サガン鳥栖FWフェルナンド・トーレスが『DAZN(ダゾーン)』のインタビューに答えた。過去映像も盛り込まれた動画は『DAZN』公式YouTubeチャンネルで公開中だが、Goalでは動画に収まり切らなかった部分を含めて記事にしてお届けする。サッカーを始めたきっかけ、背番号「9」、家族、日本での暮らし、そしてトーレスが最初に覚えた「漢字」。その素顔はこのうえなく魅力的だ。
■サッカーを好きになった理由
「ひらがな?(日本語で)」「ちゃんと書けるかな?」と言いながらペンを持つ。色紙に「トーレス」とカタカナで書いて笑った。サガン鳥栖FWフェルナンド・トーレス。世界の第一線で活躍してきたストライカーだ。
「フットボールと出会ったのは、最初は兄の影響だった。兄はゴールキーパーで、僕はいつも公園に連れて行かれて練習の相手をさせられたんだ。GKの練習にはシュートを打つ人が必要だからね。よく相手をさせられたけど、最初はあまり好きじゃなかった。そのうちテレビで『キャプテン翼』のアニメの放送が始まって。見ているうちにサッカーが大好きになって、毎日プレーするようになったんだ。
子どものころはおとなしくて従順だったよ。3人きょうだいの末っ子で、姉は8歳上、兄は7歳上。だから家族で一番年下。学校でも良い子だった。宿題をやって勉強して、面倒をかけたりはしなかった。唯一、ずっとフットボールだけをやりたがる以外はね。
11歳でアトレティコ・マドリーの下部組織に入った。そのときから背番号は「9」で、毎年最多得点者だった。自分が好きなクラブでプレーするという夢があったから、アトレティコに入れて本当に幸せだった。練習場から離れたところに住んでいて毎日毎日電車で通わなければならなくて、ハードだったけどね。行き帰りの間に宿題をやって、遅くに寝て学校に行くために早くに起きて…。でも、一番好きなことをやっていたから苦ではなかったよ」
■背番号「9」が代名詞となるまで

アトレティコ・マドリーのトップチーム、リヴァプール、チェルシー、ミラン、そしてスペイン代表。ストライカーの象徴である背番号「9」はフェルナンド・トーレスの代名詞だ。
「一般的に、ヨーロッパで9番はセンターフォワード、点取り屋がつけるものになっているんだ。僕は小さいころFWで一番プレーしていたから、9番をつけていた。でも最初は「9」があまり好きじゃなくて「14」のほうが好きだった。ヨハン・クライフの番号だったからね。僕はクライフが大好きで(みんなと)話をよくしていたし、ビデオも観ていたよ。「14」はティエリ・アンリもだね。それもあって好きだった。プロになって背番号を決めるとき、僕は一番若くて番号を選べる順が最後だった。そのときたまたま残っていたのが「9」で、それ以来ずっとつけているんだよ」
フェルナンド・トーレスは背番号9を背負い、数々の栄光を手にしてきた。中でも最も重要なタイトルとして挙げたのは、やはり2010年ワールドカップ・南アフリカ大会だった。
「20代の中盤まではタイトルがなく、勝利に飢えていた。でも、一度タイトルを手にすると見える景色は一気に変わった。タイトルを獲るとより多くのタイトルを獲りたいと願うようになる。勝利への意欲が強くなるんだ。たとえ10個のタイトルを獲っても満足できなくなる。
W杯優勝はフットボーラーが渇望する最大のタイトルだ。
まるで空をつかむようなものでもあったけどね。僕らの世代の子どもは『W杯はスペインのものではない』と思いながら育ったから。ブラジルやアルゼンチン、ドイツやイタリアが獲るものだって。だから僕たちが獲れるとは思ってもいなかった。スペインはいつも負けていて、とてもネガティブなイメージがあった。でも(2008年に)ユーロを獲って、2010年のW杯、2012年に2度目のユーロ、この6年間でスペインフットボールの歴史が変わった。その場に自分がいた、それは本当に特別なことだったと思う」
多くのタイトルを獲ったことで、あらためてフットボーラーとしての思いを確認する。
「選手は勝つためにプレーし続けるんだ。
まずはプロ契約を勝ち取って、トップチームで居場所を得て、スタメンの座を手に入れる。チームで良いプレーをしていれば代表から声がかかる。最も高いレベルにたどり着くには運も必要で、在籍しているチームにもよるけれど、ユーロやW杯、チャンピオンズリーグでプレーできるようになる。
スペイン代表では勝利への意欲は尽きることがなかった。選手個々を見れば毎年チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグ、リーガやコパを勝ち取っていた。それでも僕たちは勝ち続けることを望んでいたんだ。多くを手にし続けるのは簡単なことではないよ。常に勝利を望むようメンタル面でも努力しなければならない。10個のタイトルを持っているなら、11個目を望むべきだし、20個あるなら21個目を。勝利を望み続けることが重要なんだ」
■「エル・ニーニョ」。アトレティコへの思い
©DAZNタイトル、背番号9とともにもう一つ、彼のキャリアを語るうえで欠かせないものがある。「エル・ニーニョ」。スペイン語で「神の子」を意味する彼のニックネームだ。
「スペイン語で『ニーニョ』は小さな子どもを指す言葉なんだ。16歳でプロになったとき、チームメートは僕の名前を知らないから『ニーニョ(小僧)』って呼ばれていた。トップに上がってくる子たちはみんな『ニーニョ、ニーニョ、ニーニョ』と呼ばれるんだけどね。次第にマスコミも僕のことを『ーニョ・トーレス』と呼ぶようになって。スペインで『エル・ニーニョ』といえばぼくを指すようになった。このニックネームは自分の人生をともにしてきた愛称だから、気に入っているよ」
幼いころから育ったアトレティコ・マドリーを離れ、リヴァプールに移籍が決定した。2008年5月20日、リーガ・エスパニョーラ最終節・エイバル戦。アトレティコのトーレス最後の試合がホーム、ワンダ・メトロポリターノで行われた。詰めかけた65000人の観客が「エル・ニーニョ」との別れを惜しむ。
「自分のキャリアの中でおそらく最も素晴らしい日だった。タイトルや、優勝できた大会よりもずっと。スタジアムがあんなふうに飾られるのは簡単じゃない。彼ら(ファン)は僕一人を観るためだけにスタジアムに来てくれた。
ファンが作り出してくれたその光景を見た僕は本当に幸せだった。
クラブとの別れは夢に描いたようなもので、試合では2ゴールも決めることができた。ずっと忘れられない日になった。多くの偉大な選手がクラブを去るとき、あまり良くない別れ方をしてきたのを見てきたから、自分は良い別れ方をしたいと思っていた。ファンに別れの挨拶をして、ファンも自分を送り出してくれるような。それを果たすことができたんだ」
■家族、そして日本での暮らし

多くのファンに愛されたトーレス。今回取材を続けるなかでこんな場面があった。見つめる視線の先には…家族がいる。
「僕はいつも家族の存在を大切にしたいと思っている。ノラ(長女)、レオ(長男)、エルザ(次女)3人の子どもがいる。チームが許可していれるときはみんなで入場するようにしている。
普段から学校への送り迎えもするし、夕方の習い事にも付き添う。できるだけ家族で一緒に過ごす時間を作りたいんだ。家族の大切さを学んでほしいし、家族はつねに一緒であるべきだから」
家族は日本に滞在することを自然と受け入れているという。スペイン、イングランド、イタリア、スペイン、そして日本。
「海外で暮らすのは僕の家族にとって普通のことなんだ。『パパの仕事はフットボールをプレーすることで、多くの旅をして、練習をして、夏にはチームの合宿に何週間も行かなければならない』と分かっている。ずっとそう過ごしてきからね。
息子がフットボールをしているかって? しているよ。楽しんでいるし好きみたいだ。彼が決めたんだ。無理強いることはできないからね。学校に行って友達とフットボールを楽しん…。でも、別のスポーツがしたいと言い出しても問題ない。幸せを感じて人生を捧げられるようなものを見つけてほしい。大きくなったときに、本当に好きなことをしていてほしいんだ。僕はフットボールに出会ったし、きっと彼らは別の何かに出会うことができるはず。
家では子どもたちにとって重要なことを教えている。良い教育、他人を尊重すること、他人を助けること、親切さ。日本の文化はこれらの価値を教える上で助けとなっている。人々は礼儀正しく、落ち着いていて他人を尊重する。道は綺麗だし、人々は街やコミュニティに対して責任を持っている。家族にとって、日本での暮らしは良い経験になっていると思う。僕たちはこの国から多くのことを学んでいるんだ」
日本で生活を始めて半年以上が過ぎた。さまざまな土地を訪れたという。
「日本には多くの訪れるべき場所があることは知っていた。僕たちはここにいる間、できるだけ多くの場所を訪れたいと思っている。来てからの6カ月で多くの街、場所を訪れた。家族で行ってとても楽しんだ。でも、まだたくさん行きたい場所がある。
去年は広島、厳島に行った。お気に入りの場所になった。夜にはとても静かになるんだ。観光客が帰ったあと散歩する。潮が引いているときは鳥居のところまで行くことができるんだ。お寺や古い伝統的な街並みがとても気に入ったよ。落ち着いた気分になるんだ。
日本語を勉強するにはまだ時間が欲しいね。発音はスペイン語に似ている。でも、なんでもそうだけど、身につけるには時間をかけないといけない。ただあまり時間がないんだよね。
今年の目標はもう少し日本語を習得すること。漢字で知っているのは一つだけ。「入口」と「出口」。駐車場のね。分からないと出られないから(笑)」
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