2017-04-21-kengo-nakamuraGoal

中村憲剛が語る伝統の一戦「クラシコ」“攻めのスイッチ”を見逃すな!/独占インタビュー

■バルセロナを好きになったきっかけはトヨタカップ

――これまでもクラシコはご覧になっていたと思いますが、印象に残っている試合はありますか?

やっぱり2000年代前半ですかね。(ルイス)フィーゴが移籍(2000年夏にバルセロナ→レアル・マドリーへ移籍)した時とか。その前はクラシコというよりバルサばかり見てましたね。

――バルセロナを見始めたきっかけが何かあるんですか?

キリンカップ……じゃないな。トヨタカップですね。テレビで見ていたんですが、あれは何年だろう。サンパウロとバルセロナが戦った年で、バルセロナがドリームチームの時なんですけど。ライーに2点取られて負けたんですよ(※編集部注:1992年のトヨタカップ)。バルセロナは負けちゃったんですけど、その前のチャンピオンズカップ決勝(1991-92)でサンプドリアに(ロナルド)クーマンのFKで勝ったあたりから見ていました。最初はユニフォームの色、バルセロナっていう字面がかっこいいなと思って。

――当時はまだ小学生だったんですよね?

そうなんです。一時期ちょっとオランダ化した時(ルイ・ファン・ハール体制1997~2000年)があって、その時代は見てなかったですけど。(フランク)ライカールトが監督になったあたり(2003~2008年)から改めて面白いと思いましたね。俺自身が大人になってきたんで、ちゃんとサッカーとして楽しめるようになった、という感じです。

――その当時はロナウジーニョがいたり、バルセロナが一時代を築いた時期でもありましたね。

そう。中盤にデコがいてすごい面白かったし、その後のペップ(グアルディオラ)でほぼ完成形に近付いて、今に至るみたいな。だからロナウジーニョがすごすぎて、敵地サンティアゴ・ベルナベウでスタンディングオベーションを受けたのとかすごかったな。

――マドリーホームで完全アウェーなのに、ですよね。

アウェーなのにね。それだけ衝撃だったんでしょうね。最近のクラシコはちゃんと全部見てますよ。

■「クラシコ」は世界中の人たちが魅了されるカード

――中村選手が思う、クラシコの印象を教えていただけますか。

そうですね……。ただのクラブ間のライバル、とかそういうものではなくて、文化的な背景やスペインの歴史の中とかも絡んできますよね。カタルーニャ地方とマドリード地方の代理戦争と言うか、ピッチ外のいろんなものがピッチ内に反映される戦いで、当然のように激しくなりますよね。この試合にエネルギーを使いすぎて、その次の試合でテンションが下がってしまう、なんてこともしょうがないほど負けられない戦いですよね。だからこそ世界中の人たちが魅了されるカードだし、いつも楽しみにしていますよ。

――特に、印象に残った試合を挙げるとすると?

個人的にぱっと浮かぶのはロナウジーニョがサンティアゴ・ベルナベウで2ゴールを決めた試合(2005年11月)ですね。2点目を取った時に、マドリーのファンがスタンディングオベーションを捧げたんですよ。あの時はちょっと鳥肌立ちましたね。バルサファンだったら分かるんですが、ライバルであるマドリーのサポーターがバルセロナの選手に素晴らしかったっと拍手するぐらいそのパフォーマンスはすごかったんだ、と。ロナウジーニョの凄さが一番出た試合だったかもしれませんね。それもクラシコという大一番で起きたのが個人的に「うぉー!」ってなりましたね。

――ライバル関係のあるアウェーのサポーターから、称賛されるってなかなか起きないことだと思うんですけど、実際に中村選手も多摩川クラシコとか、相手サポーターから賛辞を贈られたことって印象深いんじゃないですか?

そこは、あまり比べてはいけないんじゃないかと思っています。僕らも「クラシコ」に近づけるように「多摩川クラシコ」って命名しましたから。ただ、その名称が始まったころよりも、今のほうが「多摩川クラシコ」への思い入れも強くなってますし。やっぱりそういうカードを作ることで、関わってる人たちの気持ちも変わってくると思います。サポーターの雰囲気も変わって来ていますし。もうこのカードがその名称になってから10年くらいになりますけど、やっぱり目指すところはレアル・マドリー対バルセロナの「クラシコ」ですから。まだまだ本家に遠く及ばないですけど、「多摩川クラシコ」に携わってる人たちのプライドを感じられる戦いになってきていると思います。

――スペインの「クラシコ」に話を戻しますが、今シーズンのレアル・マドリーとバルセロナは当然のように優勝を争っています。リーグ戦消化試合数の少ないレアル・マドリーが優位に立っている形にはなりますが、今シーズンの両チームの戦いにどんな印象をお持ちですか?

バルセロナにはMSN(リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)という、分かりやすいキャッチの選手たちがいて、若い選手も新加入の選手で何人かいっぱい入ってきましたよね。ルイス・エンリケ体制になって長いですし、チームとしてやるべきことがハッキリしていますよね。形もしっかりしていますが、前線の強力攻撃陣への依存度が高い感じはありますよね。パリ・サンジェルマン戦(チャンピオンズリーグ、ラウンド16の第2戦)の大大大逆転をリアルタイムで見ることができただけでお腹いっぱいになりましたよ。

――レアル・マドリーのほうはどうですか?

レアルのほうも見ているんですけど、(ジネディーヌ)ジダン監督になって、公式戦無敗が長く続きましたよね(2017年1月まで40戦無敗)。ただ、試合内容を見るとピンチがあったり、うまく勝ってきたという展開もあって。そんな中で選手のやりくりはすごく上手だった。(ガレス)ベイルが大ケガして離脱した時期もあって、その中でイスコが台頭したり、選手の層が厚いですよね。だからそういう意味では、レアル・マドリーはジダンがうまくマネージメントしながら、要所を抑えながらクラブ・ワールドカップも戦っていました。カウンターの破壊力は相変わらずズバ抜けていますし、その一方で中盤にはうまい選手がいっぱいいる。だからリーガの中では今の順位は順当だと思いますよ。チャンピオンズリーグもしっかり勝ち上がっているので、4月のこの時期は本当に大変ですよね。5月のクライマックスに向けて、4月には負けられない状況が続く。そんな中で「クラシコ」がやってくるわけですから。この日程、誰が決めたんですかね(笑)。サッカーファンとしてこんな面白い状況を作ってくれたわけですから、組み合わせを決めた人に感謝しています。

――いいタイミングで大一番が来るようになってますよね。

そう、なってますよね(笑)。何年か前にクラシコが続いた時があって(2010-11シーズン)。あの時はさすがに「もういいわ」みたいになりましたね(※編集部注:2010-11シーズンの4月中旬から5月上旬にかけて、リーガ、コパ・デル・レイ、CL準決勝2試合と、短期間で4試合クラシコが行われた)。月に一回あったら盛り上がりますけど、連続だとちょっとしんどいですよね。

■キーマンはブスケツ

――今季、前半戦にあった「クラシコ」は1-1で、レアル・マドリーもバルセロナもセットプレーからのゴールでした。セットプレーは今回のクラシコでも重要なシーンになると思いますが、注目すべきポイントを挙げるとすればどこになりますか?

どこ……ですかね。見どころが多すぎて、困っちゃいますね。僕は「クラシコ」の勝敗を大きく左右するのは中盤の作りなんじゃないかなっていつも思うんですよ。前線がマークされるのは当たり前。活躍するのも当たり前なんで、そうなるとどこで差が出るかというと中盤から後ろかなって思っています。どちらも似たようなシステムを使っていますし、バルセロナなら(セルジ)ブスケツ、レアル・マドリーならカゼミーロのところですかね。中盤3人のぶつかり合いはどのマッチアップも面白いと思いますけど、自分はやっぱり中盤のプレーヤーだから、やっぱりそこに目がいっちゃうんですよね。だからもしキーマンを挙げるとすると、ブスケツになってしまう。普通はMSNの誰かって言いたくなるところだと思いますけど、やっぱりブスケツです。

――ブスケツの魅力って何でしょう?

それを説明するとね、1時間ぐらいかかちゃうからやめたほうがいいと思いますよ(笑)。シンプルに言うと、本当いい選手なんですよ。1人でピボーテのエリアを守りつつ、攻撃の起点もしっかりこなす。やっぱり、つなぎ役として個人的に一番好きな選手なんですよね。もちろんカゼミーロみたいなアンカーが好きな人もいっぱいいると思うんですけど、僕自身は攻撃と守備、両方でしっかり仕事をこなせる選手が好きなんですよ。技術もしっかりしているし、冷静で戦術眼も高い。彼がいるといないとでバルセロナのサッカーの質がガラッと変わってしまう。メッシとブスケツは今のバルセロナで代えがきかない選手だと思いますよ。メッシがいない時には別の選手がL・スアレスやネイマールと3トップを組んだり、ローテーションをするかもしれませんが、ブスケツのところに他の選手が入るとしっくりこないんですよね。(イヴァン)ラキティッチが入っても違うと思うし、マスチェラーノがアンカーをやってもちょっと違和感がある。ブスケツがいると見ていて安心するんですよね。バルセロナの選手も、ブスケツがいるといないとでは全然違うと感じているんじゃないですかね。

――ブスケツいると、見ているほうが安心するっていう見方ですね。

そうなんです。なんかパス回しが滞りそうというか、見ているほうも「あ、危ない!」って思う時に大体ブスケツが真ん中にいてくれるんですよ。シンプルにさばいたり、周りの選手が一呼吸入れられるようなポジショニングとパスセンス。周りが詰まった時に、自分が起点になったり、いきなり縦パスをズバッと入れたりとか。あれ、周りの選手からすれば「こいついいな」って思うんですよね。手詰まりな状況でも、ちゃんと前線の選手が仕事ができるような準備をしてくれる。一回、どんな感じなのかやってみたいですよ。

――ブスケツと一緒に?

うん。どんな世界を見ているのか、って思います。

――では、中村選手が「クラシコ」に出るとして、ブスケツと戦いたいですか? それともブスケツと一緒にやりたい?

戦わない! 味方でいいです。そこはチームメートでお願いします(笑)。

――中村選手はブスケツをもちろん好きで見ていらっしゃると思います。実際参考にしているとか、こういうプレーをやってみようと思ったりすることはあるんでしょうか。

ブスケツだけじゃなくて、シャビとかもそうだし、(アンドレス)イニエスタやメッシもそうなんですけど、ギリギリまでプレーを変えられる選択肢をいくつも持っている。パスを出す時に、最初から決め打ちで「Aさんに出す」とかじゃなくて、「Aを見つつ、だけど相手がAに詰めた瞬間にBに出せる」みたいな。あれはやっぱりピッチでの余裕というか、戦術眼をちゃんと持ちたいな、と思いますよね。サッカーの試合はその連続なので、相手をあざむくことができる。それができるメッシが前線にいて、中盤の3枚にシャビとイニエスタ、ブスケツがそろっている。この4人が同時に出ていた時はボールが取れる気しなかったですもんね。ボールを奪いに行ったらすかされる。それが1人でもめんどくさいのに(笑)4人もいるとか。そりゃボール取られないわっていう……。僕は個人的に、ギリギリまで選択肢を持って変えられる、技術と目を持つっていうのは、彼らから学びました。

――その4人のうちの1人に入ってやりたいという願望はありますか。

いやー多分怒られちゃう。「遅い!」とかって言われるだろうから僕はいいです。見てるだけで(笑)。

■どこで「攻めのスイッチ」を入れるかがポイント

――では、クラシコを見るファンの方に、見てもらいたいプレーを挙げるとどういうところになるでしょうか。

マニアックかもしれませんが、どこで「攻めのスイッチ」を入れるかっていうところを見てほしいな。結構、最終ラインから中盤までのらりくらり回すんですよ。でも、相手に穴を見つけたら、一気にどう猛になる。見つけたと思ったら、そこに一気にパスを通して、崩しにかかる。マドリーもそうですけど、あのスイッチが入った時と、入った後のみんなの反応は他のチームとは全然違うものですよね。その時のスピードと、そのスピードに対する技術力っていうのは、やっぱりその両チームは図抜けています。だから、ただボールを回しているだけじゃないって部分を見てほしい。だから逆にボールを回している時に、相手の出方を見てどこで仕掛けるかっていうところを視聴者のみなさんも一緒に感じ取りながら、楽しんでほしい。ただ「うまいな」だけじゃなくて、「いつ入れるんだ」っていう駆け引きを見てほしい。……ちょっとマニアックですけど。

――『DAZN』のリアルタイムで中村選手に解説いただきたいですね。

「クラシコ」ぜひ解説したいです……。だけどまだ現役なんで、ちょっとオンタイムだと体ぶっ壊れちゃいます……(笑)。

――スイッチが入る瞬間が分かっただけでも試合の見所が一気に変わりますよね。

そう、その瞬間を感じるのもすごく面白いと思います。バルサってパスワークは当然うまいわけですけど、ただ回してるんじゃなくて、どこだ、どこだって探しながら、スキが見えたら一気にどう猛になって襲いかかる。あれは僕の中ではすごくたまらないです。

■プジョルは理想のキャプテン像だった

――今までの「クラシコ」でこれまでに出場した選手で一番印象に残ってる選手はいますか?

(カルレス)プジョルですね。バルセロナを象徴する存在ですけど、特に「クラシコ」になるとやっぱり締まる。背もあまり高くないですけど、空中戦で負けないとか、大事な場面で、セットプレーで結果を残すとか、頼りになりますよね。それこそカンテラから昇格する時からプジョルを見ていましたから。キャプテンマークを巻く選手ってやっぱりチームを体現する存在だと思うんです。「クラシコ」だけに限らないですけど、プジョルは常に率先してチームを引っ張っていた。僕は今年(川崎フロンターレで)キャプテンじゃないですけど、プジョルみたいな姿勢が見ていて爽快でしたね。

――プジョルはバルセロナ一筋でしたし、川崎フロンターレ一筋の中村選手にとってもシンパシーを感じる部分があるのでしょうか?

そうですね……そうなりますよね。「クラシコ」に関しては、プジョルの先頭に立って戦う姿勢みたいなのはすごかった。もう引退してしまいましたが。だって、「クラシコ」で戦う相手は、絶対に負けてはいけない相手ですよね。もちろんどこに負けてもいけないんだけど、特に「クラシコ」でマドリーに負けることは、許されないことだから。

――生え抜きの選手だからこそ、その重みも違いますよね。

そうなんですよね。他のチームから移籍してきた選手がキャプテンを務めるのとは、また違うと思うんです。グアルディオラが監督だった時は、カンテラ出身の選手がいっぱいいましたけど、今はちょっと変わってきてますよね。L・スアレスやネイマールとかも入ってきて、中盤の選手のクオリティよりも、前線の選手たちの力が結構クローズアップされている。カンテラ感がちょっと薄まってはいますが、やっぱりセルジ・ロベルトやラフィーニャもそうだし、やっぱり大事なところに生え抜きを何人か入れているのは、バルサの哲学を大事にしているところだと思うんですよね。

――それをまとめるルイス・エンリケ監督は、中村選手にはどんな指揮官に見えますか?

(今シーズン限りで)辞めるのは決まりましたよね。多分、グアルディオラがあまりにも完璧だったんで、その後に監督を務めた人はプレッシャーしかなかったと思うんですよ。結果を出すことが常に求められているわけですし。だけどやっぱり、L・エンリケもバルセロナでプレーしてましたし、グアルディオラの影を払拭できたのも彼なんじゃないかな。手法はちょっと違いますけど、土台のパスワークにプラスして、前線の3人の破壊力を存分に引き出した。守備するところとサボるところのラインの駆け引き、監督と選手との駆け引きとか、多分いろいろあったとは思うんですけど。カウンターの完成度も高めましたよね。選手がふてくされちゃうこともありましたが、そういう点もうまくコントロールしつつチームをまとめた。L・エンリケがいい監督であることは間違いないと思います。ただ、やっぱりバルサで監督をすることは相当大変なんじゃないかな。みんな長期政権を任されずに辞めるじゃないですか。「俺もうダメだ、もう疲れた」みたいな。だからそれだけタフだと思うんですよね。プレッシャーはやっぱ半端ないと思いますよ。

■「クラシコ」は絶対面白い戦いになる

――中村選手がこれまで「クラシコ」を見てきた年代からすると、以前クラシコに出ていた選手が今監督になっていますよね。時代の移り変わりも実感しますよね。

そう、みんな見ていましたから。グアルディオラもそうだし、今のL・エンリケとジダンもそう。プレーを見ているから、逆に監督になったらどうなるかなっていう点は面白い。それこそ、アトレティコ・マドリーの(ディエゴ)シメオネもそうだし。それぞれ独自のキャラクターが出ていて面白いと思う。やっぱりそれぞれが長年培ってきた哲学がある。ただ、その監督が持ってる哲学を、そのまま持ち込めないチームがバルセロナだと思うんですよね。バルサにはもうバルサの哲学があるから。よそから来た人だとうまくいかないのは、多分そういうことなんじゃないかな。だから(選手としてバルセロナに在籍経験のない)ライカールトは逆によくやったなと思う。

――名将が次々にやってくるレアル・マドリーとは違いますよね。

そう、レアル・マドリーもまた違うチームですよね。レアルももちろんカンテラがあるんですけど、それよりもやっぱりお金を使ってスター選手を持ってくるのが(フロレンティーノ)ペレス会長のやり方だから。そこにはレアル・マドリーなりのプライドもあると思うんですよね。クラブのスタンスっていうか。バルサとレアルは全く違ったチームなのに「クラシコ」では頂上決戦になって、絶対面白い試合になる。なんかいろんな背景も含めて、「すごい楽しいな」って思いながら「クラシコ」を見ていますよ。

■クラシコ放送日程

レアル・マドリー対バルセロナ
4月23日 深夜3時30分~(DAZN)

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