■ストライカーの自尊心を傷つけられた2017年
うつろう視線を一点に集中させ、背筋を伸ばして一歩、また一歩と足を進める。前田遼一の変わらぬ日々は練習後、毎日続く。時には車を走らせ、誰もいない練習場にやってくると、「コンディションを落としたくないから」と一人グラウンドを走ることもあった。ジュビロ磐田時代から続けるルーティンワークは、気づけばFC東京の小平グラウンドでも、見慣れた日常の光景となっていた。現状よりも一歩先へ。そうした日々が、前田が前田である理由を蓄える。
今季で、プロ19年目を迎える。その人生の半分以上をプロとして過ごしてきた。ふと立ち止まり、自らの足取りを振り返って「最近はそれを幸せに思うかな」とつぶやくように言う。同学年の石川直宏が昨季限りで引退し、気づけばチーム最年長選手となっていた。
「少しさびしい気持ちはあったけど、いざチームが始動してみると、これまでと何も変わらないかな」
一方で、今年に懸ける思いは、これまでとは明らかに違う。
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チームは昨季、2011年のJ1再昇格以来最低となる13位と不振に陥り、総得点も過去7シーズンでワーストの37と大苦戦。混沌のシーズンを送る中で、前田は「不平不満を言ってもいいことはないし、あまりそういう言葉を口にするのは好きじゃない」と、自身と向き合いながらチームのために何ができるかを考えてきた。
「ただ思うことはたくさんあって、良くない中でも、自分のプレーでチームを良くしたいという思いが、去年はとにかくあった」
だが、そうした思いとは裏腹に、リーグ26試合に出場したが、先発したのは半分の13試合。終わってみれば、自身もFC東京加入後最低の1得点しか奪うことができなかった。磐田時代に2度の得点王に輝き、J1歴代通算153得点を誇る点取り屋の自尊心がひどく傷ついたのは想像に難くない。
前田は、不甲斐ない自分に怒気を込めてこう吐き出した。
「昨シーズンは何もチームに貢献できなかった。その分、今年こそやらなきゃという気持ちが強い。でなければ、来年はない。自分を追い込むつもりはないけど、しっかりと緊張感を持ってやっていきたい。去年の悔しさをはらすために、たくさん点を取ってチームの勝利に貢献したい」
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■37歳を迎えてもなお、色褪せない向上心
そして、迎えた今季は、開幕前から何かが違っていた。出場した練習試合(17日の横浜F・マリノスとのプレシーズンマッチを含む)5試合でチームトップタイの4得点と、コンスタントにゴールを重ねている。
「自分が点を取って、チームが試合にも勝てていることはうれしい。だけど、一番大事なのは開幕して公式戦に勝つこと。そこでとにかく結果を出したいという気持ちが強い。だから、ここからが大事だと思っている。とにかく点を取ってチームの勝利に貢献することが一番。結局、FWはそこが一番求められる。それができれば試合にも出られるだろうし、それを追い求めていきたい」
本人にとっては、日々のルーティンワークであっても、その姿を目の当たりにした周囲の選手からは多くのリスペクトを集めてきた。彼がゴールネットを揺らすと、仲間たちと、青赤の歌唄いは歓喜に沸く。それは、重ねた日々の重さを知るからだろう。今季FC東京U-18からトップ昇格したFW原大智もその一人だ。彼は、前田を「手本にしていきたい」と言う。それを本人に伝えると、「そう言われることはうれしい。でも…」と言って続ける。
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「自分も周りの選手を見て学ぶことは多い。去年、本当に点が取れていないから、そこには自分自身に原因があると思っている。もちろん大智からも勉強になることがある。大智は、ユースだけど点を取ってきている。動き出しとか、ああやったほうがいいなってすごく参考になる」
ときに悩み、全てを受け入れて進んできた。そんな19年目の真のプロフェッショナルは、「ベンチで見ているだけの存在にはなりたくない」と言葉にした。
2015年に「自らを変えたい」と移籍を決断し、サックスブルーを脱いで青赤へと着替えた。移籍当初に比べれば、自らの言葉で思いを表現するようになり、プロモーション企画にも積極的に出演するなど、寡黙な点取り屋はじっくりゆっくりと殻を破り続けてきた。
「少しは変わったかもしれない。でも、自分的には、そこも変わって、さらに勝利にも貢献したい思いが強い。そっちが一番大事なことだから、そこをもっと求めたい。とにかく試合に出続けて、点を取って勝利に貢献して。そうやって、シーズンをフルで戦いたい。去年も、そんなに試合に出られなかったし、フルで戦えたイメージはないから。常に試合に出続けたい」
前田が求める姿は、いつも変わらずシンプルで明快だ。自らのゴールで、チームを勝利に導く。ゴールを希求し続けたストライカーの矜持が、そこにある。今年で37歳になっても、夢中でボールを蹴っていた幼いころから変わらぬ思いがある。「もっとうまくなりたい。もっと点を取りたい」。彼の無垢な気持ちは、少しも色褪せてはいない。むしろ、純度が増しているようにさえ思える。
文=馬場康平

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