今季の目標:1部残留
結果:リーグ11位、ドイツ杯決勝進出
採点:80点
文=山口裕平
■終盤、長谷部がいれば……
長谷部にとってのドイツ11シーズン目は非常に悔いの残る形で終わりを迎えてしまった。前半戦6位と台風の目になったフランクフルトは欧州カップ戦出場圏争いを繰り広げてきたが、負傷者が続出して失速すると後半戦は13ポイントと、リーグ最低の成績でリーグ11位にまで転落。シーズンファイナルとなったドイツ杯決勝でも力及ばず29年ぶりのタイトルを逃し、欧州への切符をつかむことはできなかった。
長谷部自身も最も重要な選手としてチームを引っ張ってきたが、3月中旬のバイエルン戦でライン上でのクリアを試みた際にポストに激突すると膝を負傷して終盤戦を全休することに。シーズン終盤で苦境に陥るチームを見守ることしかできなかった。長谷部がいればと考えたファンは少なくないはずだ。
■安定させる役割として様々なポジションで活躍
今季の長谷部は「キャリア最高」と現地メディアも評するほど充実したシーズンを送っていた。クラブは昨季終盤から見せていた勝負強さを発揮し、開幕ダッシュに成功。今季の台風の目になっていたフランクフルトだが、さらなる守備の安定を求めていたコバチ監督は10月末のボルシアMG戦で長谷部をリベロに据えた5バックを導入すると、これが機能して一時は欧州CL出場権を争うまでになった。
そんなフランクフルトの快進撃の中心は長谷部だと多くの現地メディアは分析した。長谷部自身は「CBに慣れないように」と繰り返したが、守備を統率し、抜群の危機察知能力を持つ長谷部が最後尾に入ることでチームが安定することは誰の目にも明らかだった。もたらしたのは守備の安定感だけではない。最後尾に入ることで相手のプレッシャーから解放された長谷部は、広い視野と長短織り交ぜたパスをピッチに散らし、フランクフルトの攻撃も活性化させた。
だからといって、コバチ監督は長谷部をCBで固定したわけではない。ケガ人を含めたチーム状況に応じて、ボランチやSBでも起用した。昨季までは便利屋としての印象が強かったが、今季はチームを安定させる存在として必要なポジションにあてがわれた。
チームはPKの失敗が続いていたため、後半戦に入るとPKキッカーも任された。ダルムシュタット戦ではプレッシャーの掛かる場面で決め、勝利に貢献した。(インゴルシュタット戦では追い上げるチャンスを逃して酷評を受けたが。)
3月にはブンデス通算235試合目の出場を果たし、奥寺康彦氏が持つ日本人選手のブンデス最多出場記録を更新。記録に並ぶ試合と記録更新の試合では初めてキャプテンとして臨むという偶然が重なり、長谷部にとって今季だけでなくキャリアでも重要なハイライトになった。
それだけに、バイエルン戦でのクリアミスが惜しまれる。ひざを負傷することになったポスト激突の前のシーンで、長谷部は浮き球の処理を誤り相手選手にループシュートを許してしまった。最後まであきらめずにクリアを試みた長谷部は褒めるべきだが、自身も指摘したように自らが招いてしまった惨事でもあった。
■躍進のシーズンを終え、来季は?
しかし、この1年間でフランクフルトが成し遂げてきたことは評価に値する。結果的に何も勝ち取ることができなかったことで失意が広がったが、ちょうど1年前にクラブが入れ替え戦の末に1部残留を勝ち取ったということを忘れてはならない。そこからチームは急成長を遂げ、リーグ戦とカップ戦で快進撃を見せてタイトルを争えるところまでやってきた。
ドイツ杯決勝での敗戦後にはコバチ監督も「我々はどこまでやって来たのかを考えなければならない。もちろんすべてのことを改善したいが、今日はこれ以上のことはなかった」と、この1年間にクラブが歩んできた道のりを振り返った。
来シーズンはフランクフルトにとって新たな挑戦になる。ほんの1年前まで残留を争っていたチームがここまで来たのだから、その逆が起こってもおかしくはない。ただ、そのことを一番感じているのは他でもないフランクフルトのはずだ。そういった意味でも、今季チームの中心となった長谷部の復活が期待される。
■移籍の可能性は?
5%
フランクフルトとの契約は来季末まで。自身の願いであったフランクフルトでの欧州カップ戦出場は叶わなかったものの、クラブが必要とする限り残留することになるはずだ。
文=山口裕平
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