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取り戻した自信と闘志。浦和の“組長”大槻監督が残した置き土産

■崖っぷちから盛り返した要因

約3週間前、浦和レッズは崖っぷちだった。

4月1日の明治安田生命J1リーグ第5節・ジュビロ磐田戦を1-2で落として開幕5試合勝ちなし。降格圏の17位に沈む危機的状況だった。事態を重く見たクラブは、昨季AFCチャンピオンズリーグで10年ぶりのアジア制覇に導いた堀孝史前監督との契約を解除。クラブの育成ダイレクターである大槻毅氏を暫定監督に据えた。

「前日の夜中にオファーを受けた」と急転直下の就任。チームを託された大槻監督がまず手をつけたのは、日々のトレーニングからの意識付けだった。初めて練習場に立ったのは就任当日の2日。勝てない現状だからこそ、練習から選手へ自信を取り戻させることを念頭に、早速改革を敢行した。

「リカバリートレーニングのところでも『次の試合が始まっている』という雰囲気を作った。選手はそれを感じたのか、リカバリー組も最後までトレーニングを見ていた。(試合に向けて)18人を選んで、そこからまた11人のスタートを選ばなければいけないんですが、そこに入っていないメンバーも素晴らしい姿勢を見せてくれた」

トレーニングから「一体感」を持たせた大槻監督は、ここから怒涛の巻き返し劇をけん引する。4日のJリーグYBCルヴァンカップでリーグ絶好調のサンフレッチェ広島と引き分けると、続く7日のベガルタ仙台では、ミラーゲームを演じて1-0の完封勝ち。リーグ初勝利を手にした。

試合中に身振り手振りのオーバーアクションで、サポーターのブーイングを煽ったり、選手を鼓舞したかと思えば、倒れた選手には「やれよ!こけてんじゃねぇよ!おめえ!」と痛烈な檄を飛ばす。髪をオールバックで固め、鋭い眼差しで指揮を執るその衝撃的な絵面は、大きな話題を呼んだ。

その厳つい風貌は瞬く間に注目されると同時に、浦和の雰囲気をガラリと変えてみせた。巷では「組長」「アウトレイジ大槻監督」という愛称が付き、槙野智章がインスタグラムでイジるエピソードも飛び出した。大槻監督自身は、この風貌の意図として「スイッチを入れたかったから」と説明する。

「僕は見た目で判断することは好きではないですが、見た目が非常に重要であることも理解しています。こういうクラブの代表として、顔として仕事をするときに、しっかりとそういったところは、何かしらスイッチを入れたいという意図はありました」

そんな闘将の下、浦和は飛ぶ鳥を落とす勢いでリーグ3連勝。「ピッチの上で表現されるものは、トレーニングで積み上げたものしかない」と指揮官が語るように、チームが盛り返した要因は「非常にいいトレーニングをして、少しずつ上積みをした」ことにあると断言する。

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■闘将が残した置き土産

トレーニングから意識付けする改革は確実に選手たちへ浸透していた。守備の要である槙野智章は「チームが何をしなければいけないのか。個人が何をしなければいけないのか。この3週間でしっかり理解できた」と語れば、10番を背負う柏木陽介は「キャプテンとしてモチベーションの上げ方とか、よくやってもらった。すごい得られるものはあった。出会えて良かった」と口々に“組長”効果を語っている。

そんな中、クラブは19日にかつて鹿島アントラーズを率いてリーグ3連覇を達成したオズワルド・オリヴェイラ氏を招へいしたことを発表。25日の第10節・柏レイソル戦から指揮を執ることが決定した。これにより、大槻監督は21日の北海道コンサドーレ札幌戦がラストゲームとなった。

札幌戦を前に大槻監督は「浦和レッズの監督という名誉ある仕事をさせていただいたことを誇りに思っています。そう思わせてくれたのはファン・サポーターのみなさんであり、このスタジアム。感謝しかありません。声が身体に染み通っていき、背中を押してくれるというのは、監督を経験しなければ、ここまで実感できなかったことです」と熱い思いを吐露。赤く染まった埼スタで、鳴り響く大歓声を後押しにこの3週間を駆け抜けた。

戦前の予想通り、札幌との戦いは肉弾戦となった。3バックの布陣を敷く両者はミラーゲームの様相を呈した。2012年から5年半にわたり浦和を率いたミハイロ・ペトロヴィッチ率いる北の雄も、リーグ3連勝中と絶好調。浦和を熟知するミシャの策に手を焼き、結局最後まで決め手を欠いてスコアレスドローに終わったものの、公式戦6試合で無敗を継続。39,091人の大観衆を前に、大槻監督はきっちりと仕事を勤め上げた。

「浦和レッズを背負って戦うときには、どこであろうと同じだけの闘志とプレーを見せるようになってほしい」

選手へは一貫して自信を取り戻させることに専念した。

「あなたたちは日本で最もサッカーがうまい人たち。プライドを持ってプレーをしよう」

闘将が残した置き土産は、計り知れないほど大きなものだった。その熱い思いは必ずや選手に継承され、これまで以上に闘う姿勢を披露してくれることだろう。この3週間で得た自信と闘志を胸に、選手たちは新たに始動するオリヴェイラ新体制でさらなる浮上を誓う。

取材・文=大西勇輝(Goal編集部)

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