優勝王手目前にFC東京がさらしたナイーブな姿。次節ホーム最終戦、“真紅の大群”に対抗できるのか

　明治安田生命J1リーグ第32節で湘南ベルマーレと辛くも1-1で引き分け、敗北を回避したFC東京。首位を勝点差1で追う首都チームに感じた危うさを、スポーツライターの飯尾篤史氏が指摘する。

(C)J.LEAGUE
　後半のアディショナルタイムに森重真人の起死回生の同点ゴールが決まったとき、脳裏に蘇ってきたのは、かつての彼の姿だった。

　降格が決まった瞬間、西京極のピッチにへたり込んだ2010年12月の森重真人、国立競技場での天皇杯決勝でFKを叩き込んだ2012年元日の森重真人、最終節の味スタで言葉を詰まらせ、人差し指で両目を拭った2015年の森重真人……。

　在籍10年目の最古参。「このチームで俺が一番、東京愛がある」と言い切る男の想いが詰まった、それでいて「うまくミートさせるために、ああいう回転になった」という、おそろしく冷静なアウトサイドキックによって、FC東京が勝点1をもぎ取り、初優勝へとなんとか望みを繋いだ。

　敗れていても数字上、優勝の可能性がなくなるわけではなかったが、勝点0と1とでは気持ちのありようが大きく違う。その点で、本当に大きな引き分けだった。

　もっとも、「これまでなら負けていたゲーム。よく追いつけた」などと本気で思っているようなメンタルなら、逆転優勝など望むべくもない。

　勝てば優勝に王手を掛けられたゲームでさらけ出したのは、かつてのようなナイーブな姿だった。

「久しぶりの味スタっていうところで、前半ちょっと、僕もそうですけど、全体的に硬くなってしまって……」

　キャプテンの東慶悟はそう振り返った。

　アウェー8連戦という“死のロード”からようやくマイホームに戻ってきた。しかし、「やってやる」という気持ちが空回りして浮き足立ったのだとしたら、あまりにもナイーブすぎる。こういうときこそキャプテンが両手を叩き、チームメイトを激しく叱咤激励する必要がある。

「代表組にいつもより若干疲れが出たなというのは否めない」

　そう分析したのは、長谷川健太監督だ。たしかに永井謙佑は普段よりも運動量が少なく、橋本拳人もこれまでのような鋭いアプローチを出せず、プレーに精彩を欠いた。失点シーンも橋本のボールロストからだった。

「個人としては全然ダメで、調子が悪かった。思うように自分のプレーを出せず、リズムに乗れないまま、90分が終わってしまった」

　橋本はそう嘆いた。代表戦における疲れが溜まっているのは確かだろう。だが、これを乗り超えてこその代表の中心選手であり、FC東京の顔というものだ。

　同点に追いついたあと、多くの選手が喜び、森重を祝福しようとするなかで、即座にボールを拾い、センターサークルまで走ってボールをセットし、チームメイトに「早く戻れ！」と声を掛けていたのがユ・インスただひとりだったという事実も、受け止めなければならない。

　一方、スタジアムの雰囲気はどうだったか。

　先制点を奪われたあと、「戦え、俺のトーキョー」のチャントがゴール裏から聞こえてきたが、3万5000近くもの観客が詰めかけ、ゴール裏が満員になっているとは思えないほど、歌声は消え入りそうで迫力がなかった。

　選手たちを勇気づけ、彼らの背中を押し、ともに戦うことを最も必要とする場面で、意気消沈しているのが伝わってくるようだった。

　降り注いだ冷たい雨が、スタンドの熱量を奪い取ってしまった面もあるだろう。2002年の日韓ワールドカップ、宮城で行なわれたトルコ戦のように。

　あるいは、リーグ戦の佳境を迎えたここに来て入場待機列に抽選方式が導入され、勝手が変わったことも、スタンドの雰囲気に影響を及ぼしたのかもしれない。

　いずれにしても、泣いても笑っても次がホーム最終戦。しかも、相手は13年以来勝利がなく、味スタに限れば、04年を最後に勝てていない浦和レッズだ。

　真紅の大群がアウェーゴール裏を埋めることだろう。その迫力に、果たして対抗できるのか。

　最終節に横浜F・マリノスとの直接対決を残しているが、浦和戦に敗れれば、横浜の優勝が決まる可能性がある。

　99年にJ2に参入して以来、20年間願い続け、掴みかけている千載一遇のチャンス。クラブ、選手、サポーター、すべての人が悔いのない戦いを――。残り2試合、FC東京にとって史上最大の決戦になる。

取材・文＝飯尾篤史