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レアルファンが愛する理由を示せず、前背番号7の影は伸び続ける――それでも、ジダンは微笑む

■ヒステリックなペップ、柔和なジダン

「コモ・ノ・テ・ボイ・ア・ケレール(どうして愛さずにいられようか)、シ・エレス・カンペオン・デ・エウロパ・ポル・デシマ・ベス(君が10回の欧州制覇者なら)」

ここはレアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウ。チャンピオンズリーグで絶対に歌われるチャントは、キックオフ前から鳴り響いていた。だが、もう試合は終わり、残っているのはこのチャントを知らないであろう記念撮影する観光客と、英語のチャントを高らかに歌うマンチェスター・シティサポーターのみ。マドリーのソシオは、後半アディショナルタイムが終わらぬ内に帰途についた。自分たちのチームを愛する理由は見つけられなかったのか、忘れてしまったようだ。

ベルナベウの3階にある記者席を出て、下にある記者会見場にエレベーターで向かう。場内は、ここからが仕事の本番という感じで、多くのメディアの人間でごった返している。自分の身分証明書と引き換えに、通訳の無線機をもらう。今回、会見場で使われる言語は、合計で4つである。

通例通り、最初に会見に出席したのはアウェーチーム監督のジョゼップ・グアルディオラ。英語でもスペイン語でもカタルーニャ語でも、相変わらずヒステリックに、内なる自分と対話しているかのように、試合の細部にまで触れつつ言葉を紡いでいく。話の途中で頭や鼻に触わる癖もバルセロナを率いていた頃と変わっておらず、まるで負けたような素振りだ。

グアルディオラの次に現れたジダンも相変わらず。いつも通り最初にスペイン語、最後の2問だけフランス語で発するコメントは素朴そのもので、「良かった」「悪かった」「ミスがあった」のような大枠で試合を振り返っていく。普段よりもシリアスな表情をしている時間が長いが、それでも柔和な笑顔ものぞかせて、まるで勝ったような素振りだ。

会見場における監督の言葉には意図が満載で、すべてまともに受け止めるわけにはいかないが、それでも各々の気質が滲み出る。ペップとジダンは、その最たる例かもしれない。

■信条を裏切ったペップ

Pep Guardiola Manchester City 2019-20Getty Images

ペップ:「対戦相手のことは可能な限りチェックする。休みの日、10日間はマドリーを見続けた。私は彼らが行なっていることから決断を下した。カンプ・ノウの試合で、彼らがかなり前からプレスを仕掛けているのを確認した私は、『バルセロナでああやってプレーするならば、ここでも私たち相手にそうするはずだ』と口にした。だから代案を模索した。私は選手たちに対して、ピッチ上で何が起こるのかを伝える義務を負っている」

ジダン:「クロースは私たちにとって、とても大切な選手だ。だが今回の選択はこういうものだったんだ。トニに対して何か思うことがあるわけではないし、彼は良いプレーを見せているよ」

立ち上がり、思惑通りにいかなかったのはマドリーの方だった。ジダンはクロースをベンチに置いて、カゼミーロ、モドリッチ、バルベルデを中盤の3枚に起用(数的不利に陥らぬようイスコも使った)。攻撃から守備のトランジションに問題を抱えるシティに対して、ハイプレスから速攻を仕掛ける意思の表れだった。ピッチ中央でボールを奪って、モドリッチが出す鋭いスルーパスからバルベルデが飛び出したり、左ウィングのヴィニシウスが切り込んだり……そんな光景は容易に想像がついた。しかしグアルディオラは、シティがボールを後方から繋いでいくという予想を、彼の信条をあっさりと裏切っている。

ペップ:「私たちは4-3-3に対抗する準備をしていた。最近の彼らがそのシステムを使っていたからだが、しかし中盤をダイヤモンドにしてくる可能性もあった。よって私たちはヴィニシウスに目をやり、彼がワイドにプレーするなら4-3-3、中でプレーするなら中盤ダイヤモンドだと判断して、少しの調整を試みたんだ。その意図はボールを持てるならばできるだけそれを持つことにあったが、前半は難しかった」

4-4-2のシステムを使用したシティは、攻撃にそこまで数をかけず、ポゼッションについても頑なと言えるほどにはこだわらなかった。GKエデルソンのフィードによってマドリーが前からかけるプレスを無効化し、カゼミーロの両枠に位置するデ・ブライネ、ベルナルド・シウバの偽9番二人に直接ボールを届けた。両サイドバックはあまり上がろうとせず、またボールの後方にロドリとギュンドアンを残すことで、マドリーの速攻にできる限り警戒していた。もう一つ、彼らの攻撃の鍵を握ったのは、左サイドハーフに配置されたジェズスだ。ブラジル人FWは、逆サイドのメンディに比べて前方に位置することを常とするカルバハルの裏を試合を通じて執拗に狙い続け、実際にそこから決定機を手にしていった。

ペップ:「ジェズスのような選手は世界にいない。もしサイドに置けば止めるのは難しい。彼を選択したのはピッチをワイドに使えるからだ。ヴァラン、セルヒオ・ラモス、カゼミーロ、バルベルデに真っ向からぶつかるのは骨が折れることだからだ」

GKクルトワの好セーブも飛び出して、前半に失点をせずに済んだマドリーだったが、リスクを冒さぬシティを脅かす攻撃も見せられず。ヴィニシウスの果敢な突破は光ったが、シティの4-4-2の守備がああも厚くては、ただでさえ薄いプレーの効果性がさらに薄まる。前半に迎えた一回きりの明確な決定機は、マドリーにとって本数が多ければ多い試合ほど結果が出ない、つまり行き詰まったときの苦し紛れであるクロス攻撃から。メンディの上げたボールにベンゼマが頭で合わせたものの、これはエデルソンにセーブされた。

■現実は甘くない

Sergio Ramos Real Madrid 2019-20Getty Images

ジダン:「私たちは最も悪い時間帯にゴールを決めた。それが事実だ」

後半、シティは同じようなプレーを方法を続けると思いきや、本来のポゼッションフットボールを見せるようになり、マドリーを自陣に押し込めた。マフレズが立て続けに3回の決定機を手にし、その内2回はクルトワの好守に阻まれて、もう一本のシュートは枠をわずかに外れている。すると苦境に陥るマドリーが、前半に肩透かしを食らったハイプレスを機能させた。60分、モドリッチがロドリゴからボールを奪って一気に速攻を仕掛け、ヴィニシウスが折り返したボールをペナルティーエリア内右にフリーで走り込んだイスコが押し込んでいる。前半にシティが恐れていた、マドリーが望んでいた光景が、そこにはあった。

ベルナベウの盛り上がりは最高潮を迎えていた。このときには、彼らを愛する理由が、はっきり存在していたのだ。そこからマドリーはポゼッション率を高めて追加点を目指し、もっと愛されることを願った。そしてジダンは75分、ここまでサポーターから愛想を尽かされていたベイルにも愛を享受させようと、疲労困憊のヴィニシウスとの交代で投入。ヴィニシウスの代わりにベイルが攻撃の旗手となって、シーズン最後の直線を前に復活を果たす――うまくいくならば素晴らしい筋書きだった。だが現実は、グアルディオラは甘くなかった。

ペップ:「私たちは最も良かった時間帯に失点を許し、その後、彼らが最も良かった時間帯にゴールを決めた。チャンピオンズの試合はそうやって浮いたり沈んだりするものだ」

ジダン:「最後の10分間は良いものにはならなかった。内容が悪く、もっとひどくなる可能性だってあった。守備のミス? そうだね。それもフットボールの一部だ」

完全にベルナベウとマドリーの勢いに呑まれていたシティだったが、負傷明けのスターリングをここぞとばかりに投入して、息を吹き返す。ベルナベウの後押しによって勢いづくマドリーとの殴り合いに応じ、ダウンを奪っていった。78分、左サイドでボールをキープしたスターリングの横パスからデ・ブライネがペナルティーエリア内に侵入。後方から追いかけてきたバルベルデが追いつくや否や180度ターンして、ふわっとした右足のクロスを送ると、ジェズスが頭でネットを揺らす。また83分には、マドリーのウィークポイントだと攻め立て続けたカルバハルにスターリングが倒されて、PKを獲得。キッカーのデ・ブライネがスコアをひっくり返した。

立て続けの打撃で動揺を隠せないマドリーは守備が安定しなくなり、ベイルの存在感を際立たせる余裕もなかった。そうして86分、カゼミーロの不用意なパスからジェズスに抜け出され、倒したセルヒオ・ラモスが一発退場となって完全にノックアウト。観客がまだ季節が冬であることを思い出し、あたたかな我が家が恋しくなったのは、この瞬間からである。「コモ・ノ・テ・ボイ・ア・ケレール」が叫ばれたのは、もう遠い過去のことだ。

ペップ:「ベルナベウで、90分間にわたって試合を支配しようとしてはならない。ここでは絶対に苦しむことになり、決定機だってつくられる。しかし私たちはとてもうまくやった。ベルナベウでの勝利は大きな喜びだ。なぜなら、私たちはこういったことに慣れていない」

ジダン:「ここからポジティブなことを取り出さないと。結果にはそこまでポジティブなことはないが、私たちは終盤を除けば良い試合を演じた。70分間は良かったし、これから私たちはシティのホームに赴いて、そこで勝たなくては。もし、このラウンドを突破したいならね」

■前背番号7の影

ronaldo-real(C)Getty Images

苦虫を噛み潰したような顔のグアルディオラ、はにかんだ笑みが特徴的なジダンが去った会見場では、各メディアのキーボードを叩く音がせわしなく聞こえる。きっと大まかな論調はどこも同じで「ジダンとグアルディオラの勝負の分け目は、終盤の采配にあった」といったものだろう。そして自分たちの悪かった時間が、最後の10分か20分かを曖昧にして公の場を離れたジダンは、もう笑みなど浮かべていない。苦虫を噛み潰しているはずだ。

会見場を後にしてスタジアムの外に出ると、サポーターの姿はもうなかった。いつもなら監督の会見後も、マドリーの選手たちが運転する車を待ち受ける人だかりを目にするが、今日はそんなことをする人たちがいなかったのか、それとも選手たちも早く家に帰りたかったのだろうか。

ふとSNSを見ると、マドリード州のトレンドワードに「クリスティアーノ・ロナウド」の名がある。マドリーは彼が決めていた分(1シーズン40~50得点)だけ得点数を減らしているが、前背番号7の影は消えるどころか、だんだんとのびている。欧州カップのトロフィーを最も多く保有するベルナベウだが、この試合の後は彼がずいぶん前に落としていった影にのまれるように、何だか寂れているようだった。

取材・文=江間慎一郎(マドリード在住ジャーナリスト)

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