけ彼にとっては今の環境が“理想郷”なのだろう。2016年のペップ就任以降のシティは基本的にブレずに同じサッカーを続けているため、安定感と成熟度で言えばダントツで世界一だ。もちろん、ビッグイヤーを掲げる最有力候補でもある。
やっているサッカーはほぼ変わっていない。選手層も年を追うごとに厚みを増し、誰かが欠けたから崩れるとか、何かの拍子で崩壊するという様子はまったくない。さらにラスト30メートルでは、相手守備陣のリアクションによって繰り出す特有の崩しパターンの精度とスピードが格段に上がっている。
そんな「完全に成熟した」シティにおいて、今季の変化を挙げるとすれば、新加入ロドリの存在だ。アトレティコ・マドリーからクラブ史上最高額となる6280万ポンド(約85億円:当時)で加入した守備的MFは、判断が素早くシンプルにボールを散らせ、その上読みが鋭く、守備では既に最も効いている選手となっている。また191cmの長身を誇り、空中戦にも強い。“ブスケツ2世”との呼び声高いが、まさにそのセルヒオ・ブスケツの恩師であるペップの下で、ピボーテとしてさらなる進化を遂げそうだ。
そのロドリの加入もあってか、もう1つ今季のシティが変わったことと言えば、守備システムだろう。「4-4-2」で統一して守るようになった。基本の「4-1-2-3」からインサイドハーフの1人が一列前に出る。インサイドハーフの組み合わせがケヴィン・デ・ブライネ&イルカイ・ギュンドアンの時には、デ・ブライネがワントップと同じ位置まで上がり、デ・ブライネ&ダビド・シルバの場合には、シルバが前に出て「4-4-2」のブロックを作る。
両ウイングは高い位置からプレスを掛け、追い込んだ時は「4-2-4」のような形のハイプレスでボールを刈り取る。「4-4-2」でのハイプレスはどうしても間延びしがちであり、難易度が高い守備戦術だ。しかしシティは、それを速さ、運動量、そして後ろに目がついているかのような「背中で消す」インテリジェントなプレッシングで可能としている。
■最強シティの“弱点”
(C) Getty Imagesペップの哲学が浸透し、記録的な2シーズン後もさらなる進化を見せ、選手層も格段に厚くなった……。そんなほぼ無敵状態のシティを「どう倒すか」について考えるというのは、はっきり言って無理難題に近い。猛進してくるバッファローをどうやって素手で倒すか考えるようなものである。間違いなく言えるのは、「運」が必要ということだ。おそらく、味方GKのキャリア最高レベルのファインセーブは絶対条件、さらに数回は奇跡的にゴールポストに救われなければ、勝利をもぎ取ることはほぼ不可能に近いと言っても良いだろう。
今のところ、シティの攻撃に対する最適解は「4-4-2」のコンパクトな守備ブロックを敷いて、ハードワークと組織力、人海戦術でひたすら我慢強く耐えることしかないように思える。この4年、シティ相手にオールコート・マンツーマンのような奇策を繰り出したチームは、ことごとく無様に散った。昨季CLでシティを倒したトッテナム(※準々決勝:2試合合計スコア4-4、アウェイゴール差でトッテナムが準決勝進出)は組織的な「4-4-2」で耐え切り、今季も既にアウェーで引き分けることに成功している(※プレミアリーグ第2節:2-2)。また、シティの攻撃の唯一の弱点と言うべきか、彼らには力技でねじ伏せる策がない。ノリッジ・シティ戦(※第5節、2-3)の終盤のように人海戦術で引いて守られても、いつも通り攻撃するしかないのだ。以前のマンチェスター・ユナイテッドのマルアン・フェライニ、去年のトッテナムのフェルナンド・ジョレンテのような、力技は持っていない。
いざという時の力技がないとはいえ、相手DFのリアクションを見てパターン攻撃で一気に切り崩していく今のシティを見ていると、一瞬でも隙を見せたり、1人でもサボったり、少しでも色気づいたら、その時点で終戦だ。とにかく忍耐強く、良く働いて、1つひとつ攻撃の芽を潰していくしかない。だが、あれだけの破壊力を持つ攻撃陣だ。180分間を無失点で切り抜けるのは、そこに落ちている石ころがウニ軍艦になるような奇跡が起きても難しいだろう。ということは、シティの守備を攻略しなければ、勝利はない。
シティの守備で弱点と言えるのは、まずはセットプレー。今季の公式戦で喫した7失点のうち半分以上の4失点がセットプレーからであり、大ピンチのほとんどもセットプレー絡みだ。今のメンバーでは、どうしても高さがないのは否めない。もう1つ、シティ相手に得点チャンスを作れるとすれば、敵陣からの果敢なハイプレスだ。意外かもしれないが、ビルドアップをハイプレスでかっさらわれてピンチになる場面が多少見受けられる。特に、アイメリク・ラポルテが不在の時は顕著だ。シティ相手に高い位置からのプレッシングは自殺行為に見えるかもしれないが、ここぞという場面では勇気を持って前で奪いにいくことが必要になる。
また、「4-4-2」で守備をしていることが仇になる可能性もある。中盤左を守るスターリングは、戻ってブロックを形成するのが遅れたり、1人だけMFラインから外れて縦パスを許すことがままある。1つの狙い所と言えるだろう。だが、それ以上に、いつもより一列下がって守備をすることが求められているデ・ブライネ周辺を狙うことが効果的だ。「4-4-2」の守備ブロックの中で中央を固める役割を与えられたデ・ブライネだが、新たな役割に完璧に適応したとは言い難い。スペースを埋められずに縦パスを通され、ペップが激怒する場面や、自陣に引いた際に下がり過ぎてプレスに行けず、危険なミドルシュートを許すこともあった。そもそも守備能力は高くないため、デ・ブライネの所に1人でボールを引き出せ、個で剥がせるような選手をぶつけた時にどうなるかは、見てみたいところだ。もう一つ、新加入のロドリのネガティブ・トランジション時の対応も怪しいところがあるのだが、これはおそらくCL決勝トーナメントが始まる頃には修正されているだろう。
■シティはビッグイヤーを掲げられるのか?
Getty/Goalさて、いよいよ悲願の欧州制覇を狙うシティがCLグループリーグでの戦いをスタートさせる。グループリーグは、問題なく通過するだろう。ジャン・ピエロ・ガスペリーニが指揮するアタランタのオートマチックな「3-4-3」がどこまで通用するか、CLで格上と戦い慣れており、毎年下剋上を起こす“ジャイキリ常連”のシャフタール・ドネツクがどんな戦術で挑むかは非常に興味深いが、シティの突破はほぼ確実だ。
問題は決勝トーナメントから。だがそれでも、上述したような「忍耐強く守る」ことが可能で、ただ「引きこもるだけ」でなく、「ハイプレスで仕留められる運動量と判断する時間を奪うスピード」があり、「中央でボールを受けて相手守備を剥がせる能力を持つ選手」がいて、「セットプレーが武器」というチームは、限りがある。候補を挙げるとすれば、トッテナム、アトレティコ、リヴァプールぐらいだろうか。バレンシアやライプツィヒといったチームにも、僅かだがシティを倒すチャンスはあるはずだ。
もしCLベスト16に進んだチームでリーグ戦を行ったとすれば、優勝するのはシティで間違いないだろう。他クラブに比べ、別格の安定感がある。
だが、ノックアウト方式のCLではそうはいかない。一発勝負、“魔物が潜む”大舞台、そしてアウェイゴールという特異なレギュレーションは、次々と波乱を巻き起こす。「CLはほんの細かなことで決まってしまうコンペティション」とは、二度ビッグイヤーを掲げた名将ジョゼ・モウリーニョの言葉だ。昨シーズンも、もしVARの導入が一年遅れていたら、準決勝に進んだのはトッテナムではなくシティだったはず。あの試合こそまさに、CLの醍醐味とも言える「ドラマよりドラマチックなドラマ」が起きた試合だった。
自らの信念に絶対の自信を持ち、時に情熱的なアクションで選手を指導するカリスマ的な指揮官、授けられた戦術をハイレベルで実行する選手たち、それを可能にする世界屈指の選手層……。そんな完璧に見えるチームでありながら、あのような歴史に残る「ドラマ」を演じることができる。それこそ、今のマンチェスター・シティの何よりの魅力なのではないだろうか。
【著者プロフィール】
林舞輝(Maiki Hayashi)
1994年12月11日生まれ、24歳。イギリスの大学でスポーツ科学を専攻。在学中にチャールトンのアカデミー(U-10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部大学院に進学。同時にポルトガル1部ボアヴィスタのBチーム(U-22)のアシスタントコーチを務め、主に対戦相手の分析・対策を担当。モウリーニョが責任者・講師を務めるリスボン大学とポルトガルサッカー協会主催の指導者養成コースにアジア人として初めて合格。現在は、JFLに所属する奈良クラブでゼネラルマネジャーを務めている。
Twitterアカウントは@Hayashi_BFC
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です



