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FIFA ワールドカップアジア予選

“世界一過酷なアウェイ”の真実…「どこにでも現れる」井手口陽介の変化と成長を追う

11:49 JST 2017/09/07
2017-09-07-japan-ideguchi
高温多湿な気候と6万人を超える大観衆という過酷な環境の中、日本代表はサウジアラビアとのアウェイゲームに臨んだ。その中で一際輝いていたのは、代表4試合目ながら成長著しい21歳・井手口陽介だった。

サウジアラビアの西岸、紅海に面した都市ジェッダ。日本代表は5日、この地でアジア最終予選の最終戦に臨んだ。

日中の気温は40度近くに達し、会場のキング・アブドゥラ―・スポーツ・シティの気温はキックオフ時点でも手元の計測で32度。中東ならではの高温に加えて海沿いの立地が湿度を高め、湿度は75パーセントを示していた。だが、実際の肌感覚としては、気温や湿度の数字以上に厳しさがあったように思う。

冷房の効いた記者室からスタジアム内へ足を踏み入れると、一気に強烈な熱気と湿気が襲ってくる。キックオフ3時間前に会場入りしたという日本代表サポーターの席へ顔を出すと、ほとんどの人がすでに大汗状態でTシャツはびっしょりと濡れ、額に大きな汗粒を溜めていた。ピッチサイドで試合写真を撮影したカメラマンも「世界中で写真を撮ってきたけど、一試合でこれほど汗をかいたことは記憶にない」と話すほど。気温や湿度だけなら他国のほうが数字上は上回っていたこともある。しかし、自分もこれまでハリルジャパンを追いかけて灼熱の中国・武漢や中東、東南アジア各国を周ったが、やはりカメラマンと同じ印象を受けた。座っているだけでこんなに消耗するのだから、実際にピッチで戦うことがどれだけ大変か。選手たちは「どんな環境でも戦うのがプロ」と口にするが、その疲労度合いは想像を絶する。

しかも今回の相手は、ワールドカップ本大会出場に向けて一戦必勝で臨んでくるサウジアラビア。イスラム教の観念からサッカー場には男性しか入場できないため、3層式のスタジアムを埋め尽くす6万人の野太い大歓声が耳をつんざくように響く。場内にはコーランや中東特有のメロディが流れる異様な雰囲気もあって、当地での試合は“世界一過酷なアウェイゲーム”と称されることもある。勝利必須の状況に追い込まれたスタジアムは、歴戦の勇士・長友佑都をして「ここまですごいアウェイ感は初めて。熱くなった観客からペットボトルがガンガン飛んできて、本当に当たるんじゃないかと思った。なかなかできない経験しました」というほどの緊迫感があった。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に率いられた日本代表は、ご存知のとおり1試合を残してワールドカップ出場が決定。今回のサウジアラビア戦は、選手たちにとって最終予選のラストマッチになると同時にロシア行きの切符を争うサバイバルレースのスタートでもあった。

めったに経験できない厳しい環境で始まった23脚のイス取り合戦。さらに本大会出場決定で気持ちが緩みそうな状況でもなお存在感を見せられる選手が誰なのか。その見極めをテーマに試合を観るように心掛けた。

そんな過酷な条件下で目を引いたのが、指揮官が求め続けてきた“デュエル”を体現できる選手たち。フィジカルコンディションが良く、さらに試合感がなければ、球際に素早く厳しい寄せをすることはできない。鋭い攻守の入れ替えも然り。原口元気(ヘルタ・ベルリン)や長友が奮闘する中、最も輝いていたのが、ガンバ大阪が誇る21歳のボランチ、井手口陽介だった。

■抜群の存在感を示した井手口

井手口は先のオーストラリア戦で代表3戦目ながらインサイドハーフの一角としてスタメン出場。自身の特徴でもある球際の激しさに加え、試合終盤には左サイドからカットインして勝利を決定づける豪快なミドルシュートを叩き込み、一躍ヒーローとなった。そして今回、サウジアラビアとのゲームでもインサイドハーフで先発メンバーに名を連ね、再び持ち味を存分に発揮したのだ。

状況を見ながらボランチの位置へ下がってボールを受けながらバランスを取り、プレスを仕掛けるとあれば積極果敢に寄せに行く。特に帰陣の早さは出色の出来。同時に積極的な飛び出しで前方への推進力にもなっていた。後半はさすがにスタミナが落ちて劣勢を強いられたが、前半はピッチの至るところに現れては攻守にわたってチームを助けた。スタジアムの異様な雰囲気に動じない点も、持ち前のメンタルの強さをうかがわせる。

後半の戦い方については「この気候で90分間ずっと寄せに行き続けるのは無理。行くところと行かないところのメリハリをつけないと。蹴るんやったらもっと中盤全体でセカンドボールを拾わないといけない。何をするにもバラバラで、うまくかみ合わなかった」と猛省。その一方で「選手同士でもっともっと要求していかなければいけない。求めて、求められてという関係を築ければ一番」とピッチの中央に立つ選手として意識向上を感じさせた。

気迫のプレーばかりが取り上げられがちだが、13分には混戦の中で足裏を使ってボールを引くプレーで相手DF陣をかいくぐり、最終ラインにパスをつないでビルドアップのやり直しに成功。チームに落ち着きを与えた。何気なく見逃してしまいそうなプレーではあるが、一つのボールロストが致命的になる国際試合でこういった冷静さを見せられるようになった点も彼の成長の一端だと思う。

とにかくオーストラリア、サウジアラビアとの連戦で何物にも代えがたい経験を積んだ井手口。オーストラリア戦を控えた時点では、「初めて選ばれた時は遠慮というか、ビビっていたというか。それが徐々になくなってきている」と話していた程度だったが、これがサウジアラビア戦後に「自信を持ってやれば絶対できることが分かったので、自信を持ってそこは磨いていきたい」という言葉に変わる。過酷な連戦を乗り越えたからこそ、課題と同時に大きな手応えを得たのだろう。

ハリルホジッチ監督に与えられた役割や対戦相手とのマッチアップもあるだろうが、わずか2試合で日本代表の中心選手と言っていいほどの存在感を披露したことは間違いない。21歳という若さを考えれば、伸びしろは無限大だ。

しっかりとピッチで結果を残したがゆえに、チームと個人の課題もしっかりと分析できている。

「こういうアウェイの環境でも自分たちのサッカーをして、勝ちきる強さを持つことが大事。そこはまだまだ甘いんじゃないかなと。個人的にもまだまだクオリティが低いので、フィニッシュの精度を含めて、決定的な仕事をできるようにしたい。今週末からJリーグが再開するので、守備でも攻撃でも、どこにでも顔を出していけるような選手になっていきたい」

まさに「どこにでも顔を出す」プレーが彼の真骨頂であることは周知のものになった。サウジアラビア戦の前半で見せたように、攻守にわたってボールに絡み続けるプレーをJリーグの舞台でも見せると誓った井手口。所属クラブで意識の高いプレーを続けることが、そのまま日本代表での定位置確保、そして約9カ月後に迎えるロシア・ワールドカップ本大会につながっていく。果たして過酷な連戦を乗り越えた彼は、ガンバ大阪でどんな成長の跡を見せてくれるのだろうか。

試合全体を見ていると、必ずと言っていいほどボールサイドに顔を出し続ける。それが不思議だと感じた方は、ガンバ大阪の試合をご覧になって、彼の“神出鬼没”な動きをずっと追い続けてみるのも一興だと思う。

文=青山知雄