【フィリペ・コウチーニョの物語】色白のひ弱な少年がリーグを代表する選手へ成長した5年間の軌跡
「僕はリヴァプールに来てから、とても成長したと思う。選手としてだけじゃない。一人の人間としてもね」
かつて無造作だったくせっ毛も、今では整えられたツーブロックになった。真っさらだった腕は両親、二人の兄弟、妻のアイネ、そして娘のマリアを刻んだタトゥーで彩られている。
かつて『Hollister』のトレーナーばっかりだったクローゼットは、今ではスタイリッシュなハイブランドで埋められている。英語であいさつすることにも抵抗のあった控えめな20歳の少年は、いまや一人娘が英語で二桁まで数えるのをやさしい眼差しで見守る良きパパだ。
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■アンフィールドでの進化、そして飽くなき向上心
フィリペ・コウチーニョを、昔ながらの10番のように「特定の役割しかこなせない」と考える人はいなくなった。もはや、周囲を生かしながら自身も輝きの放つ選手となったのである。かつて、試合に彩りを与えるだけの存在だった“金粉”は、今や試合を一人で決定付ける“黄金”へと進化を遂げた。
コウチーニョはリヴァプールで、彼自身が語るように大きく成長してきた。
2013年1月30日、当時20歳の若武者はインテルから850万ユーロ(当時のレートで約12億円)でマージーサイドのクラブにやってきた。リヴァプールでの5年間で、彼のポテンシャルは磨かれ、世界的な名手へと成長を遂げた。
「僕はここで、いろいろな意味で強くなった」
コウチーニョはメルウッド(リヴァプールの練習場)の応接室で、自身のキャリア、転換期となった重要な出来事について思い出しながら、『Goal』に語ってくれた。
「初めてイギリスにやって来たとき、学んだり適応すべきことがいっぱいあった。僕にとってリヴァプールの生活は、全く新しい経験だったよ。困難もあったけど、新しい挑戦は楽しくもあったね」
「歳を重ねるごとに、より多くのことできるようになっていると思う。メンタル面でもしっかりコントロールできるようになってきたよ。それはサッカーだけでなく、日常生活も含めて、あらゆることに生かされているんだ」
「僕は立ち止まろうとしたことはないし、成長はいつまでも止まらないものだと思ってる。新しく得られるものは常にあって、成長するいろんな方法があるんだ。ここまで成長してこられたことをうれしく思っているけれど、まだまだだとも思っている。すべてはこれからだよ」
コウチーニョは、自らが大きく成長を遂げられたのは、リヴァプールの環境によるものが大きいと認識している。彼は古典的なゲームメーカーではなく、ピッチ上で柔軟性を示しながらも、一人で試合を決められる選手になった。
今やその多様性は、特筆すべきものがある。フットサルで鍛えられたテクニックを生かした10番としての仕事ぶりは素晴らしい。だがそれだけでなく、左右のウィングでも、中盤の8番としても、さらには中盤の底でアンカーとしても活躍できる。ボールをキープし、無謀に独力で突っ走ることなく、与えられた役目をどう効果的に果たすべきかを常に意識している。
「最初にリヴァプールにやってきたときは、単なるプレーメーカーとしての役割しか考えられていなかったと思う。でも、いろんな人やトッププレーヤー、素晴らしい指導者たちと一緒に仕事をする機会があって、僕がいろいろな役割をこなせることを証明してくれた。多くのプロフェッショナルを見ていくうちに、異なる役割、それぞれのポジションがどのような能力を必要としているか、理解することができるようになったんだ」
「僕は複数のポジションでプレーしていくうちに、自信が持てるようになった。そして、そのおかげで攻撃だけでなく守備もうまくできるようになったと思う」
リヴァプールで飛躍を遂げたコウチーニョは、現在のブラジル代表でもチッチ監督から絶大な信頼を寄せられている。
「フィリペはリズムを変えるだけでなく、ピッチ上で何かを創造してくれる。ゲームを支配するその能力は、どのチームにとっても重要になるものだ」56歳の戦術家チッチはコウチーニョについてこう語った。ポゼッション型のチームの軸を担っている教え子を称賛している。
セレソン(ブラジル代表の愛称)でも不可欠な存在となり、リヴァプールでも主力として16-17シーズンにリーグ戦13ゴールを挙げるという活躍をみせているにも関わらず、その飽くなき成長への意欲は満たされていないようだ。
「ブラジル代表としてピッチに立つことはとても難しい。いい選手が次から次へと出てくるからね」
「どの選手もセレソンではポジションを約束されていない。常に全員が全力を尽くさなければならないんだ。そのためにはクラブで結果を残さないといけないし、代表に選ばれたなら毎回100パーセントの力を発揮する必要がある。自分の居場所を守らなければいけないというプレッシャーは常に存在する」
「僕は今、代表メンバーに名を連ねることができている。とても誇らしく思うよ。セレソンにいるために、僕は全力を尽くす」
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■初心を忘れず、「終わりない旅」へ
コウチーニョが毎試合チーム最高のパフォーマンスを披露できるようになったことは、リヴァプールにとって喜ばしいことだろう。しかし同時に、そのパフォーマンスからビッグクラブから常に狙われる心配の絶えない存在ともなった。特にブラジル代表の盟友ネイマールが、2015年に「フィリペはカンプ・ノウ(バルセロナの本拠地)で温かく迎えられるだろう」と公言してから、バルセロナへの移籍話は常にコウチーニョとともに語られる話題なっている。
2017年1月、コウチーニョはリヴァプールと契約解除条項なしで新たに5年契約を結んだ。しかし、その直後からバルセロナへの移籍騒動が過熱していく。カタルーニャのクラブは獲得を熱望し続けており、ネイマールが2017年夏にパリ・サンジェルマンへと新天地を求めると、その代役として、アプローチはさらに激しくなった。
本人もバルセロナ行きをクラブに志願したとされるが、リヴァプールは再三のオファーを断固として断り続け、移籍は実現しなかった。リヴァプールが断った3度目のオファーは、1億1800万ポンド(約160億円)もの金額だったと言われている。失敗に終わったバルセロナは、ウスマン・デンベレにターゲットを変更。結果としてコウチーニョはアンフィールドでプレーし続けることになった。直後、ブラジル代表での試合時に涙を流し、バルサ移籍が実現しなかったことに失望した姿は大きな注目を集めた。
こういった複雑な移籍をめぐるドラマと、ケガによる2度の離脱があったにもかかわらず、今シーズンもリヴァプールの攻撃を担うコウチーニョは、これまでリーグ戦9試合で4ゴール3アシストを記録している。
プレミアリーグで確かな実績を残してきたコウチーニョは、さらなる成長に向け、努力し続けることを、毅然とした態度で示している。
「僕はこれまで、なりたいプレーヤー像を常に思い浮かべてきたんだ。僕にとってのアイドルはいるし、成功という言葉の意味も分かっているよ。ただ、そうなりたいと思っても、ゴール地点はまったく見えていない。おそらく、それは自分を高めることに終わりはないと確信しているからなんだろう。そう、終わりのない旅の途中なんだ」
「僕はただ、常に最高の自分でありたいという事を心掛けている。いつでもどこでもね」
コウチーニョはこれまで、ブラジル、イタリア、スペイン、イングランドと4つのリーグを渡り歩いてきたことを考えれば、彼の主戦場が再び変わることがあっても不思議ではない。
『Goal 50』で43位にランクインしたブラジル代表のプレーメーカーだが、過去1年間は負傷や移籍騒動などの影響もあり、コウチーニョが真価を発揮できた期間だとは言い難い。実際に、彼はもっと上にランクインしてもおかしくないトップクラスのクラックだろう。
彼は、どんなに成長を遂げようとも、その姿勢は変わらないはずだ。2013年にメルウッドにやってきた姿のままで、地に足を着けた一人の人間であり続けるだろう。
コウチーニョが、今後どのようなキャリアを歩んでいくかは誰にも分からない。しかし、はすでにイギリスフットボール界で大きな足跡を残した名手である事実は変わらないし、その功績はこれからも後世に語り継がれていくことだろう。
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■世界最高の選手を決める『Goal 50』とは?
『GOAL 50』は過去12カ月の活躍に基づいて世界から50人のベストプレーヤーを選出し、ランキングするアワードだ。世界37カ国にあるGoalの編集長や記者たちが……
・ビッグマッチにおけるプレーぶり
・前年と比べたパフォーマンスレベルの一貫性
・記憶に残る活躍だったかどうか
・所属クラブと各国代表での実績
これらを総合的に判断し、候補者を選定。ポイントの合計でトップに立った選手が「世界最高の選手」の称号に輝く。
■世界最高のサッカー選手50人を見るには?
『Goal 50』に選ばれた選手の多くがプレミアリーグ、ラ・リーガ、ブンデスリーガ、セリエA、そしてリーグ・アンでプレーしています。この“欧州5大リーグ”をすべて見られるのが『DAZN』です。
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文=メリッサ・レディ/Melissa Reddy