ハンブルガーSV(HSV)の主軸として出場を続ける酒井高徳。昨年暮れから巻くキャプテンマークも、すっかり板に付き、本人も「もちろん、いまキャプテンをやって自信が付いているし、自分がやっている方向性に関してすごく自信を持ってやっている」と語る。
現在は試合に応じてサイドバック(SB)とボランチの両ポジションをこなしている。あくまでSBを本来のポジションと位置付けているが、時に酒井が中盤を引き締めることでチームが機能していることは結果にも表れている。ここ30日でHSVは5試合をこなし、酒井は4試合でフル出場、1試合が途中出場だった。
チームの成績は2勝2分け1敗。酒井がキャプテンを任されるまでの第10節まで勝ち点わずか2だったのが、現在は勝ち点27まで伸ばしている。戦術的にも精神的にもチームの柱として支えている酒井。さらにチームと個人が向上するポイントはどこにあるのか。5試合を振り返りながら考察する。
▽2月25日(土)ブンデスリーガ バイエルン・ミュンヘン戦
試合結果:0-8(負け)
90分(フル出場)
評価:4.0
右SBで先発したが、チーム全体がバイエルンの圧力に押し込まれる中で、左ウイングのドウグラス・コスタと相手の左サイドからタイミングよく上がってくるダビド・アラバに翻弄され、前半3失点、後半5失点というチームの崩壊を止められなかった。ミスから直接失点にも絡んでしまった酒井。ドイツ王者が力の差を見せ付けたという以上に、HSVの選手たちが、早い時間の失点で飲まれたことが、大量失点につながった。キャプテンの酒井も、バイエルンに対してはその1人にすぎなかった。
▽3月1日(水)DFBポカール ボルシア・メンヒェングラッドバッハ戦
試合結果:1-2(負け)
90分(フル出場)
評価:6.5
バイエルン戦の低パフォーマンスを払拭する“気持ちの入った”プレーを同じ右SBのポジションでやってのけたが、チームは2つのPKを献上する形で惜しくも敗れてしまった。酒井は相手のサイド攻撃を潰し、付近のセカンドボールに素早く反応しては味方の攻撃につなげた。一対一の勝率は100パーセントと、無類の強さでチームを有利な状況に導こうとしたが、残念ながら中央で勝負が決まってしまった。
▽3月5日(日)ブンデスリーガ ヘルタ・ベルリン戦
試合結果:1-0(勝ち)
17分(途中出場)
評価:6.5
同じ24番を背負う原口元気を擁するヘルタ・ベルリンとの対戦。「彼は少し疲れていた」(マルクス・ギズドル監督)との理由でベンチスタートとなった酒井。0-0で迎えた後半途中、中盤に投入されたが、高い位置のボール奪取をうながすと、直後にショートカウンターからDFアルビン・エクダルの先制点が入った。ボールに絡む機会はそれほど多くなかったが、しっかりとディフェンスを引き締めて勝利に貢献した。
▽3月12日(日)ブンデスリーガ ボルシア・メンヒェングラッドバッハ戦
試合結果:2-1(勝ち)
90分(フル出場)
評価:7.0
ボランチで先発した酒井は持ち前の強さに加え、運動量でもチームを活性化させ、ボルシアMGとの“リベンジマッチ”を逆転で制する原動力となった。走行距離12.29キロは両チーム合わせてトップ。相手のアルビン・エクダルと中盤の守備範囲を分け合いながら、キーマンであるトップ下のマフムード・ダフートにほとんど自由を与えず、クリストフ・クラマーの展開力も封じた。
▽3月18日(土)ブンデスリーガ フランクフルト戦
試合結果:0-0(引き分け)
90分(フル出場)
評価:6.0
代表ウイーク前の最後の試合で前節に続きボランチで先発。ロングボールとサイド攻撃を仕掛けてくるフランクフルトに対し、中央の酒井はワイドに開きすぎずイーブンボールやセカンドボールなど、中央付近で起きる局面で有利な状況をキープした。
終盤にはゴール前で体を張って失点をしのぐ場面も。攻守の切り替わり時に高い位置でプレッシャーを掛けようとして相手にかわされ、後ろのスペースから攻め込まれるシーンが一度あったが、センターバックのギエオン・ユンクに救われた。「どっちかがリズムをつかめば、試合が転ぶなという試合」と酒井が振り返るアウェーの試合をスコアレスドローにできたことは御の字だ。しかし、攻撃面でもう少し効果的な起点のボールを供給できれば勝ち点3の可能性を引き上げられたかもしれない。
■今後の課題
SBを本職とする酒井がボランチで起用された時にギズドル監督に要求されるのはシンプルなことだという。特に球際のところ、ルーズボールやセカンドボール、そうした相手とイーブンの局面でボールを奪い取り、素早く味方につなぐことだ。
「ボランチはちょっとサボるとすぐ失点につながってしまうと思う」という言葉通り、フランクフルト戦はスタンドから見ていたが、90分明らかにだれているような時間は全くなく、10.21キロという走行距離以上にハードワークをしているように見える。それだけ守備、攻撃、攻守の切り替わりにおいて高い意識を持続させているのだろう。
そうした酒井の本質はSBでも変わらないが、ボランチのポジションは特にその影響が表れやすい。それがキャプテンという立場とリンクしているのは確かだ。
もっとも酒井が本職として意識するのはあくまでSBで、そこで起用された時は躍動感のある上下動など、ボランチとはまた違った特徴を発揮している。しかし、90分の集中力や球際で負けないことはボランチだろうとSBだろうと共通する部分で。ブンデスリーガで勝敗の生命線にもなりうる要素だ。SBとボランチで役割や動き方に違いがあっても、柔軟に2つのポジションをこなせるのはその部分でブレがないからだろう。
その上で酒井に要求したいのは、ボールに絡む1つひとつのプレーの精度と質を上げることだ。ボランチであればボールを奪ったところからのファーストパス、プレッシャーを受けた味方が酒井に出したパスをより正確に展開できれば、HSVの組み立てが安定し、先のボールロストも減る。HSVが大きなピンチを迎えるのはアタッキングサードの手前でボールを奪われた時だ。
そうした場面での酒井の働きはボランチでもSBでも大きく、酒井が自陣に戻りながら単独でボール保持者に当たり、クリアするシーンは多い。それらは分かりやすい好プレーだが、その回数が少ないことはチームの攻撃がリズムよく回っていることを意味する。そうなれば守備のタスクが多い酒井も前に出て勝負するシーンを確実に増やせるはずだ。
酒井はフランクフルト戦の後で代表チームに合流し、アウェーのアラブ首長国連邦(UAE)代表戦に挑む。キャプテンの長谷部誠がブンデスリーガで左足を負傷し、UAE代表戦とタイ代表戦の出場が絶望的になった。「マイナスなのは間違いないですね。代表にとって、それは誰もがそう思っていると思う」と酒井は認めながら、チーム全体でカバーしていくことの重要性、そのために自分がやるべきことを、しっかりとイメージしている。
「気にせずガシガシと思ったことを言おうと思うし、それは生意気とかじゃなくて自分が思ったことを伝えるのは自分のプレーを良くするのもありますけど、チームにとっていい刺激を与えるのもあるし、悪いことを言うとかじゃないですね。そこは意識したい」
日本代表におけるボランチでの出場については「自分は絶対ないだろうと100パーセント言えますけど、仮にあった時のために準備はしたい」と語る。酒井にとって、自分の持ち味が最も生きるのがSBであることの信念と自負を変えてはいないが、最も大事なのは試合に勝ち、その勝利に戦力として貢献すること。その変わらない意識を胸に、さらなる決意を持ってアジア最終予選の折り返しに挑むはずだ。
文=河治良幸
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