今夏の移籍期間も半ばを過ぎ、多くの契約が実現されているが、プレミアリーグに関して費やされている大金に関して、今回ばかりは例年通りとはいかない事象が存在する。2016-17シーズンのリーグ戦が終了して以降の6週間で、エヴァートンがどのクラブをも上回る9000万ポンド(約132億6000万円)以上を使っているという点だ。すでに契約を済ませた選手は5人で、これを上回るのは、新たに昇格してきたハダースフィールド・タウンのみである。21世紀に入って以来、夏は倹約という印象が刷り込まれてきたファンにとって、2017年の夏になってようやく、クラブが正しい方向に向かっていると信じられるようになってきたわけである。
■有望株を次々獲得
サッカー選手として比較的トップクラスの経験が少ないジョーダン・ピックフォードとマイケル・キーンに、6000万ポンド(約88億4000万円)を払ったことは少々行き過ぎに見えるかもしれない。しかし、それほど争奪戦が過熱する前に獲得を決めたエヴァートンの策は成功だろう。2人は加入後すぐにポジションを奪うことのできる選手であり、今後10年間、クラブやイングランド代表として真っ先に名前が挙がる選手になるという期待も抱かせてくれる。
また、デイビー・クラーセンとサンドロ・ラミレスも、エヴァートンへの移籍が決まった。2人が、オランダのエールディヴィジや、リーガ・エスパニョーラで見せていたプレーを再現できるとすれば、今後“当たり補強”としてメディアに報じられることになるだろう。1年前、アシュリー・ウィリアムズやイドリッサ・ゲイェ、モルガン・シュネデランが加入したことや、新スタジアム建設に目処がたったことにより、ファルハド・モシリ時代は、どうやら今までより良いスタートを切れたようである。
それでは、2015~16シーズン末以降、将来への長期展望を示してきたエヴァートンが、ウェイン・ルーニーと再契約の動きを見せているのは、なぜだろうか。
Getty Images■ファンは放蕩息子の帰還を熱望
ノスタルジックな面においては、この動きはうまくいっている。2015年夏に行われたダンカン・ファーガソンの記念試合にルーニーが途中出場したとき、誰もがルーニーの話でもちきりだった。イングランド代表の歴代通算最多得点記録保持者であるルーニーが、再び青いユニフォームを着てピッチに立った姿は、サポーターたちに、いつの日か放蕩息子がマージーサイドに戻ってくるという夢を抱かせたのである。
Getty Images「ルーニーが戻ってくるところを見たいと思っている」と、エヴァートンの元ストライカー、ケビン・キャンベルは『talkSPORT』に語った。「少し疑惑ありげな感じでチームを去ったけれど、彼が悪かったわけではないし、彼が少年時代に活躍した、愛するクラブに戻ってくるところを見られれば、それだけで充分だ」。キャンベルの言葉は、およそ15年前、ルーニーの若き日々を目撃したすべての人々の気持ちを代弁するものである。
■ルーニー獲得がリスクである理由
だが、エヴァートンをプレミアリーグのトップ6に食いこめそうなチームに作り変えるという快挙を成し遂げたロナルド・クーマン監督にとって、ルーニーの復帰は前向きには受け取りづらいかもしれない。第一に、クラブだけでなく、自国のレジェンドでもある選手の加入はエヴァートンの賃金体系を破壊する可能性がある。
さらに言えば、ルーニーは昨シーズン、6位で終わったチームにさえ入ることができなかった。スポーツ的な観点から見ても、たった1つ順位が下に終わったチームが、ルーニーの加入でさらに向上すると思うのは難しいことである。

31歳のルーニーは、今もなお彼独特の見事なフリーキックからのゴールや、自陣深くからの目を見張るようなフィードを見せてくれてはいる。それでもエヴァートンに戻って、先発メンバーの11人に選ばれるかどうかは別問題だ。たとえ今夏、ロメル・ルカクとロス・バークリーが売りに出されても、それは同じことである。トフィーズことエヴァートンは、スウォンジー・シティの司令塔、ギルフィ・シグルズソンに食指を伸ばしているが、これは、エヴァートンが依然として新しい背番号10を欲していることを示す。過去3シーズンのリーグ戦で25ゴールを挙げたルーニーが戻っても(これは、ルカクが、昨シーズン、1シーズンのみであげたゴール数と同じだ)、センターフォワードとして生き残れるような働きはできないことを物語っている。
マンチェスター・ユナイテッドのキャプテン、ルーニーを獲得するために、エヴァートンが移籍金を払う可能性は低い。チェルシーへの愛着が強そうなルカクの代わりを探すためだとしても、ルーニーに週25万ポンド(約3683万円)という給与を提示しようとしているというニュースは不可解だ。
■ポジティブな面も勿論あるが…
これまでのところ、金に糸目をつけないというエヴァートンの姿勢は、サッカー界に大きなインパクトを与えている。一方で来シーズンだけでなく、今後5年間、またはそれ以上に、現実的にトップ6を狙うというのなら、ベルギー代表フォワードのルカクが供給するゴール数と同じだけ得点できる選手が必要である。
そんな役割をサンドロが引き受けるようになるまでには、時間がかかるだろう。オリヴィエ・ジルーがおよそ2000万ポンド(約29億4000万円)で加入するというニュースがあるが、確かに短期的な穴埋めには有効かもしれない。とにかく現状を考えれば、エヴァートンが獲得できそうな、得点能力の高いことが明らかなプレミアリーグのストライカーは、他にそう多くはない。
ルーニーが近々加入したとしても、この難問の解決策になるとは言い切れない。だが、ヨーロッパサッカーが切迫するなか、ますます多くの若手を扱わなければならないクーマン監督にとって、リーダーシップをとれるルーニーの加入は喜ばしいことかもしれない。クラブの稼ぎ頭をサブに回せば、この夏、U20のイギリス代表として大活躍したアデモラ・ルックマンやドミニク・キャルバート・ルーウィンのようなストライカーたちにとって朗報かもしれないが、それはまた、別の問題である。
ルーニーの帰還が来週あたりに決定すれば、クラブとファンの双方が有頂天となるような朗報だろう。だが、もしルーニーのパフォーマンスのレベルが標準以下のままであるなら、クラブとファンはいつまで我慢するだろうか。ピックフォードとキーンのために大金を支払ったというのに、天才少年の帰還のために危険を冒しては何にもならない。
文=トム・マストン/Tom Maston




