■伝統、歴史、熱狂、そして「お家騒動」
輝かしい伝統、熱狂的なサポーター、荘厳なスタジアム、そして「お家騒動」――。それがニューカッスルというクラブだ。
1893年創設の歴史あるクラブは、イングランド北東部、ノースイーストと呼ばれる地方の雄であり、トップリーグ優勝4回、FAカップ優勝6回を誇る。1993年にプレミアリーグが創設された当初はマンチェスター・ユナイテッドと覇権を争い、優勝こそないが1995-96、96-97シーズンには2位になったこともある。2000年代前半までは上位の常連で、チャンピオンズリーグ(CL)にも度々出場していた。
「Town」がジョーディー(ニューカッスルっ子)訛りで「Toon」になることから「トゥーン・アーミー」と呼ばれているサポーターが、5万人以上を収容する本拠地セントジェームズ・パークで声を張り上げる迫力は、長らくプレミアリーグの風物詩のひとつ。また、名将とうたわれた故サー・ボビー・ロブソン監督や、今も破られていないプレミアリーグ歴代最多得点記録(260ゴール)を持つ伝説的ストライカーのアラン・シアラーらが“心のチーム”としたクラブでもある。
しかし、そんな由緒ある名門が、もうかれこれ15年も「ビッグクラブ」とは呼べない代物になってしまっている。2007年に現オーナーのマイク・アシュリーがクラブを買収して以降、ニューカッスルはプレミアの中位~下位をさまよい、ちょっと油断すれば2部に降格してしまうチームになってしまった。英国の大手スポーツ用品店「スポーツダイレクト」のトップであるアシュリーは、ビジネスの才はあるがサッカークラブを強くするセンスは皆無。そんな彼は監督のクビをコロコロとすげ替え、一方では強化費を出し渋ることでも有名で、チームにビッグスターがやってくることもない。ポリシーが感じられない寄せ集めの補強が目立ち、長期的な強化とは縁遠い“出たとこ勝負”のシーズンを重ね、いつしか本来いるべきではない場所が定位置になってしまった。
■身売りは進まず、一方でベニテス切り。ファンもうんざり
Gettyこの夏も、例年以上に“お騒がせ”だった。オーナーは(もう何度目になるかわからないが)クラブを「売りに出す」と宣言し、アンチ・アシュリーのサポーターを一旦は喜ばせたものの、ドバイの大富豪シェイク・ハレド・ビン・ザイード・アル・ナーヤン氏(シティのオーナー、シェイク・マンスールの従兄弟)への売却話は遅々として進んでおらず、ファンは新オーナーを待ちぼうけ状態に。
さらに、アシュリーはラファエル・ベニテス監督を切った。ベニテスは15-16シーズンの終盤に降格間近だったニューカッスルの指揮を託され、16-17シーズンにチームを2部優勝に導き、昇格後も2季連続でプレミア残留を果たしたクラブの功労者。クラブ伝統の攻撃的なカラーとは異なるものの、堅実かつ実利的なカウンタースタイルのサッカーは総じて受け入れられていたし、何よりレアル・マドリーからスター監督が来たことに少なからずファンは感謝していた。ところが、「上位に進出したいなら大型補強を」と訴えるベニテスが煙たくなったのか、アシュリーは契約更新をすることなく、指揮官を突如として“放出”。そして新天地に中国の大連一方を選んだベニテスに対して「金の亡者」という捨て台詞を投げつけた。
もううんざりだ――。一部のサポーターは、アシュリーのオーナーシップに「ノー」を突きつけるべく、プレミア開幕戦となるアーセナル戦の応援ボイコットや、市内での抗議デモを検討しているといい、シーズンチケットも売れ残っている状況だ。ベニテスの後任も、ジョゼ・モウリーニョら夢のある候補者の名前が取り沙汰されたものの、結局はスティーブ・ブルースという無難なチョイスに落ち着き、そのことにもファンは落胆している。しかも、ブルース新監督はニューカッスルの生まれでクラブのファンだったと公言してきたが、一方で憎き宿敵サンダーランドを指揮していた経歴の持ち主でもあり、そのこともファンを複雑な気持ちにさせている。
■混迷の中、武藤はどう戦う?
(C)Getty Imagesこのように、逆風吹きすさぶ中で、ニューカッスルはプレミアリーグの新シーズンを迎えることになる。もはや“安定して不安定”なクラブの中で、日本代表FW武藤嘉紀は、熾烈なレギュラー争いを勝ち抜き、プレミアリーグに爪痕を残さなければいけない。
今夏は、ここ2シーズン連続でチーム得点王だったアジョセ・ペレスがレスターに引き抜かれた。さらにターゲットマンだったサロモン・ロンドンも、ローン元のウェストブロムウィッチに帰ってしまった(その後、ベニテスの大連一方に移籍)。ただでさえ、一昨季は39得点、昨季は42得点とゴール欠乏症がネックだったチームから2つの得点源が一気に抜けたのは非常に痛い。正直、他チームとの戦力をフラットに比較すれば、近いのは上位進出より残留争いだろう。
とはいえ、裏を返せば、主砲が2人抜け、監督も代わり、全選手が横一線のスタートになる。今季は武藤にとってはチャンスと言える。ブルース監督は3-5-2か3-4-2-1を採用する見込みだが、2トップかフロント3の枠を争う相手は、ストライカーの位置なら新加入のブラジル人FWジョエリントンや、元イングランド代表のアンディ・キャロル、2列目ならガーナ代表のドリブラーであるクリスティアン・アツ、2部ウェストブロムからローンバックの快速FWドワイト・ゲイル、昨季途中に加入したパラグアイ代表のミゲル・アルミロン、そしてニースから獲得したアラン・サン=マクシマンといった選手たちだ。
中でも、ペレスをレスターに売った3300万ポンドを元手に(珍しくオーナーが財布の紐を緩めて)クラブ史上最高額の4400万ポンドでホッフェンハイムから獲得したジョエリントンと、同じく新加入のドリブラー、サン=マクシマンのフレッシュな22歳コンビと、2年目のアルミロンあたりが現状のレギュラー候補だろう。
ただ、ジョエリントンやサン=マクシマンはプレミア初挑戦、また移籍期限最終日に8年半ぶりに地元クラブへと帰ってきたキャロルは故障がちと、新戦力には未知数な部分も多く、武藤もパフォーマンス次第でアタッカー陣のレギュラー争いに食い込むことはできるはず。チーム全体の戦力値を考えればゴールチャンスはそうそう多くないだろうが、少ない好機をモノにする勝負強さを見せられれば、勝機は必ずある。昨季は負傷やアジアカップ出場などにより欠場が多かったが、コンスタントにプレーしさえすれば、トップでも2列目でも機能し、献身性もある武藤の存在はチームにとって重要なものとなるに違いない。
決して盤石のチーム事情とは言えないものの、苦労なくプレミアリーグに残留すること、そしてあわよくばトップ10入りを狙うというのが、今季のニューカッスルの目標になりそうだ。いずれにせよ、「トゥーン・アーミー」が見たいのは、黒と白の暴れ馬がピッチをハツラツと跳ね回るところ。ニューカッスルの健闘に期待したい。
文=寺沢薫
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