「自分のような経歴の選手がJ1でプレーするのもおもしろいんじゃないかと思うんですよ」
自分が歩んできたキャリアを笑いながらそう話したことがある。異色のキャリアを持つ選手が33歳にして初めて日本最高峰のリーグに挑戦する。それがV・ファーレン長崎の前田悠佑だ。高校は決して強豪校とは言えない公立の筑前高校出身で、高校卒業後は大学に進学するも、これも決して強豪校とは言い難い西南学院大学だった。
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■前田の原点を作った社会人サッカー時代
前田も「西南学院大学からプロになったのは自分が初めて。そして、筑前高校も多分、僕が初めてなんですよ」と話すように東福岡高校や福岡大学のようにプロになる選手を次々に輩出するような環境ではなかった。それでも「大学のときからプロへの思いはあった」と前田は心のなかに明確な目標を抱いていた。大学3、4年次にはJクラブへの練習参加も経験するが獲得オファーには至らず。大学卒業後に進んだのは当時、九州サッカーリーグに所属していたホンダロックサッカー部。社会人サッカーだった。
しかし、プロへの思いを諦めていたわけではなかった。「活躍できればステップアップできる」と向上心は強かった。だからこそ「練習で手を抜くことはなかったし、それが今でも同じままでできている」と話すように、現在の前田の原点を作り上げた時期でもある。
社会人を経験したことでハングリーさも培った。朝8時に出社し、夕方5時まで勤務。サッカーの練習はそれからだった。「経験できたことでタフになった」と話す。ホンダロックではJFL昇格に貢献するなど主力として活躍。そして2012年、当時JFLだった長崎へと移籍することになる。セレクションを経ての移籍だったが、ホンダロックは会社に籍を置いたまま、他チームのセレクションを受けることを認めていなかったため、退社してのセレクション受験だった。まさに不退転の決意だったが見事に合格し、プロ契約を勝ち取った。
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■28歳という遅咲きのJリーグデビュー
長崎に移籍した1年目でJ2昇格が決まり、前田は28歳にしてついにJリーグでプレーする肩書を掴むことになった。そして、迎えたファジアーノ岡山との開幕戦、前田は86分、幸野志有人に代わってピッチに送り出された。しかし、Jリーグでのスタートはほろ苦いものだった。「僕が出場してから同点に追いつかれちゃったんですよ。だから、『これはちょっとヤベーな』っていう感じでした」と本人も苦笑いして振り返ったように逃げ切れずに追いつかれてのドロー。
Jリーグでプレーする選手になった喜びよりも危機感だけが強く残ったデビュー戦となってしまった。さらに、その危機感はシーズンを通してしばらく続くことになる。チームはJ2初年度ながら快進撃を見せる一方で前田は試合に中々絡むことができず。「毎日『ヤバいな』っていう気持ちしかなかった」と前田は当時の心境について語る。
そこから突き止めていったのは「やれることをやる感覚」だったと話す。「自分に選手としての価値はそんなにない」と自嘲気味に話す。しかし「やっぱり『こいつがいてくれて良かったな』っていうポジションにいるのが狙い」というポリシーを据えた。
「頑張ってボールを拾って味方につなぐ。それを極めていこう」、チームをスムーズに機能させるための“黒子役”としての自分を作り上げていった。長崎がJ1昇格を確定させた昨季のJ2リーグ第40節のカマタマーレ讃岐戦。前田が決めた決勝ゴールはその真骨頂だった。右サイドからのクロスに対して中央で競り合いが生じる。そこで前田は抜群の予測とポジション取りでこぼれ球を回収し、得点へと結びつけた。

「セカンドボールをしっかり狙うっていうことは常に高木(琢也)監督から言われてきたこと。高木監督の下でそういった力を身につけさせてもらったのでそれがあの場面で良い方向に出て良かった」と高木監督とともに重ねてきた努力がもたらした得点でもあった。
そして、33歳にして前田は今季、4度目の“ルーキーイヤー”を迎える。それでも前田は個人よりもチームのことを先に言及する。
「J1ということで長崎県の方々に関心を持ってもらえる面はあると思います。だからこそ、最初が肝心。昨季の終盤のような熱狂を続けるためにも自分たちは結果を出さないといけない」
昨季、結果を生むことで作り出した長崎県の熱狂を簡単に手放すわけにはいかない。そして、選手としての前田が抱いているのはこれまで同様に危機感だ。
「自分はいつでもマイナスからのスタート」と話す。「J1に昇格してよりレベルの高い選手が長崎に来た。自分がそういう選手たちに勝つためにはもっと頑張らないといけない。横一線じゃないんです」
しかし、前田は危機感を向上心へと変えることができる。
「自分が日本代表に選ばれれば満足してしまうかもしれない。でも、まだ選ばれてないですから(笑)。向上心が尽きることはないです。まずはJ1のピッチに立つためにも日々を必死にやるしかない。だから今はその光景は見えないですね」
異色のキャリアを持つ前田が挑む初めてのJ1の舞台。それでも「やれることをやる」という前田の姿勢は何ら変わらない。
写真・文=杉山文宣
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