レアル・マドリーからマジョルカへのレンタル移籍は、久保建英という選手のスケールすらも小さくしているように思える。その理由は、彼という選手の特徴とチームのスタイルが合致していないから。久保が有するクオリティーと世界トップへと突き進む勢いに異論を差し挟む余地はない。けれども、マジョルカを率いるビセンテ・モレノのフットボール観に当てはまるかどうかは、一概にそうだとは言えない。
マジョルカがインターナショナルウィークの直前に臨んだエスパニョール戦でベンチスタートとなり、ほとんど出場機会を得られないながらも日本代表に合流したことは、ビセンテ・モレノが昨季から使用し続ける戦術への適応のさらなる妨げになった。そもそも、レンタル移籍が決まったのもリーガ開幕直後と遅く、状況的には最初から厳しかった。久保がマジョルカ島上陸以降に得た出場時間は322分間と、レギュラーより控えとしてベンチに座る方が多い。そして今後の展望も、この日本人にとって楽観できるものではないだろう。
■信念を強めるビセンテ・モレノ
(C)Getty Imagesマジョルカのフットボールは、リーガ1部復帰を成し遂げた昨季のものと変わらない。組織的な一枚岩のパフォーマンスを見せ、サイド攻撃を強みとし、縦に速く、しかしながらデュエルに弱く、14~15選手を基本戦力とする。ビセンテ・モレノは自身のアイデアに確固たる自信を持ち、また特定の選手たちに大きな信頼を寄せている。エスパニョール戦の2-0勝利は、開幕節エイバル戦以降の白星となり、周囲から疑念を持たれていたその信念をさらに強めるものとなったはずだ。
マジョルカは相手にボールを渡すことを厭わない。彼らの目的は各ラインを数メートルの範囲に狭め、守備から攻撃へのトランジションに効果性を持たせて、サイドを起点に決定機創出を目指すことにある。つまり彼らは、そのまんま堅守速攻のチームだ。特にエスパニョール戦前の3試合(ヘタフェ、アトレティコ・マドリー、アラベス戦)では自分たちの在り方を忘れていたが、エスパニョール戦は改めて気づきを得るきっかけとなった。実際、エスパニョール戦とエイバル戦のスタメンは、左サイドバック以外は全員同じだったのだ。
■“やり繰り”はできるが…
(C)Getty Imagesしかしながら、マジョルカのこういった哲学が、久保が同チームで地位を得る可能性を低くしていることも否めない。彼はそのボールを持ち運んだりプレーリズムを変えたりする能力やファーストタッチの精度によって、堅守速攻のフットボールでも何とかやり繰りすることができるはずだが、やはり継続的に攻撃できるチームでプレーした方が快適なはずだ。またマジョルカにはダニ・ロドリゲス、ラゴ・ジュニオールと、堅守速攻により適応できる選手たちが存在している。
久保が抱える問題としては、プレースタイルへの適応の難しさのほか、プレーするポジションも挙げられる。マジョルカはババをアンカー、サルバ・セビージャ&フェバスをインサイドハーフ、ダニ・ロドリゲス&ラゴ・ジュニオールをサイドハーフとする4-1-4-1を基本システムとしており、トップ下のポジションは存在していない(昨季にはレオ・スアレスをトップ下として起用していた時期もあったが)。
このために久保は主に右のサイドハーフを務めることが多いが、たとえ中央にスライドしてプレーする自由を得ているとしても、手早くゴール前までたどり着きたいマジョルカの攻撃の幅は極端に狭く、彼がプレーに介入する回数も少なくなっている(フル出場のアラベス戦でのプレー回数はわずか36回)。
今夏のコパ・アメリカで、久保の最適なポジションはトップ下であることが明らかになっている。相手MFの背後でボールを受けたり、サイドに流れたり、必要とあれば攻撃を構築する上で最初のパスを出したり……と、トップ下に位置する彼は相手の守備陣を崩すための効果的なプレーを次々に披露していった。だがマジョルカでは、ライン間で見せる閃きや、各局面で必要とされるプレーを選択できるインテリジェンスを発揮する機会は限られている。そのプレーエリアはサイドに限定され、前を向いてボールを持つこともままならない。
■条件が揃っているチームではない
(C)Mutsu KAWAMORIマジョルカは決して、久保が輝くための条件が整っているチームではない。彼がビセンテ・モレノのもとで自身の序列を上げていくためには、アトレティコ・マドリー戦で見せたような好プレーを繰り返していくしかないだろう。久保が輝くための鍵を握るのは、彼と同じような形でプレーを理解しているサルバ・セビージャ、フェバスとの連携だ。
あのアトレティコ戦では、ようやく久保らしいプレーが見られた。中央のレーンでサルバ・セビージャとワン・ツーを見せると、一気に加速してゴール前までボールを持ち運ぶ。彼には両サイド、または中央へのパスコースがあり、結局は右サイドバックのダニ・ロドリゲスにパスを出すことを選択。そしてパスを出した後もプレーを止めることなく、中央からペナルティーエリア内右に走ってマークを引き剥がすと、GKヤン・オブラク以外に邪魔者はいない状況でシュートを放ち、ボールはポストに当たった。このプレーは、彼が中盤と最前線のつなぎ役になれば、やはり均衡を崩せる選手であることを証明している。
久保はまた、サイドからでもより効果的な攻撃を見せなくてはならない。その点では、右サイドバックのジョアン・サストレとの連携力が日増しに高まっているのはポジティブで、サストレがオーバーラップした際に相手選手のマークがぶれる瞬間をしっかりと突いていきたい。あとはアスレティック戦でPKを奪取したように、1対1の状況でチームの中でも突出した才能の持ち主であることを確実に示していく必要がある。
そして守備面では、明らかに改善が必要な点がある。エスパニョール戦では相手の右サイドバック、セバスティアン・コルチアに背後を取られていることに気づかず、引き分けに追いつかれる可能性もあった場面を許してしまった。久保はときに守備意識が著しく低下することがあり、それはビセンテ・モレノ率いるチームにおいては絶対的なタブーとなる。マジョルカでそうした守備における責任を学ぶことは、将来的に役立つだろう。
レアル・マドリーの内部について話せば、彼らはクラブの未来を担う存在とも見込む久保の現状について、危機感を覚え始めている。ビセンテ・モレノ率いるマジョルカが、レンタル移籍先として本当に良かったのどうかという議論が交わされているのだ。
だが結局のところ、久保がやるべきことは一つしかない。ビセンテ・モレノが信頼を寄せる選手たちが限られ、新顔が定着しづらいマジョルカで、誰もが認める才能でもって居場所を勝ち取る以外にはないのだ。現在はレギュラーになることすら難しい有様だが、時間の経過とともにその真価を発揮し、壁を乗り越えられるのかどうか。乗り越えられるならば、彼はまだ若くしてリーガ1部クラブの浮沈を担う、規格外の存在となる。つまりは、レアル・マドリーの将来を担うにふさわしい選手であることを意味するのである。
文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です





