伸ばした足こそ成長の証だった。
5月27日、イタリアとのグループステージ最終戦は堂安律(ガンバ大阪)の独擅場だった。前半から日本のチャンスのほとんどに、この男の左足が絡んできていた。G大阪ジュニアユース時代からの僚友であるMF市丸瑞希(G大阪)は最大級の賛辞を贈る。
「(堂安は)凄かった。サイドで持ったら一人、二人はかわしていたし、間に上手く顔を出してくれたから(パスも)出せた。シュートも決めてくれて、あいつがいなかったらどうなったか分からなかった」
中でも圧巻で、強く記憶に残るのは2点目のゴールだろう。市丸の強気のパスを受けて相手ディフェンスライン手前でボールを受けてからのドリブル突破。4枚をはがして決めたゴールは元アルゼンチン代表のスーパースター、ディエゴ・マラドーナを観ているかのようだった。ファンの間で“マラドーアン”なんて言葉が交わされたのも無理はない。それくらいの強いインパクトだった。
「相手が遅かったというか、前半から『相手遅いな?』と思っていた。自分が調子良かったのかな」と、少々とぼけて語った表情にあふれていたのは充実感である。
「立ち上がりは(チームが)悪すぎて、ちょっと正直焦ったところがあったんで、何とか自分が気持ちを見せるというか、『俺がやってんねんぞ』というところを見せれば、チームが少し変わるかなと思ったので、無理なところでも多少ちょっと仕掛けに行きましたし、そういうところは意識して、そこからプレーを変えた」
強気のパス交換、強気のドリブル、強気のランニングに強気のシュート。背番号7から感じられたのはエースの風格のようなものだった。
単に才能を披露したというだけではない。2点目のスーパーゴールが堂安の持っている資質を証明するものだとしたら、1点目のゴールは堂安の変化と進化を証明するモノだった。パス&ゴーの原則そのままにゴール前の危険地帯へ入り込んでいく様は、南アフリカ戦の決勝点にも通じるもので、決して偶然の産物ではない。MF遠藤渓太(横浜F・マリノス)から送り込まれたアーリークロスに目一杯伸ばした足を合わせ、ゴールネットを揺らしてみせた。
「あれこそガンバで求められていたプレーというか、ワンタッチで点を取るプレーは自分には今までなかったプレー。求められていることができてきているのかな、成長したところかなと思う。ああいうゴールが一番簡単ですし、本当に足を伸ばして気持ちで決めたので。ああいう怖いところに入っていければ得点量産んできると思うので、そこは良かったです」
前日練習を観ながら、記者仲間と「負傷した小川航基の穴を埋めるのは堂安しかいないだろう」という話もしていたのだが、まさにそうして寄せられる無言の期待に「どや」と応えんばかりのプレーぶりだった。ゴールパフォーマンスではその小川のユニフォームを高らかに掲げてみせた。同部屋で過ごし、深い敬意も抱いてきたエースに対する思いをアピールしてみせた。
そもそも小川のユニフォームを取ってきて掲げさせたのは堂安が頼んだことだったと言うから、お涙ちょうだいのコメントを欲しがる記者陣の質問を当初は「絵になるかなと思った」と言って照れ笑いと共にかわしていたが、本心は「自分のできることはピッチで表現して、ああやって勇気付けることやと思うので。あいつのために今日は戦おうと思っていた」とも語った言葉のほうだろう。
G大阪で結果を残した流れのままに臨んだ世界舞台で、堂安律は一皮むけて大きく羽ばたこうとしている。エース離脱という危機に瀕したチームを救う働きを見せた堂安。伝統国イタリアを相手に見せた圧巻のパフォーマンスは、才能の証明であり、努力の証明だった。
文=川端暁彦
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