復活を確信していたハインケス、勇退後も「監督業に片足を突っ込んでいた」/独占インタビュー

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アンチェロッティの後任としてバイエルンを率い、ブンデスリーガでは早々と独走態勢を築いたハインケス。老将の背後にある理念や考え方は一体どのようなものなのだろうか。

ブンデスリーガで17勝2分け2敗、2位とは勝ち点18差。加えて、DFBポカールでもベスト4に勝ち残り、チャンピオンズリーグでもグループステージ突破を決めている。今シーズンもバイエルンは盤石だ。それを支えたのはユップ・ハインケス、そう言い切ることは難しくない。

ハインケスは今シーズン途中からバイエルンの指揮を執り、見事復活に導いた。そこで『Goal』では、独占インタビューを実施し、監督業についての考え方、どのようにチームを蘇らせたのかについて語ってもらった。

Jupp Heynckes FC Bayern München

■青年監督の走りだったハインケス

現在、ブンデスリーガではホッフェンハイムのユリアン・ナーゲルスマン、シャルケのドミニコ・テデスコを始めとする“青年監督”が多く活躍している。ハインケスはもうまもなく73歳になる世界でも有数の老将だが、青年監督の走りでもあった。

1979年に34歳でボルシア・メンヒェングラッドバッハの指揮官に就任。当時のブンデスリーガ最年少監督となった。ハインケスは当時のことを「1978年まで現役でプレーし、その後1年間ウド・ラテックの下でアシスタントコーチをしていたんだ。そして首脳陣から、監督を引き受けるつもりがあるかどうか聞かれた。それに対して私は普段通り気楽に『もちろん』と答えたよ」と思い起こす。

一方で、学ぶことが多く残されていたことも理解していたという。

「まず、選手時代の私はただ情熱と野心にあふれただけではなく、それ以上に完璧主義的なところがあったんだ。それは以前私の監督であったヘネス・ヴァイスバイラーから学んだのだが、彼は負けるととても不機嫌になる人だった。負けたことを尊重しなければならないが、それを甘んじて受け入れてはいけない、それがサッカーから学ぶべきことだった。失敗したときにも、その原因を突き止め、良い方向にもっていくことができるよう常に準備しなければならない。それ以外にも、もっと普通のことだけれども、チームを引っ張ることや周りの人間とうまくやることなどはもっと最初の段階で学ぶべきことだ。私自身、チームのメンバーとしてある程度の地位にはいたし、リーダーでもあったことは大きな助けとなった。簡単な例を話そう」

「私が監督になってまもなく、何人かは現役時代に一緒にプレーしていた選手たちがいて、彼らは私のことを“Du”(ドイツ語で「きみ」「お前」)と呼んでいたんだ。ところが、私が監督になると、彼らは私を“Sie”(ドイツ語で「あなた」)と呼ぼうとした。だから私は『みんなおかしい。“君”と呼べばいいんだよ』と言ったんだ。でもそこから、私のかつてのチームメートがどれだけの敬意を示していたかがわかるだろう。それは監督という職業にはとても重要なことだ。ある部分では一定の距離を設けないといけないが、もう一方では関係を築くために近づくことも必要だ。この点については私はうまく使い分けられていると思うよ」

■監督という仕事

さらに、監督業への向き合い方についても語る。選手時代からの強みを指導者となってからも活かせたと感じているようだ。

「私の監督1年目でリーグでは7位、そしてUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)では決勝に進出し、大きな称賛を浴びた。にもかかわらず、試合後の批判というのは現在と変わらないものだった。でもそれに紛らわされることはなかったね。選手時代から、私のメンタルの強さは、サッカーの技術的な部分以外で私の特別な強みだったんだ。私は常にその仕事をどのように遂行したいかが明確だったが、同時に常に周りの人から学ぶことにも積極的だった。現在でも、細かなディテールが自分の仕事に重要な要素であるということは変わらない」

今日の若い指導者は「準備ができている」と語るハインケス。多くの場合、下部組織などで経験を積んだ後にトップチームでチャンスを与えられるためだ。そんな“後輩”たちには「自らを正しく表現すること、チームへの言葉の掛け方、練習場での振る舞い方をしっかりと学ぶことが非常に重要だ」とメッセージを送った。

2017-10-05 2013 Heynckes Bayern

■勇退後は何をしていたか?

ハインケスは2013年にドイツクラブ史上初となる3冠を達成し、一度は監督業を引退した。ハインケスも「当時はそのつもりだった」と認めるとおり。しかし、サッカーを見ては思いを巡らせ、「監督業に片足を突っ込んでいたままだった」とも話している。

「2013年以降はただのファンとしてサッカーを見ていたんだよ。でも時折、“このチームは技術的に優れているな”とか、“私だったらその選手交代はしないな”などと考えることもあった。長く監督を経験した者は、様々なシチュエーションごとに違った感情を抱くものだ。選手がどのように動いているか、疲れている選手はいないかどうかなどは見ていればわかる。あの監督は良い仕事をしているとか、チームを良い方向に導き、とても明確なプランを持っている、なんてことも考えたりする。特に色々な部分であまり恵まれていないようなチームでこそ、監督の仕事ぶりがよりはっきりとわかるものだ。そういう意味では、まだ(監督業に)片足を突っ込んでいたのかもしれないが、基本的には、サッカーを楽しんで見ながら悠長に暮らしていたか、横になって昼寝でもしてたほうが良いなんて言い聞かせたりもしていたんだ(笑)」

そんな“隠居生活”を送っていたハインケスだが、不振を極めた古巣の窮地を救うため、カルロ・アンチェロッティの後任として招聘された。当時は適格な人物を見つけることができず、苦肉の策とも見えたものの、ハインケス自身ははじめから成功を確信していたという。

「私自身がどうだと言うつもりは全くない。私には多くの経験があるし、常に現実的な人生を送ってきた。特にサッカーでのキャリアにおいてはね。浮き沈みもあれば、成功だけでなく失敗もある。昨年の10月初めに監督の座を引き継いだ時、私は成功を確信した。選手たちのことも、チームのことも、コーチングスタッフのことも、そして私自身のリーダーシップについてもよくわかっていたからだ。しかし、まだシーズンは終わっていない」

Jupp Heynckes exclusive

■どのような理念を持って蘇らせた?

ハインケス就任はチームそのものを蘇らせ、復活に導いた。さらに、ハメス・ロドリゲス、ハビ・マルティネス、コランタン・トリッソ、トーマス・ミュラーといった前任者の下では真価を発揮できていなかった選手たちも輝き始めた。その最たる例がキングスレー・コマンだ。コマンには「クロスを上げる前にもっと顔を上げろ」とシンプルなアドバイスをしたとされるが、そこにはハインケス自身の学びが裏付けられていたようだ。

「全て私が経験してきたことは、友人でもあるヘネスから教わったことがベースになっているんだ。彼はとても情熱的な指導者であり、特に細かな仕事を重要視する人だった。彼は我々にシュート、ヘディング、パスなど多くの練習を課した。そして私はバイエルンでそれを素晴らしい選手とともに行っている。まずボール扱いに自信を持っていなければならない。そのためには、いくつかのシチュエーションを切り取ったような練習を繰り返し何度も行うんだ。テニス選手が大きな大会の前に毎週500本のサーブを打ち込むようなものだね。サッカーにおいては、ポジショニング、パス回し、ビルドアップ、クロス、ゴール前への入り込み方など多くのことを習得しなければならない」

続けて、レヴァークーゼン時代にはシモン・ロルフェスに「あなたは、常に正しいボールコントロールをしているか、正しいポジションをとっているのかなど多くのことを的確に指示してくれました」と伝えられたことも明かす。「出会った中で最高の監督」と称されたことには笑みを見せつつ、「問題点を把握し、それを正しく修正することこそ、指導者にとっては最高の芸術と言えるだろう」と誇った。

ジョゼップ・グアルディオラ時代のバイエルンは、緻密なポゼッションスタイルで欧州を席巻した。常にボール支配率では6割を超え、相手にボールを明け渡すことを良しとしなかった。

一方で、ハインケスのスタイルはボールを持つことを絶対視せず、ときにダイナミックに攻め、難しいことをピッチで実現しようとしていないように見えながら、ゴールを陥れる。その強さの秘訣としてハインケスは、ペップ同様に距離間や選手の配置が重要となることを意識しつつも、ときにはシンプルなことが大きな武器となることも強調した。

「ポジショナルゲームを展開する上で、全ての選手は自分が何をするべきかを理解している必要がある。昨今では、選手の動き方を見るだけでその選手が本当にクオリティの高い選手なのかどうかがわかる。チームの攻撃に合わせて効果的な動きをしているか、正しいスペースを突けているか、正しい距離感を持てているかなどだ。ポジショナルプレーとは、深さ、それもただ単に前後の動きではなく、緩急の変化、深い位置に縦パスを入れられることで、はじめて効果的なプレーと言える。こうしたプレーができること、そしてゴールに向かう過程でそうした道筋を進むプレーができることが選手には求められる」

「2013年に我々は3冠を獲得したが、それは我々のチームが、ポジショニングと爆発力、そして深い位置にボールを入れられる能力を兼ね備えていたから出来たことだろう。ときにシンプルなことが、最も効果的なことになる」

Jupp Heynckes exclusive Goalドイツ版編集部のニクラス・ケーニッヒのインタビューに応じたハインケス

■ハインケスが大事だと思うこと

一方で、ピッチ外の原理原則にも言及。ハインケスは「すべての選手、スタッフをリスペクトすることはとても重要なこと」と話し、信頼を伝えることが力につながると語った。

「肌の色、宗教、身分が違おうと、人間は皆同じ価値を持っていると思っている。さらに、選手たちに対してはオープンで、真摯に、そして正直に向き合うことで信頼を築くことができる。私の大きな強みは、選手を信頼することで、それに応えて選手も私のことを信頼してくれていることだと思う。それが成功するためには、共通して言えることではないか」

Jupp Heynckes

ハインケスが監督としてのキャリアを歩み始めてから39年。現在のサッカービジネスはとてつもない発展を遂げた。データやスタッツは今日、非常に大きな役割を果たしている。こうした発展にハインケスはどのように考えているのだろうか。

「選手にデータを与えすぎてはいけないし、データの中から本当に重要なポイントを見出す必要がある。基本的には、私は現代のツールを肯定的に捉えているし、時代に即したものだと思っている。多くのヒントを与えてくれるものであることは間違いないからね。別に私がそうしたものを扱うには、年を取りすぎているとも思わないよ。しかしもう一方で、私の経験を基にした指標も非常に有益なものだと思っている。ほとんどのケースで私自身で感じたものは、フィットネスコーチやスポーツ・サイエンティストたちが与えてくれるデータと一致しているけれどね」

ビデオによる分析についても「非常に重要」と認める。一方で、机上の空論とならず、ピッチで実践することが大事と主張することも忘れなかった。

「試合の分析は非常に重要なことであり、相手チームのストロングポイントとウィークポイントが編集された映像から我々のアナリストとともに分析をして相手チームの対策を立てているよ。私自身が見つけたポジティブ、ネガティブなポイントと合わせて、ビデオを用いた試合分析は重要なことだ。いまでは昔に比べてはるかに映像技術が発達し、分析がしやすくなった。しかし、ただ映像で頭にいれるだけではなく、練習場でそれを基に実践することが重要だ」

最後に今シーズンの目標について語ってもらった。

「ブンデスリーガでチャンピオンになることだ。また、ポカールとチャンピオンズリーグでも成功を収めたい。チャンピオンズリーグは、移籍市場で補強を行ったいくつものトップクラスのチームが勝ち残っているから、とても難しいのは間違い無いだろう。ヨーロッパの大会が年々難しくなっているのはブンデスリーガの他のクラブにも同じことで、バイエルンにとってもこれまでの歴史で成し遂げてきたような国際レベルでの成功を収めるのは年々難しくなってきている」

契約は今季終了までとなっているものの、クラブ側から慰留されるハインケス。仮に5年前と同様、3冠という完璧な成績でシーズンを終えられれば、ハインケスにとって最高の最後となるだろう。

インタビュー=ニクラス・ケーニッヒ/Niklas Koenig
構成=Goal編集部

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