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世界を見据える遠藤航…浦和レッズ、悲願のJリーグ制覇に求められるものとは?/独占インタビュー

浦和レッズでの2シーズン目を迎えたDF遠藤航。「1年間プレーした経験は大きい」と話すように“ミシャ・サッカー”にも徐々に慣れ、攻守両面で持ち味を発揮し始めている。昨季、土壇場で逃したJリーグ王者のタイトルを奪還するために、最も重要な課題の「守備」をどのようにマネジメントしていくか。そして、自らの理想とするポジション、その先に見据える日本代表についての想いを語ってくれた。

インタビュー=島崎英純

■安易にボールを奪いに行かない勇気も大事

――今季の浦和レッズについて、遠藤選手はどんな印象を抱いていますか。

「内容は基本的に安定してプレーできていると思っています。ただ結果がついてこなかった試合もあって、その点では満足していません」

――昨季との違いを挙げるならば、今季これまでの浦和は得点が多く、失点も多い数字となっています。リベロのポジションでプレーしている遠藤選手から見て、どのような要因が考えられるのでしょうか。

「僕もいろいろと考えているのですが、去年と比べて何かが変わったわけではないんですよね。自分たちの守備がとても悪いというわけでもない。富士ゼロックススーパーカップの鹿島アントラーズ戦は相手陣内でプレーし続けることをテーマに臨んだことが裏目に出た面もありましたが、それ以外の試合では守備がそれほど機能していなかったとは思えないんです。ただ失点シーンを振り返ると、いるべきところに人がいなかったり、ちょっとしたマークのずれ、ポジショニングの悪さなどがありました。ただ、それもこれから向上していくと感じています」

――データでは、今季の浦和のバックラインは昨季よりも高く設定されているようです。

「なるほど。確かにチーム全体をコンパクトにすることは意識しています。僕らの場合、基本的にボールを保持している時間が長く、相手を敵陣に押し込むことによってバックラインが上がっているのかなと思うんです。つまり、自然にラインが上がっているのだと思います」

――もうひとつの特徴としては、ボールを奪われた時にできるだけ敵陣で再びボールを奪い取ろうとする傾向があるようです。その一方、積極的に相手ボールホルダーへアプローチして奪い取れなかった時に、自陣バックライン裏のスペースへパスを供給されて失点するパターンもあります。

「相手にボールを持たれた時にもチーム全体をコンパクトにして奪い取ろうとしています。その点はポジティブに捉えられていて、得点を多く奪える要因にもなっている。それが失点に繋がる要因でもあるのですが、僕は悪い傾向ではないと思っています。ただ自分たちが前から守備をしたい、早くボールを奪いたいと重心が傾いた時の相手の狙い目は、僕らの3バックの間の裏のスペースになりますよね。この対応は去年から僕も気になっていました。リベロの僕がサイドの裏に生まれるスペースをケアして対応するだけではなく、局面によっては3バックのラインを連動して下げるのも大事だなと。今季始めからそれをしていて、モリくん(森脇良太)や槙野(智章)くんと連係するシーンは増えています。ただ、まだまだバックライン裏へパスを蹴られた時の対応は改善すべきですし、できるとも思っています」

――攻撃と守備は表裏一体と言われます。今季の浦和は守備面のリスクを考慮して攻撃時のビルドアップにも工夫が見られます。従来のようにダブルボランチが最後尾に降りてきて遠藤選手とパスワークする形だけでなく、最近はストッパーの槙野選手、森脇選手と本来の3バックを形成してパスワークするシーンがあります。

「それは、どちらかというと攻撃のことよりも守備面を考えたボールの動かし方なんです。最近の対戦相手は2トップを採用していることが多いので、その時は後ろに人数を掛けずに通常の3バックによる『3枚回し』でボールを動かして、ダブルボランチは中盤でプレーする形にもトライしています」

――ここまでの浦和の公式戦9試合の失点シーンで目立つ形として、セットプレーから4失点(CK2点、FK2点)、また相手の左サイドからのクロスから4失点しています。特に左サイドからのクロスに関しては、自陣バイタルエリアにパスを通されて3失点しています。

「そうですね。バイタルエリアからシュートを打たれて失点しているケースでは、味方ボランチがスペースに到達できていないんですよね。今季のチームは基本的に皆が『前から行きたい』、『ボールを奪い取りたい』という意識がある。ただ押し込まれた時もボールサイドを見ながら人に行く意識が強すぎて、スペースを埋める感覚があまりないんです。(明治安田生命J1リーグ第1節)横浜F・マリノス戦などは、あれほどボールサイドに人数を掛ける必要もないのにアプローチしてしまい、結局一番危ない真ん中のスペースに人がいなくなってしまった。これはチームのベースラインが間違っているのではなく、選手の意識付けの部分でスペースを埋める約束事を求めるべきだと考えています。前から行く時の守備、ブロックを作ってオーガナイズする時の守備の切り替えをどうするか。それが大事なことで、マリノス戦はその点の意識付けが中途半端だったなと反省しています」

――積極的に前から守備をするコンセプトは大事ですが、局面によっては自陣に引いて守備をセットしなければならないこともあるということですね。

「そうです。局面によってはわざわざボールサイドに行き過ぎる必要はなく、相手にボールを回させてゾーンに入ってきたところで潰せばいい。最終的には中央のエリアを空けてはいけない。それは守備の鉄則だと思うんです」

――遠藤選手は、浦和ではリベロのポジションでプレーしています。昨季も同ポジションでプレーしていましたから、違和感はないですよね。

「ないですね。ただ、今季は3バックでのビルドアップが多くなっているので、味方とのちょっとした距離感に微妙なズレを感じることもあります。例えばシャドーの武藤雄樹選手に出す相手バックライン裏へのボールは、今は少し出し難い感覚があるんです。リベロの僕とボランチのひとりでパスワークする形だと、最後尾の左右のエリアに開いてボール保持するので武藤くんに向かって斜め方向へ縦パスを出せる。でも中央エリアでボール保持すると角度を付けられないので、武藤くんが相手の裏を取る動きをしてくれてもボールが流れて、直接相手GKにキャッチされてしまうケースがある。そこは微妙な精度になるのですが、難しさを感じながらプレーしています。ただロングフィードは常に狙っているプレーで、このチームの武器になるし、自身の特長でもあるので続けていきたいです」

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――今季はJ1リーグ第2節のセレッソ大阪戦で遠藤選手の縦パスから武藤選手がゴールを決めるパターンがありました。

「相手陣内中央へボールを入れる時は、前線の味方との距離感が大事になります。縦パスを出して奪われてカウンターというリスクもあるわけですから。それでも勇気を持ってパスを出して、僕のような後方の選手が前線の選手と関わるのは大事なことです。ただ、セレッソ戦のゴールは僕のパスよりも武藤くんのシュートが良かったんですけどね(笑)」

――遠藤選手は昨季湘南ベルマーレから浦和へ移籍加入した直後に、『浦和では味方選手の動き出しが多く、パスコースの選択肢が多いのでプレーに迷いが生じてしまった』と話していました。でも、今ではそのような戸惑いは見られませんね。

「1年間プレーした経験は大きいですね。攻撃の部分では自分の良さを出せていますし、周りとのタイミングも合っていると思います。ただ守備面では、まだ課題がありますね。良い時は前から行って相手を嵌めることができるんですけど、それができなくなると攻撃時に僕が様々なプレー選択を持てるのと同じく、相手にも様々な選択肢が生まれてしまってチーム全体が守りづらくなる。それは後ろから見ていて感じていて、その際に僕の対応も中途半端になることがあるんです」

――浦和の基本守備はマンマークですが、局面によっては、そのマークを受け渡さなければならない。その際の選択に迷いが生じているのでしょうか。

「そうです。前に行っている選手もいるけど、僕は少し後ろでカバーしつつ、自分のマークも観察してアプローチしなければならない。ポジション的に一番後ろのポジションは最も周りを観察しなければならないですよね。つまり味方をカバーしなければならないポジションで、なおかつ自分にも受け持つマークがいる。その辺りの守備の難しさは感じますし、今はボールサイドに行くのか、行かないのかの判断は、自分が守りやすいように味方へも要求しています」

――Jリーグはもちろん、AFCチャンピオンズリーグの戦いでは対戦相手に実力のある選手がいるとマッチアップの際に異なる対応が求められるシーンもあります。その中で、今季の浦和はACLで中国スーパーリーグの上海上港と対戦し、エウケソンやフッキにゴールを許しています。彼らのような世界的なプレーヤーとのマッチアップを体感して、何かを得られたりはしましたか。

「上海上港戦でフッキにゴールされたシーンは、僕の対応が悪かったんです。強いチームと対戦する時の対応、どう守らなくてはいけないのかは考えなければいけない。フッキのゴールシーンでは、最初はモリくん(森脇)がフッキに対応していて、彼から僕か駒井(善成)にカバーしてほしいという要求があった。ただ、僕らとしては2、3人で行かずにモリくんだけで対応して飛び込まなくていいと思っていた。でも、そこでモリくんが『来い!』と言った瞬間に、ふたり(遠藤、駒井)がともにアプローチしてしまったんです。そこでモリくんを含めた3人が全員フッキにかわされて、最悪な結果を招いてしまった。この辺りの判断は最終的に選手一人ひとりがするしかないんですよね。一度自分が決めたら周囲のリアクションに惑わされてはいけないとは思いました。またフッキのような相手に対しては、安易にボールを奪いに行かない勇気も大事になると思いました」

――遠藤選手がプレーしているリベロのポジションはフィールドプレーヤーの中で最も後ろに控えているわけですから、守備面で味方選手をコントロールする役目も担っています。

「はい。このチームの良さは攻撃面にある。基本的に前線の選手には守備の負担を掛けさせないように意識しているんです。だからブロックを敷いて後ろで構えるのではなく、後ろから前の選手を押し出して相手からボールを奪いに行く。1トップやシャドーの選手ができるだけ下がらずに高い位置にいられる守備をするのが理想です。結果的に後ろの選手の負担が増すわけですが、そこはバランスを考えながらプレーしたいです」

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■個人的な理想はスタメンのボランチ

――個人的には、今季のテーマを設定していますか。

「個人的な目標はそれほどないですが、Jリーグで優秀選手に選出されてベストイレブンに入りたい目標はあります」

――また、遠藤選手はボランチのポジションでプレーしたい思いもあるようですね。

「そうですね。完全に個人的な思いですが、ボランチでプレーしたいとは思っています。ただ、3バックの真ん中がやりたくないわけではないですよ。リベロの面白さも感じていますから。また、与えられたポジションでプレーする責任もあります」

――J1リーグ第3節のヴァンフォーレ甲府戦では、試合途中からボランチでプレーしました。

「理想はスタメンでボランチとして出ることです。ボランチでプレーするならば、そのポジションでスタメン出場し続けたい。ただ甲府戦では試合途中からのプレーだったんですが、結構消耗しました。ひとつ前のポジションでプレーするからには運動量も上げないといけない。そのようなプレーも見せなければいけないと思いました」

――遠藤選手は、何故今、ボランチでプレーしたいのでしょう?

「日本代表に入るためです。また海外でプレーすることになった時に、ボランチでのプレーの方がイメージを描きやすいのかなと。以前はディフェンダーとボランチのどちらが良いのかを考えていて、あまり公言はしていませんでした。ただ、ここから2018年のロシアワールドカップへの出場を目指した時に、ボランチの方が可能性を見い出せるのかなと思ったんです。日本代表の(ヴァイッド)ハリルホジッチ監督自身が『お前はボランチの選手だ』とも言っているんですよね。そうなれば、代表ではボランチでプレーするしか道は無いのかなとも思っています」

――遠藤選手はハリルホジッチ監督から身長面のハンディも指摘されたと聞いています。

「そうですね。それも監督の考え方なので仕方がないですよね。GKの(西川)周作くんもハリルホジッチ監督から同じことを言われましたしね。そこは、『そういうことを気にする監督なんだな』と思う一方で、それならば従うしかないという思いです」

――手っ取り早いのは、遠藤選手も今から身長を伸ばせば良いのかもしれませんね(笑)。

「(笑)。それは、そうですね(笑)。もし、僕が185センチの身長ならばボランチをやりたいとは思わないでしょうね。今の自分の状況を考えてボランチでのプレーを模索しているんです。身長に関しては、今までもセンターバックでプレーしてきて周囲から指摘され続けてきたことでもある。その悔しさはもちろんあって、センターバックで結果を残したいプライドもありました。ちなみに僕自身は、センターバックでプレーしてきて身長がハンディになったと思ったことはないんですけどね」

――ボランチでも遠藤選手自身の能力を生かせる自信があるのでは?

「やり甲斐は感じています。昔はプロの世界ではボランチでプレーするのは厳しいかなと思っていたんです。実力的に能力が足りないと。センターバックのほうが自分に合っているとも思っていた。でもU-23日本代表で手倉森誠監督にボランチで起用されて、A代表でもボランチの力を見込まれて選出されるようになってから、自身のボランチでの可能性を広げていきたい思いが出てきたんです」

――他のポジションからボランチにコンバートされた選手が最初に苦労するのは、360度で相手のプレッシャーを受けた時と聞きます。

「僕は、その点の戸惑いはなくて、それよりも運動量のことを考えています。ボールを受けるポジション、位置取りには気を遣いますね。ボランチは相手陣内から自陣までを行き来してプレーし続けないといけない。いわゆる『ボックス・トゥ・ボックス』での貢献を求められるわけで、その運動量がベースになかったら役割を果たせないわけです。それに加えて球際の強さだったり、ボールを受けた時の展開力、パス精度、判断スピードを求められるわけですよね。それは、これからボランチでプレーして経験していくしかないですよね」

――あとは、そのチャンスがいつ訪れるのか。

「機会を逃さないためにも、今は浦和での役割、ポジションでしっかり結果を残して、その中でも代表に選出されるようにしたいですね。それにはチームで結果を残さなければならないです」

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■タイトル獲得に大事なのは守備

――浦和は選手層が厚く、Jリーグ優勝できる戦力を有していると思うのですが、昨今はリーグタイトルから長く遠ざかっています。その理由は何なのでしょう?

「昨季の鹿島とのチャンピオンシップだけに関して言えば、勝ちに行った結果が、あれ(2戦合計2−2ながらも、浦和はアウェーゴール差で優勝を逃す)だったんです。浦和は第1戦のアウェー戦を1−0で勝利した上で、ホームでの第2戦も勝ちに行った。それが自分たちのスタイルなので、その姿勢は当然のことです。実際に(興梠)慎三くんのゴールで先制して、自分たちのリズムでゲームを進めていたんですが、後半の途中辺りから皆の中で『点を取られたらマズイ』という感覚、雰囲気が出てきた。そこで2点目が取れれば理想だったんですけど、得点できずに試合が推移して焦りが生まれてきたんです。そこで失点してからはバランスが崩れてしまった。自分たちのリズムで攻撃ができない。悪い時の典型的な例で、守備も嵌まらない。最後はやったこともないパワープレーに移行して、自らボールを動かすことすらしなくなってしまった。以上のことを踏まえると、やはり大事なのは守備だと思うんですよ」

――試合の中では、結果を得るための逆算をしなければならない。

「そうなんです。攻撃面では素晴らしい形を何回も作れて、得点できるチャンスもありました。一方で、守備ではしっかりブロックを築いて自陣へ下がることに抵抗のある人もいるんです。自信を持って『ブロックを敷いたら守れる』と思える選手が、正直今の浦和ではまだ少ないと思っています。監督の理想のスタイルを追求するのは大事で、選手たちはそれを実現させる努力もしています。それを目指すのは当たり前のことなんですけど、上手く行かなかった時に、『何故上手くいかないんだ』と思うだけでなく、相手に合わせることも必要なんだと思います。それは去年のチャンピオンシップで学んだ部分です。相手にボールを動かさせる強さって、絶対このチームには必要だと思うんです」

――今の浦和には克服すべき課題があるということですね。

「時間帯によってチーム全体の意識がバラバラにならないような強さを備えなければならないですよね。今季リベロでプレーしている者として、試合展開によっては『しっかりブロックを敷こう』と話をしていこうと思っています。ただ、このような究極の場面はタイトルマッチで初めて訪れるとも思うんです。だから今の段階では粛々と勝ち点3を追い求めてもいい。その中でも様々な守備の課題を改善していかなければならない。Jリーグでは第6節のベガルタ仙台戦で今季初めて無失点に抑えられましたが、これまでの失点の多さには何らかの問題があると思うんですね。だから、今からでもチーム内で話し合って修正しなくてはならない。それは何のためかというと、タイトルを得るためのゲームで結果を出すためです」

――昨季に比べて、今季の浦和がベースアップしている手応えはありますか?

「そうですね。新加入選手もフィットしてきましたし、チーム全体の調子も良い。僕もまだ浦和で2年目ですから、チームの上積みはできています。例えば今季湘南から加入した(菊池)大介くんは、まだなかなか試合に絡めませんが、必ずどこかでチャンスが来ると思っています(菊池は第6節・仙台戦で交代出場からアシストをマーク)。去年のYBCルヴァンカップでトシくん(高木俊幸)が活躍したように、普段試合に出ていない選手が結果を残すとチームが乗っていける。それがいい相乗効果、競争になってレベルアップできると思います」

――遠藤選手も昨季、腕の負傷やリオデジャネイロ・オリンピックへの出場でチームを離れた時に、代わりに出場した那須大亮選手が結果を残しました。

「僕にも危機感があります。那須選手との関係性も切磋琢磨できるもので、とても良い環境です。このような形が他のポジションでもないといけない。今のチームで言えば、前目の選手には各ポジションにライバルがいる状況ですが、後ろは少ないですね。様々なオプションがある中で、チーム全体のレベルアップを図りたいです」

――今季まだ序盤ですが、浦和がタイトルを獲得できる自信はありますか。

「守備のことをしっかり意識して、その都度話し合わなくても理解できるような試合をしていければ、もっと手堅いチームになる。その意味では、まだまだだなと感じています。今の浦和は最終的にタイトルを逃すイメージを付けられている。その現状を変えるためには守備の共通理解が必須です。常に上位に入る力はあるチームだと思っているのですが、最後に勝つために、今、チーム内で必要なことをみんなと話しています」

――今季の浦和はタイトルを獲得できる。そう信じてよろしいでしょうか?

「大丈夫です。今年は」

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