Romelu Lukaku Manchester United 2017Getty Images

世界中に根深く残る人種差別問題…「ルカク・チャント」から学ばなければいけないこと

ロメル・ルカクへのチャントが大きな騒動になっているが、これは決して簡単な問題ではない。マンチェスター・ユナイテッドの一部ファンは、当初これをおかしなもの、あるいは許容できるものだとみなし、自身をレイシストではないと考えている。

黒人選手に対してモンキーチャントや差別用語(いわゆるNワード)をしむける者もいるが、そうした振る舞いは総じて故意に行うもので、意図的な人種差別だ。そうした言動は相手を傷つけ、自身の品位を落とし、さらに他者をも傷つける。フットボールの場において、こうした言動は長い間まん延している問題だ。

またこのチャントは、この黒人選手の性器のサイズを歌っている。これは非常に陰湿な人種差別だ。この表現は、人種差別的ではないと考える人々によって長い間繰り返しなされてきた。

チャントの様子はYoutubeで“滑稽なもの”として取り上げられた。冗談として取り上げたサイトは総じてTwitterで弁明のコメントを出す必要に駆られた。

もともとこの歌に対する不快感はほとんどなく、タイムズ紙が後ろのページで取り上げたことでようやく焦点が鮮明なものになった。Twitterでユナイテッドの歌とチャントについて検索すると、チャントに対する擁護だけでなく、なぜこれが差別的なのかと疑問を呈する声さえみられる。

HD LukakuGetty

「どれくらいの黒人がこれを問題にしているんだ?」というつぶやきや、「白人選手に向けられていたならそれはOKなの?」と疑問を投げかけるものもあった。また中には「人種差別的チャントはターゲットの選手が人種のせいで劣っていることを歌うものだ。今回のチャントはそれにはあたらない」といった声もあった。

こうしたつぶやきをまとめると「黒人だけは人種差別だと見なすことを許されている。人は彼の性器のサイズについての歌を持っているかもしれない。黒人選手が大きなモノを持っているならそれを称賛すべきだ」というようなことだった。もちろんこうした3つの例にろくな信ぴょう性はない。

ルカクが古巣エヴァ―トン相手にゴールを決めたとき、オールド・トラッフォードであのチャントを歌った張本人たちは、自身をレイシストだとは思ってもいなかっただろう。彼らはただ“冗談”で歌ったつもりであり、その歌詞が攻撃的で偏見に満ちた言葉であるとは考えもしなかったのだから。

これは人種差別的ではないと信じ続ける人もいるようだが、なぜこれが差別的かは時とともに明らかになるはずだ。そして、今回の出来事は彼らを非難するのではなく、学びの機会として扱われるべきだ。

■本当の「No to Racism」を目指して

いくつかの作品から指摘することができる。“國民の創生”というD・W・グリフィスが制作した1915年の無声映画では、黒人は頭が悪く性的に乱暴で、白人女性を襲う脅威のある、リンチすべき対象として描かれた。

また1903年にウィリアム・リー・ハワード博士が描いた論文もあげられる。彼は「もし教育によってネグロ(黒人の意)の巨大なペニスを小さくし、白人が持つような感受性を与えることができれば、アフリカ系が生来持つ性への狂気と過剰な行動を防ぐことができるだろう」と言ってのけた。

Lukaku GFXGetty Images Playing Surface

一方で、人種差別撤廃を目指す組織『Kick It Out』はこのような声明を発表した。

「人種差別の固定概念は決して受け入れられるものではありませんし、選手へのサポートを示す意思表示としては敬意を欠いています。私たちは本件についてマンチェスター・ユナイテッドとコンタクトをとっており、緊密に対応をすすめています。またFA(イングランドサッカー協会)にもこの問題について迅速に解決するよう働きかけています。私たちがこの差別的チャントについてのなんらかのレポートを受け取った場合、彼ら運営組織にも送られ、チャントを歌った人々は罰則を受けることになるでしょう」

この声明はよく練られたもので、チャントの当事者たちに恥をかかせたり、また擁護するような意図は見られない。いまの世の中は何かあればすぐに非難が浴びせられるようになった。許しや理解を得るのは容易ではない。彼ら自身が許容できる意見や言葉の外側にいる人たちは、すぐ遠くに追いやられてしまう。

『Kick It Out』はこうした慎重なトーンで反応することで、今回のケースが攻撃的に判断されるのではなく、進歩と前進の機会になると考えている。われわれ全員が、このルカクのチャントを学ぶ機会として活かさなければならない。

文=ピーター・ストーントン/Peter Staunton

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