微かに見えたロシアW杯への道…長澤和輝が日本代表初キャップでみせた「順応性」

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(C)Getty Images
ベルギー戦で日本代表初キャップを飾った長澤和輝。攻守両面でみせた「順応性」をみせ、ロシア・ワールドカップへの道筋は微かに見えただろう。

フランス・リールでのブラジル代表とのテストマッチで1−3と敗れた日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、ベルギー代表との一戦でスタメンを2人入れ替えた。その内のひとりは右ウイング・久保裕也に代わって浅野拓磨(シュトットガルト/ドイツ)。そしてもうひとりは、膝の問題で別メニュー調整を強いられていた長谷部誠のポジションを補完する形で、右インサイドハーフに長澤和輝(浦和レッズ)が配された。

長澤は今回が日本代表初招集、そしてベルギー戦が初キャップである。しかも、所属する浦和レッズでは今季リーグ戦の先発出場がわずか3試合しかない中での大抜擢だった。長澤がハリルホジッチ監督の評価を得たのはひとえに、AFCアジア・チャンピオンズリーグ準決勝の上海上港とのホーム&アウェー2試合のパフォーマンスへと帰結する。FWフッキ、エウケソン、MFオスカルらのブラジル代表クラスを擁する上海上港攻撃陣を相手に見せた圧倒的な局面勝負の強さは、代表選手に「デュエル」を求める指揮官が思い描く理想像と絶妙にマッチした。

そもそも、ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督体制の浦和で出場機会を得られなかった長澤が脚光を浴びたのは、後を引き継いだ堀孝史監督が採用する4−1−4−1のインサイドハーフポジションを与えられたことに尽きる。味方の1トップとアンカーの間に立ってスペースを埋め、侵入してくる相手アタッカーに激しくチャージしてプレーを制限するタスクは、ハリルホジッチ監督が日本代表で用いる4−1−2−3のインサイドハーフに求められる責務と適合する。ミシャ時代に封印されていた彼の潜在能力は、2人の指揮官の下で急遽開花したのである。

■コンセプトに沿いつつ持ち味を還元させる「順応性」

ドイツ・ブンデスリーガのFCケルンでプレーした経験のある長澤は、初の国際Aマッチゲームでも冷静沈着にプレーした。ベルギー戦での役割は、主に相手左ボランチのアクセル・ヴィッツェル(天津権健/中国)とのマッチアップだが、ときにポジションチェンジしてくる左サイドのナセル・シャドリ(ウェスト・ブロムウィッチ/イングランド)や右ボランチのケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ/イングランド)にも対応して激しい局面バトルを繰り広げた。

「立ち上がりから相手に後ろ向きでプレーさせ、判断を奪うようにちょっとプレッシャーを掛けようという話をしていたので、それが上手いことハマって、速攻みたいな感じでチャンスを作れていました。そこで点を取れれば良かったんですけど、前半はある程度守備はできていたと思います」

しかし、長澤はACLで披露したような執拗なマーキングとプレス&チャージを若干抑え、周囲との関係性に留意する挙動も見せた。

「距離感の問題ですけども、試合中に例えば、『今のところは和輝出るな』、『もう少し来てほしい』など、後ろの(山口)蛍くんやセンターバックの(吉田)麻也くんなどが声を掛けてくれたので、僕は動かされて、やりやすく守備ができました」

長澤のコメントの裏には、チーム全体が思い描いた戦略の跡がある。ベルギー戦後、槙野智章(浦和)は欧州遠征中に全員の共通理解を深めるミーティングを重ねたと明かしている。

「選手同士でいろいろ意見を言い合って、前の選手の『こうしたい』という意見と、後ろの選手が『もっとこうしてほしい』という意見をぶつけ合いながら今日の試合を迎えたんです。ブラジル戦後から、はっきりしない部分を、今日は僕と吉田選手を中心にして時間帯に応じて前から行くのか、下がるのかのメリハリを、しっかりと声を掛けてはっきりとできたことは良かったと思います」

槙野の証言から読み取れるのは、試合状況や相手の出方によって攻守の強弱を付けることを意識したということ。ただがむしゃらに相手を追い掛けるのではなく、ときに静観し、ときに猛進するタイミングをチーム全体で図ることの重要性をブラジル戦で学び、次のベルギー戦で生かしたと思われる。その考えを理解すれば、長澤が実行したプレーの動機付けもできる。

「相手の中盤の選手にできるだけやらせないのと、あとは相手が3バックの部分からボールを持ち運んでくることに対してはコースを切りながら、ある程度ボールを持ってきたら制限をかける。自分たちの距離感を保つことは意識していて、その意味ではある程度コンパクトに守備ができていたかなと思います」

新たに加わったチームの中でコンセプトに沿い、自らの持ち味を還元させる。ベルギー戦における長澤の慎重かつ理路整然としたプレーには、彼の順応性の高さを垣間見ることができる。

しかし、それでも長澤はチームとしても個人としても、日本と世界との差、埋めるべき課題があると自覚している。

「今回はACLとはまた違って、どちらかというとドイツにいたときの感覚に近いですかね。相手は身体が大きいですし、プレッシャーも速いです。その中でデ・ブライネやルカクとか、能力のある選手がいるというのはヨーロッパのチームではよくあることだと思う。なので、その能力ある選手を抑えながら、自分たちが組織で守備をして、チャンスを狙って点を取りに行くということで、勝負していければもっと良かったかなと思います」

■熱いハートを持ちながら、淡々と平静に踏み出した一歩

試合後のハリルホジッチ監督も長澤の代表での初ゲームに一定の評価を与える一方で、攻撃面でのレベルアップを求めている。

「初めての試合にしては本当に良かったと思っています。たくさん走り、たくさん守備もやってくれました。攻撃面でもっと顔を出してほしいが、国内組全員に言えることとして、リズムについていけていない。もしかしたら(山口)蛍だけがフィジカル的な能力が高いのではないかと思いますね。こういった試合のリズムに十分ついていけるのは彼だけ。他の選手は、まだまだです。ただ長澤については、このような簡単ではない相手に対してのテストでしたが、私は満足しています」

来年のロシア・ワールドカップへの道筋は微かに見えた。しかし長澤には、まだやらねばならぬことがある。浦和レッズの選手として、クラブ史上10年ぶりのアジア王座奪還に向けて、長澤以下、今回の代表に招集されたGK西川周作、DF槙野、MF遠藤航、FW興梠慎三はベルギー戦から中3日で敵地・サウジアラビアでのACL決勝第1戦、アル・ヒラル戦に臨む。

「今回の試合の反省もありますけども、次はアジアを獲りに行く目標があるので、そこに切り替えて、次の試合の良い準備ができればと思います」

試合後も淡々と平静に、それでも心は熱く、長澤和輝は静かに確実に、新たなる一歩を踏み出した。

取材/文=島崎英純

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