チャンピオンズリーグのグループEでの初戦、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は、タッチライン際を動きまわりつつ、リヴァプールサイドにボールが来るたびに蹴りだしていたが、そんな風にエネルギーを浪費する必要はなかった。
リヴァプールは試合を支配して対戦相手のセビージャを苦しめており、相手のエドゥアルド・ベリッソ監督は、リヴァプールのスローインの際、2度もボールをあらぬ方向に蹴りだして、退場処分となった。
アンフィールドの夜、レッズが繰りだす攻撃は、カウンター攻撃も複雑なビルトアップによる攻撃も痛烈なものであり、セビージャの劣勢は明らかだった。しかし、それでも、最終的なスコアは2-2だった。

リヴァプールは計24本のシュートを放ち、セビージャは枠内シュートが前後半でわずか1本ずつ。それでも、両チームのGKがゴールラインを越えさせてしまったボールは、同じ回数だったのである。
それどころか、リヴァプールはPKのチャンスを獲得したにもかかわらず、追加点を挙げることができなかったし、試合終了間際の時間帯には、速度制御のシステムを発動させていたかのようだった。
さらに言えば、リヴァプールは、ドローで間違いなしという時間が続くなか、最後まで何が何でも勝利を得ようとする努力をしていただろうか。
つまり、リヴァプールは、楽々と試合をしていた面もありながら、冷徹に勝利を奪う力に欠けていたのである。
Getty試合開始のホイッスルに続き、うねりのような声援が轟いたわずか5分後、リヴァプールは守備力のなさを露呈し、受け身のプレーが連続して状況判断が甘くなった挙句、デヤン・ロブレンのミスが失点に直結してしまった。
また、ディフェンスのエムレ・カンとジョー・ゴメスもスイッチが入りきらず、危険を回避することができなかった。イングランドのU-21代表のキャプテンであるゴメスは、セビージャの左サイド奥から放たれたセルヒオ・エスクデロのクロスへの反応が遅れたのである。そんな浮ついた瞬間に、クロアチア代表のセンターバックであるロブレンが、力のないボールをクリアしきれず、セビージャのウィサム・ベン・イェデルに苦も無くゴールを決めさせてしまった。
クロップ監督は真っすぐベンチに戻ると、アシスタントコーチのゼリコ・ブヴァッチの隣に座って、失点シーンの検証を始めた。リヴァプールがホームで、こうも早い時間帯に対戦相手に先制されてしまうなど、夢にも思っていなかったのだ。
「最初の失点は、中盤で簡単にクリアできるボールから始まった」とレッズの指揮官は試合後、説明した。「エムレの対応がほんの少し遅れた」ことで失点を予感したと話す。
「それまでは、どうということもなかった。左サイドのハーフスペースでボールにプレスをかけ、最後にはデヤンの股間を抜かれたのだと思うが、正確にどうだったのか、わからない。つまりは、ディフェンスが完璧でなかったということだが、もう一度ちゃんと見なければならない。これは、そう、集中力の問題だ。今は他に何ともいえない」
バックラインでミスを犯したリヴァプールの選手たちは、よりいっそう攻撃に向かう必要が出てきた。ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラー、アルベルト・モレノといった選手たちが、セビージャに休む暇を与えず攻めたて、サイドや中央を切り裂く。
Getty Imagesリヴァプールは、前半の45分のうちにスコアをひっくり返し、スコアがさらに開くのは時間とシュート数の問題だったと思われた。実際に、ブラジル代表のフィルミーノが猛然と攻撃をしかけ、ジョーダン・ヘンダーソンとモレノの素早く、巧みなコンビネーションがゴールを生んだ。
この“ゲーゲンプレス”とも呼ばれる連続プレーは、リヴァプールの基本理念のひとつである、ゴールに向かうスピードを見せつけるものであり、セビージャのゴールキーパー、セルヒオ・リコの頭の上を越えた2点目は、リヴァプールのもうひとつの基本理念、諦めないプレーを示すものであった。
レッズは、ペナルティーエリアに向って巧みなパス交換を見せたものの、いったんはセビージャにボールを奪われてしまう。しかし、サラ―が猛然とスティーヴン・エンゾンジからボールを取り返し、ミドルシュートを放つと、セビージャのシモン・ケアーの足に当たってコースが変わり、ゆっくりとゴールラインを越えていったのだった。
数分後、マネを止めようとしたセビージャのニコラス・パレハがファールをとられ、リヴァプールはPKで3点目を決めるチャンスを得た。しかし、GKリコの逆をついたフィルミーノのシュートは、ポストを叩いてしまう。
カンと古巣相手に左サイドを脅かしていたモレノは2人で、さらに何度も追加点のチャンスを作ったが、ドイツ代表のカンのシュートはわずかにゴールを外れ、モレノのシュートは好セーブに阻まれた。
Getty Images後半も、リヴァプールはチャンスをつくり、セビージャの守備を切り裂いて苦しめていたが、クロップ監督が言うところの「得点に必要な最後の10%」を見いだすことができなかった。
72分、セビージャは、セルヒオ・エスクデロ・パロモの左からの素早いスローインでレッズの意表をつくと、ルイス・ムリエルからホアキン・コレアにパスが渡り、コレアは体を開いて力強く右上にシュートを決めた。
このプレーで最も衝撃的だったのは、スコアがタイになったことではなく、優勢だったリヴァプールがあっさりと消沈したことであった。
同点に追いつかれた後、リヴァプールのフィリペ・コウチーニョが今シーズン初めてピッチに姿を現した。今夏、バルセロナ行き希望を表明していたコウチーニョに苛立っていた観衆ではあるが、温かい拍手で迎えた。
だが背番号10は、自分たちのペースで試合ができていると思いこんだチームメイトの不充分なプレーを、魔法のように払拭することはできなかった。
Getty Imagesクロップ監督は、シュートの多さに対するゴールの少なさを嘆いた。あくまでも、チームが不運に見舞われたと考えているようだ。
「たくさんのシュートを撃っても得点できないのは、確かに問題だ。だが、そんなことはいつまでも続かないと思う。このような試合では、もっと多くの得点が入るのが普通だ。何度もチャンスがあったのに、得点できなかったことを褒める者はいない」
続けて、「このことは改善しなければならないとは思うが、不治の病というわけではない」と話し、時間が解決する問題であるともしている。
一方でクロップ監督は、2失点は防げたものだったことを認めたうえで、守備面に関してはこう付け加えた。
「我々全員に、改善すべき余地がある。我々は、試合を支配して簡単なゴールを決められないようにすることを学ぶ必要がある。最初の失点は、確かに不必要なものだったし、簡単にやられすぎた」
「2失点目は、正直言って、どうしてあんなことになったのか、私にはまったくわからない。もう一度、見直す必要があるだろう。あのような守備の崩壊は普通に起こることではないが、100%改善しなければならない」
水曜の夜、リヴァプールの最大の敵は、リヴァプール自身であった。セビージャは引き分けを勝ち取るのに、最高のプレーを見せる必要はなかった。こんな試合をしていれば、欧州制覇というリヴァプールの悲願は押しつぶされてしまうことだろう。
文=メリッサ・レディ/Melissa Reddy
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