2015年1月、当時19歳の若武者が挑戦の地をJリーグからオーストリアへと移した。セレッソ大阪からレッドブル・ザルツブルクに加わった南野拓実は、この2年半でオーストリア・ブンデスリーガ、ヨーロッパリーグ(EL)、日本代表、AFC U-23選手権、リオデジャネイロ・オリンピックと、数多くの国際舞台に立ってきた。
プロ入り後初のタイトル獲得。異国の地での激しいポジション争い。サイドアタッカーからFWへの転向。2年連続2桁得点――。かねてから世界を意識し続けてきた南野は、濃密なこの2年半でどのようなことを感じたのか。そして、この先の未来をどう考えているのか。「南野拓実、世界への挑戦」をテーマに、22歳の今の想いを語った。

■「ヨーロッパに来てよかった」と感じた
――今回は「南野拓実、世界への挑戦」というテーマで南野選手にオーストリアでの2年半を振り返っていただきたいと思います。C大阪からザルツブルクに移籍して、早くも2年半が経過しましたね。3シーズン連続でのリーグ優勝、初めてのEL挑戦、日本代表としてはA代表デビュー、リオ五輪出場など、クラブと代表で世界を股にかけて戦ってきましたが、ご自身にとってどんな2年半でしたか。
以前からヨーロッパでプレーしたいという気持ちが強かったので、ザルツブルクに移籍して3回も優勝を経験できたことは、自分にとってすごくいい経験になっています。毎年のように優勝するのが当たり前なチームでプレーできる機会というのはなかなかないですし、タイトルを獲るということは自分のキャリアにおいてすごく重要なことだと思います。それに今の僕たちにはELやチャンピオンズリーグ(CL)に出場するチャンスもある。そういうレベルの高いところでプレーできるというのは選手にとってすごく重要なことだし、自分が望んでいたことなので、「やっぱりヨーロッパに来てよかったな」と感じました。
――ピッチの外でも改めてヨーロッパに移籍したと感じることはありますか。
海外では日頃の生活から自分で何とかしなくちゃいけない状況なので、単純に自分が生活していくためにどうすればいいのかとか、生き方という面でもすごく考えるようになりましたね。サッカー選手としても、人間としても強くなっているんじゃないかと思います。
――実際にこの2年半で「自分のココが成長したな」と感じるところはありますか?
サッカーに関して言えば、自分は毎年のように成長していると感じています。今シーズンも「昨シーズンより絶対に多くのゴールを取って終わる」ということを目標にやっていたので、結果として上回れたのはよかったです。もちろん、満足はしていないですけど、そういう面ではすごく自分の成長を感じています。(※編集部注 2015-16シーズン:32試合10ゴール、2016-17シーズン:21試合11ゴール)

――目に見える結果を残せた一方で、出場時間は昨シーズンの約半分(2015-16シーズン:2,010分、2016-17シーズン:1,140分)にまで減少しました。シーズン途中にはFWでの起用をオスカル・ガルシア監督(※来シーズンからサンテティエンヌの指揮官に就任)に相談したそうですが、その背景をお話していただけますか。
今シーズンはサイドとしての出場時間が短かったので、監督が何を求めているのかを直接聞きに行きました。監督はサイドの選手に攻撃面だけでなく守備についても多くを求めていて、前でボールを奪う回数が多い選手を使うみたいな考えでしたね。もちろんそれだけじゃないですけど、そういうところを重視すると知って、「じゃあ、自分はFWでプレーしたい。そっちの方がチームの力になれる」と監督に話して、そこからはFWでプレーしました。
――実際にFWでプレーしてみて、ご自身の中で一番何が変わりましたか?
たとえば、FWはゴール前のボールをしっかりと収めて、チームの起点にならないといけないですね。チームのために身体を張ることを求められています。ヨーロッパの選手は身体が大きいですし、当たりも激しいので、そこで自分がどうやって起点になれるのか、ゴール前のボールをどれだけ収められるかということをより意識するようになりました。
――今シーズンを振り返ると、第22節のSVリート戦でハットトリック、第27節のアルタッハ戦で2ゴールを決めるなど、複数得点を決める試合もありました。より前線でプレーしたことが一番大きな要因だと思いますが、21試合で11ゴール(※編集部注 約104分出場で1ゴール)と出場時間に対して高い得点率を発揮することができましたね。ご自身の中で具体的に何が変わったと考えますか?
やっぱりゴール前でプレーする方が自分には合っていると思います。相手にもよりますが、ゴールに近いところでプレーできそうな試合では、自分がFWでスタメン起用されました。監督にもそういう意図があったと思うんですけど、そういう試合ではしっかりと点を取れることもありましたね。
逆に自分たちがあまりボールを支配できないだろう試合では、ボランチの選手がFWで起用されることもありました。監督は守備のところを重視しているので、「じゃあ、そういう時でも試合に出るためにはどうすればいいか」と考えたときに、やっぱり単純な守備の一対一の強さとか、ボールをチームワークでどれくらい前に収められるかとか、そういうところが重要になってくるなと感じましたね。
――得点もさることながら、ゴール前でいかに身体を張るということが監督の評価につながっているということでしょうか。
そうかもしれません。ただ、ゴール前で起点にはなれていても、やっぱりまだ出場時間が少ないですからね。相手も色々なチームがいるので、点だけを貪欲に取りにいくのと、チームの戦術に合わせていくのかという点で、どっちがいいのかというのは難しい問題です。でも、やっぱり異なるスタイルのチームから点を取れる選手の方が重宝されると思っているので、そういうところに関して言えばまだ満足はしていないです。
■自分もステップアップしたい

――普段はオーストリアでプレーされていますが、今シーズンはELにも出場されました。初めて(予備予選を除く)ヨーロッパの舞台に立たれましたが、他国のチームと実際に試合をしてみて違いを感じる部分はありましたか?
まずはスタジアムの雰囲気がとてもいいですよね。特にシャルケとかはすごく良かったです。もちろんプレーのレベルも国内のリーグ戦とは一つ格が上でした。自分も早くそういうチームでプレーして、同じレベルに並びたいなと思うし、何よりもやっていて楽しかったですね。レベルの高い相手と対戦するというのは、やっぱりすごく刺激になります。
――そういう意味では、同じレッドブルグループがサポートするドイツ・ブンデスリーガのRBライプツィヒが、一時はリーグ戦の首位に立つなど欧州中を驚かせましたね。来シーズンはクラブ史上初のCL出場も決まっています。ナビ・ケイタ選手やベンノ・シュミット選手など、多くの選手がザルツブルクで一緒にプレーしていましたが、それも大きな刺激になるのではないでしょうか?
そうですね。今も頻繁に連絡を取っている選手はいませんが、ライプツィヒのスタメン半分くらいは一緒にやっていた選手たちですからね。試合とかもよく見ていますし、そういう身近な選手がドイツで活躍しているのはすごく刺激になりますよ。
――ともにプレーした選手たちが一つ上のステージへ上がっていく中で、南野選手とザルツブルクの契約は2018年6月末までと、契約満了まで1年を切っています。このままザルツブルクでプレーしていくのか、別のクラブへ移ることを視野に入れているのか。ご自身の今後のキャリアについてどのように考えていますか。
自分もステップアップしたいと思っています。ドイツ・ブンデスリーガに行きたい気持ちがありますね。オーストリアもドイツ語圏なので語学面では心配いらないですし、まずはドイツに行きたいと思っています。でも、そのためにはチームでしっかり試合に出て結果を残す必要がある。次のステージに向けてしっかりやっていきたいと思います。

――ちなみにドイツで気になるチームはありますか?
具体的に名前を挙げるのは難しいですね。でも、やっぱりELでシャルケとやった時に感じたあの歓声……あのスタジアムで常にプレーできるというのはやっぱりいいだろうなと思いました。
――ドイツはどこのクラブも熱狂的で、サポーターの作る雰囲気が圧倒的ですよね。
そうですね。本当に熱いです。オーストリアとは全然違いますからね(苦笑)。僕らのスタジアム(レッドブル・アレーナ/30,188人収容)はまだいいんですけど、相手チームとか地方のクラブはスタジアムの規模が小さいので……マジで雰囲気が違います(苦笑)。
――確かにあのドイツの雰囲気にはなかなか敵わないかもしれないですね。ここまではクラブのことを伺いましたが、日本代表についても少し伺います。一昨年に日本代表で初キャップを刻み、昨年はリオ五輪にも出場されました。しかし、それ以降はなかなか呼んでもらえない状況にありますね。同じ世代でプレーしていた久保裕也選手(ヘント/ベルギー)や浅野拓磨選手(シュトゥットガルト/ドイツ)が日本代表に定着していますが、率直に今の心境を聞かせてもらえますか?
久保君たちが活躍していることは、ものすごく刺激になりますし、自分も「頑張らないと」という気持ちにさせてくれますね。やっぱり代表に戻りたい気持ちは強いですよ。でも、そのためには誰が見ても選ばれるような結果を残さないといけないと思いますし、そういう場だとも思っています。(ヴァイッド・ハリルホジッチ)監督も試合に出場し続けることが重要と言っていますから、まずはクラブで試合に出て、しっかりと結果を残してしていきたいなと思います。
■結果を残すことがW杯出場にもつながる

――今回は「南野拓実、世界への挑戦」というテーマで、海外での2年半や将来について語っていただきました。そんな世界で戦う南野選手にとって、新しい相棒となる「NEMEZIZ(ネメシス)」はどんな存在ですか?
もう練習とかでは履いていますけど、非常に感覚はいいです。僕はボールを蹴るときにスパイクのフィット感やボールタッチをとても意識するので、その両方がすごく僕に合っていると思います。
――スパイクのコンセプトとしてはアジリティ(敏捷性)が高い選手に向けたものになっているようですね。
僕的にはこのフィット感がアジリティにつながると感じています。スパイクが足に合っていなかったら、それが気になってプレーに集中できなかったり、うまくいかないことがあるんですけど、ネメシスはフィット感と軽さに特長があって、アジリティが高い選手に向けたものというのにも納得です。自分自身もスピードやアジリティのところを長所としているので、自分のプレースタイルに合っている、自分のプレーをより引き出してくれるスパイクだなと思います。
――来シーズンも、ネメシスを履いて鋭い切り返しから豪快にネットを揺らす南野選手の姿をもっとたくさん見たいですね。
そこは自分の持ち味なので、そういうプレーをこの相棒とやっていければいいかなと思います。来年はワールドカップもありますし、日本代表復帰に向けて、まずはしっかりとチームで試合に出て結果を残したいです。ここで地道に結果を出すことがワールドカップにもつながっていくと思うので、今年の成績に満足せず、最低でも今シーズンの結果より上を目指してやっていきたいなと思います。
写真=新井賢一
取材・文=清水遼
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