逆境が人を強くする――。今夏、J2のFC琉球からセレッソ大阪に加入した鈴木孝司に相応しいフレーズだ。度重なる大ケガにより一時は引退も危ぶまれたが、幾多の苦難を乗り越え復活。J1のピッチで逞しい姿を見せている。30歳になってもなお、成長を続ける要因とは。紆余曲折を経て辿りついたJ1の舞台で奮闘するストライカーにスポットを当てた。【文=小田尚史】
■度重なる大ケガで一時は引退の危機に
©J.LEAGUE前節の明治安田生命J1リーグ第30節・松本山雅FC戦、C大阪の鈴木孝司がJ1で初先発となるピッチに立った。30歳でのJ1初先発。周囲は騒ぎ立てるが、本人は至って冷静だ。「今がそのタイミングだった。遅いとも早いとも思わない。すべての経験が今の自分には必要なことだった」と言い切った。
もっとも、ここに至る過程において、多くの苦難を乗り越え、努力を重ねてきたことは想像に難くない。
神奈川県出身、横浜F・マリノスジュニアユース追浜から桐光学園高校、法政大学を経て、2012シーズンにFC町田ゼルビアへ加入した鈴木は、プロ1年目は18試合に出場して無得点。チームも最下位に沈み、J2からJFLへ降格した。2年目はレギュラーを掴み、15ゴール。J3が創設された2014シーズンは19ゴールを挙げてJ3の初代得点王に輝いた。続く2015シーズンも12ゴール。チームも2位に躍進すると、大分トリニータとのJ2・J3入れ替え戦では、3ゴールを奪う活躍。4年ぶりのJ2復帰の立役者となった。意気揚々と臨んだ2016シーズンも、夏場までにJ2得点ランク2位タイとなる12ゴールを決めた。
しかし、ここからサッカー人生が思わぬ方向に転がっていく。16年8月のレノファ山口FC戦で左アキレス腱を損傷。全治半年の大ケガを負うと、2017シーズンの始動直後に同じ箇所を再び断裂。復帰したのは8月に入ってから。結局、復帰後は2得点にとどまり、翌18シーズンも5得点。数々の歴史を作ってきた町田での完全復活は叶わず、昨季限りで契約満了を告げられた。
「このまま引退するのかな…」ということすら頭をよぎったなかで、合同トライアウトに参加。今季からJ2を戦うFC琉球からのオファーを勝ち取ると、温暖な沖縄の気候、天然芝の練習環境も足の負担を軽減する助けとなり、再び得点を重ねていった。開幕から27試合で15ゴール(当時の得点ランク2位)という状態で届いたのが、今夏のC大阪からの“電撃オファー”だった。
■迷いなく決断したC大阪への移籍
©J.LEAGUEC大阪の事情についても触れておくと、今季から就任したロティーナ監督の元、ポジショナルサッカーの習得に努め、次第に戦い方が浸透。結果も付いてきた。ただし、第11節の横浜F・マリノス戦で、都倉賢が右ひざの前十字じん帯損傷および外側半月板損傷の大けがを負う。ブルーノ・メンデスがフィットし、奥埜博亮のコンバートで前線の再構築には成功したが、FWの頭数は足りない。
ロティーナ監督も補強ポイントとして点取り屋をリクエストすると、夏の移籍市場で強化部がリストアップした選手が鈴木だった。大熊清チーム統括部長によると、「町田時代から目を付けていた選手。自分が(C大阪の)監督をしていたときも決められている。頭に残っていた」という。ロティーナ監督とも相談の上、「監督もすぐにOKの返事をくれた」(大熊チーム統括部長)。すでに8月に入っており、考える時間は短かった鈴木も迷うことなく決断。移籍が成立した。
合流初日の練習後、「周りのことも理解して、自分のことも理解してもらって、早く溶け込んでいきたい」と笑顔で話す姿が印象的だったが、初出場は第23節の横浜FM戦。途中出場で勝利に貢献すると、ここからチームは破竹の5連勝を達成。その過程において、鈴木が果たした役割は小さくない。第25節の川崎フロンターレ戦では、途中出場で決勝点。渾身のヘディングを叩き込み、ヤンマースタジアム長居を熱狂の渦に巻き込んだ。
続く第26節の浦和レッズ戦でも、66分に途中出場すると、82分にボールを収めてターン。緩急で振り切り、阿部勇樹に2枚目の警告を誘発させて退場に追い込むと、1-1で迎えた84分。右サイドで起点となり、松田陸、水沼宏太らと崩しに関わり、のちの9月度J1ベストゴールとなる田中亜土夢のゴラッソが生まれた。
シーズン途中の加入で、初のJ1。さらには上位争い。緊張する要素はあったはずだが、そうした硬さは感じさせない。「J1は相手のレベルも高いし、練習からいい緊張感でやれているけど、環境の変化による戸惑いはない」と、初のJ1にも臆することはない。「よく収まるし、周りを使うのもうまい」(松田)と味方も証言するスタイルで、ロティーナ監督のポジションを大事にするサッカーにも素早くフィット。「ポジショニングは細かいけど、体に染み付いているところもある」と自身も満更でもない。
■求められる“役割と個性”の融合

FWでプレーし始めたのは「大学4年から」だという鈴木。それまでは「ボランチやトップ下」が主戦場。ゴールから逆算された動きは、「FWにはこう動いて欲しい、と思ってやっていた」ボランチ時代の経験も生かされている。
ただし、チーム戦術に必要なポジショニングが取れるがゆえに抱えている現在の葛藤が、「チームとしての役割を果たすことに意識が傾き過ぎることで、FWとしての自分のプレーが出せなくなる」こと。冒頭の松本戦。先制点の場面では、舩木翔のパスに抜け出した鈴木が背後で起点となり、その後、ボランチを経由して右サイドの松田のクロスからゴールが生まれた。クロスに対しても、ニアに飛び込み、DFを引き連れ、ソウザが入るスペースを空けている。
作りにおいて、フィニッシュにおいて、チームのなかで求められる役割は果たしたが、自身がボールを受けるスペースは少なく、DFの背後も取れず、放ったシュートはゼロ。「エゴにはならないようにしながらも、もっとFWとして積極的に前を向いてシュートを打っても良かった」と、ほろ苦さも残るJ1初先発となった。
「ゴールに直結する動きが多く、最終的に自分がゴールを決めることに専念していた」琉球時代から一転、「ポジショニングや戦術的な要求は細かい」ロティーナ監督のサッカーを追求していく上で、「深さを取ったり、サイドに流れたり、与えられた役割を果たしつつ、FWとしてゴールに向かって結果を出す」ことの両立は、簡単なことではない。
“役割と個性”の融合は、今季、多くの選手が最初に当たった壁でもあった。それでも、試合を重ねるごとに順応してきた。鈴木も、このチームでの先発は、前節が公式戦2試合目。慌てることはない。とは言え、FWの軸であるブルーノ・メンデスは今節も欠場が濃厚。鈴木に懸かる期待は自ずと増す。
現状、上位3チームとの差は開いているC大阪だが、残り4試合、ACL圏内を目指しての一戦必勝の戦いは続く。鈴木自身、「自分がセレッソに来た意味をプレーと結果で示したい」とシーズン終盤戦に懸ける思いは強い。今節の湘南ベルマーレ戦では、紆余曲折を経て辿りついたJ1の舞台で奮闘する背番号18の、一挙手一投足に注目したい。
文=小田尚史
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