■特殊なクラブ事情
シント=トロイデンは近年、着実にチーム成績を向上させてきた。2014−2015シーズンにベルギー・プロキシマス・リーグ(ベルギー2部)で優勝を果たしてジュピラー・プロ・リーグ(1部)へ昇格して以降は国内トップリーグで14位、12位、10位と成績を伸ばし、昨季は7位に入った。惜しくも6位以内のチームが参加できるプレーオフ1入りは逃したが、2017年11月15日に日本企業のDMMグループがクラブの経営権を取得してからは積極的なチーム強化策が功を奏して結果に表れ始めている。
シント=トロイデンは昨季から引き続きマーク・ブライス監督が指揮を執るも、そのチーム構成は刻一刻と変化している。2018−2019シーズンは21人の新加入選手(レンタルバック選手も含む。以下同)、24人の放出選手(レンタル移籍を含む。以下同)、そして今季も21人の新加入選手、13人の放出選手と、積極的に陣容の刷新が図られてきた。

それはシント=トロイデンが多くの日本人選手を獲得、そして放出してきた過程からも分かる。昨季のチームの中軸を担ったFW鎌田大地(→フランクフルト/ドイツ)、MF遠藤航(→シュトゥットガルト/ドイツ)、DF冨安健洋(→ボローニャ/イタリア)、またシーズン終盤戦にレギュラーを勝ち取ったMF関根貴大(→インゴルシュタット/ドイツ)はすでにベルギーを離れ、DF小池裕太は昨季のシーズン中に鹿島アントラーズへレンタル移籍。そして出場機会を得られなかったFW木下康介(→スターベク)はノルウェーに新天地を求めた。鎌田と関根はレンタルバック、遠藤はレンタル移籍の形だが、それでも昨季在籍した日本人選手が今季に入ってから全員チームを去ったという事実は特殊なクラブ環境を示している。
■劇的変化の代償は大きく…
©STVVシント=トロイデンは今季も積極的に日本人選手を獲得している。日本代表GKのシュミット・ダニエルをJリーグのベガルタ仙台から、そして鹿島アントラーズからFW鈴木優磨を迎え入れ、来年の東京オリンピックへの出場を目指すU-23日本代表の伊藤達哉をもハンブルガーSV(ドイツ)から獲得。3人はいずれも完全移籍だが、伊藤に関しては150万ユーロ(約1億7,000万円)もの移籍金を相手先へ支払っており、クラブの資金運用やチーム戦力の底上げなどを加味した、将来を見据えた補強策として現地では捉えられている。また、日本人以外のアジア人選手獲得にも積極的で、ベトナム代表FWグエン・コン・フォン、そして移籍マーケット期間締め切り間際のタイミングで韓国代表MFイ・スンウをイタリア・セリエAのヴェローナから完全移籍で獲得した。
一方で、クラブサイドが施す劇的とも言える新陳代謝の過程で、チーム構築の困難さにも直面している。特に昨季のチームの幹を成したセンターラインの喪失は予想以上にチームにダメージをもたらしている。
昨季途中にプレーメーカーのMFロマン・ベズスをリーグのライバルであるヘントへ放出した時点でチームの攻撃構築が減退する兆しはあった。それに加えて今季はチーム内得点王だった鎌田が所属先のフランクフルトへ戻ったことで、彼に次ぐゴール数を記録していたFWヨアン・ボリひとりに得点を託す状況が生まれてしまった。そのボリは移籍マーケット終了直前まで他クラブへの移籍が取り沙汰されたことも相まってリーグ戦5戦連続ノーゴールとスランプに陥ったが、結局今夏はチームに残留し、8月31日のリーグ第6節・オイペン戦で今季初ゴールを含む2得点をマークしてようやく復調の兆しを見せている。ただ、このままボリだけに頼る攻撃構築はチームとして拙く、ブライス監督はエースストライカーのパートナー候補として鈴木優磨の名前を挙げ、負傷から戦線復帰したばかりの日本人FWに期待を寄せている。
また、シント=トロイデンはサイドの人材不足も深刻化している。右サイドは主にジョーダン・ボタカがポジションを守っているが、関根、キャスパー・デ・ノーレ(→ヘンク)を失った左サイドは最適任者を見出せていない。ブライス監督としては、ここに伊藤を抜擢して戦力を整えたいところだが、8月22日に正式加入した伊藤のデビューは国際Aマッチウィーク明け初戦となる9月14日のリーグ第7節・ワースラント=ベフェレン戦以降になりそうだ。ちなみに伊藤は9月2日からのU-22日本代表の北中米遠征メンバーに選出されなかったため、リーグ中断期間中のチームトレーニングに常時参加して順応する機会を得られている。
ネガティブなポイントはそれだけではない。約900万ユーロ(約10億4,000万円)でボローニャへ移籍した日本代表DF冨安の穴を埋めるのは容易ではなく、守備陣にも問題を抱えている。ブライス監督は24歳のベルギー人DFウォーク・ヤンセンスを3バックの左ストッパーで起用するもディフェンス力が高まらず、チームは開幕からリーグ戦4試合で10失点を喫した。そこで指揮官は定型の3-4-1-2だけでなく3-4-3や4-2-3-1、そして4-3-3などの様々なシステムを駆使して現状打開を図り、第5節・ズルテ・ワレヘム戦(△0-0)、第6節・オイペン戦(○2-0)では連続無失点を記録したものの、対戦相手との力関係を考慮すればいまだに守備強度が改善されたとは言いがたい。システム変更は先述のサイドエリアの人材不足とも関連していて、一朝一夕では改善を図れるようにも思えない。
GKは正守護神のケニー・ステッペが負傷で出遅れる中でシュミットに出場機会が与えられ、チーム成績が停滞する中でも個人のプレーパフォーマンスを高めて評価を得つつあるが、まずはチーム全体の守備組織整備が成されなければ今後シュミットも過度なプレッシャーにさらされる懸念がある。
■指揮官の起用法が成長のきっかけに?

ただ、ブライス監督は昨季もシーズン中に様々な試行錯誤をしながら、月日の経過と共にチーム体制を適切に整えてきた実績がある。
ブライス監督は一日3部練習のスパルタ式トレーニングを課すタイプの指揮官で、選手たちに日々のフィジカル強化と仔細な戦術指導を施して急造チームを熟達した組織へと成長させる術を持つ。また指揮官はプレーヤーの素養を見抜く見識眼を備えていて、所属選手にこれまでのキャリアとは異なる役割を与えて各々の才能を開花させてきた。例えば鎌田は本来トップ下が最適ポジションだが、昨季のチームではボリと共に縦関係の変則的2トップを形成させ、その得点能力が存分に引き出された。
今季シュトゥットガルトへレンタル移籍した遠藤はアンカーのサミュエル・アサモアとポジション争いをするのではなく、その前のインサイドハーフ的なポジションに抜擢されて前線からのプレスワークを敢行させると共に、攻撃面でも多大な役割を求めて新境地を開拓させた。その遠藤は現在の所属先のシュトゥットガルトでダイヤモンド型中盤のサイドMFでの起用を考慮されているが、それはかつての指揮官の起用法がティム・ヴァルター監督の遠藤への評価に、何らかの影響を与えていることを示唆している。
したがって、今季加入した日本人選手も、ブライス監督によって新たな能力を引き出されるかもしれない。例えば伊藤はこれまでHSVで4バックシステムのサイドMFでプレーした期間が長かったが、新天地では3バックシステムのサイドアタッカー、もしくはウイングを任されるかもしれない。伊藤も「ドリブルや攻撃の部分に注目してほしいと思います」と述べており、チャンスメーカーとして結果を残す覚悟を示している。
一方、チームの得点源として期待される鈴木はスピーディでカウンター能力に秀でるボリとの共存で、いかに自らの個性をチームに落とし込めるかが鍵になるだろう。鈴木はシント=トロイデンでのデビューにして負傷からの復帰戦にもなったオイペンとの一戦後、「8か月ぶりにフィールドに立てたことは大きな収穫ですけど、ここからは点を取ることに集中して、シーズンが終わる頃にできるだけゴールを決められるように頑張ります」と決意の言葉を発した。GKのシュミットに関しても、多国籍な人材が居並ぶベルギーで今まで出会ったことのない挙動を示すFWらと対峙することで、ゴールキーピングの新たな術を会得する動機付けが生まれるはずだ。
ベルギー・ジュピラー・プロ・リーグはレギュラーシーズンを経てプレーオフを戦うレギュレーションのため、シーズン序盤の躓きは大きな代償を払うリスクを孕む。ただ、それでも2019−2020シーズンのシント=トロイデンは所属選手たちにとって、様々な経験とスキルを得られる貴重な“学び舎”になる可能性をも秘めている。
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です



