「俺のボールで、お前には渡さない」
リヨンのペナルティーエリア手前で得たフリーキックの場面で、同胞のネイマールにボールを手渡す前にエディンソン・カバーニを押しやったときのダニ・アウヴェスは、そう口にしているようであった。
しかし、ネイマールが蹴ったFKは失望を招くものとなった。壁に阻まれ、リヨンの選手にクリアされたのだが、決して美しくない争いはその後も続くこととなった。
パリ・サンジェルマン(パリSG)は先制点を奪った直後、キリアン・ムバッペが倒されてPKを獲得した。その時、世界でもっとも高額な選手とのキッカー争いを制したのはカバーニのほうだった。ところが、ネイマールがFKをミスしたのと同様に、カバーニが放ったキックはリヨンGKアントニー・ロペスの好守に阻まれたのだった。
■まるで“子供の喧嘩”
この一連の争いはアマチュアチームでもあまり起きないようなものだ。まるで小学生が校庭で小競り合いをしているのを見ているようであり、大きくて、かっこよくて、人気のある子供がいつでも優遇されているようであった。
「パルク・デ・プランス」という校庭において、子供にあたるのは間違いなく、8月上旬にバルセロナから移籍してきて以来パリSGファンを虜にさせているネイマールのことである。120,000枚もの彼のネーム入りのユニホームが売れたといわれ、製造メーカーの『Nike』は生産が追いつかなくなるほどであり、11月まで品切れの状態が続く可能性があるとも言われている。
カバーニの邪魔をしているというあまり好ましくない一面も、移籍してきて以来6試合で5ゴールという結果により、パリSGサポーターからの不評を買うわけでもない。一方のカバーニは、大事な場面で決定機を逃す傾向があることから、得点能力が高く、かつハードワークを厭わない選手でありながらも、ファンからの敬愛をそこまで集められないでいる。
ズラタン・イブラヒモビッチが去った後、パリSGのPKキッカーはカバーニが務めてきた。彼はチャンピオンズリーグのセルティック戦でのPKを含む、今シーズン3度のPK全てでキッカーを務めてきた。そしてその全てを成功させた。
Getty Imagesリーグ・アンでその週末にもっとも注目を集める試合という眩しさの中、またその時点では勝敗の行方が全く決まっていなかった状況で、キッカーの変更が必要であると判断するのはネイマールの役割ではなかった。
不思議なことに、監督であるウナイ・エメリでさえ今夏に獲得したスター選手に脅されているかのようでもある。
「誰がPKを蹴るかというのは、ピッチの上で選手同士紳士協定的に決めればよい」
試合後に、まるでその件の責任は放り投げたかのようにエメリはそう話した。
センターバックのプレスネル・キンペンベが、2人の間に「争いなどない」と語ったように、様々な選手が何も問題がないかのように話しているが、実際はそうではないことを示唆している報道もある。
火曜日にフランス紙『レキップ』が報じたところによると、試合後のロッカールームでは2人の間で言い争いから殴り合いに発展しそうなところで、両者が引き剥がされたようだ。
ネイマールは確かに、試合後自身のSNSでカバーニを称賛することはなく、彼がゴールを決めたキリアン・ムバッペと喜んでいる写真を投稿したのだった。またその写真は、ネイマールのすぐ後にパリSGに加入したムバッペも、自身のSNSに投稿したものであった。
そして、彼ら2人とともに3トップを形成するもう1人は、どこにも出てこなかったのだ。
■“傲慢さ”が閉ざす欧州王者への道
この出来事は、初めて起こったトラブルの火種であり、それがなければパーフェクトな試合であった。パリSGは今シーズンここまで8戦全勝できており、圧倒的な強さを見せつけている。だが、このようないざこざがそれを台無しにしてしまう危険性もある。
ネイマールと契約を結んだ際、パリSGは“彼の”チームになるだろうと約束された。そして彼自身そう信じ始めていることが、今のトラブルとなっている。彼が日曜日にみせた振る舞いは、3年以上にわたり「パルク・デ・プランス」で活躍を見せてきたカバーニに対する敬意を酷く欠いたものであった。
それは傲慢な振る舞いであり、パリSGはリーグ・アンタイトルの奪還の可能性は極めて高いと思われるが、チャンピオンズリーグ王者になるという真のミッションを果たすためにはチームとして同じ方向を向いていなければならない。しかしそのような振る舞いがチームを同じ方向に導くわけはなく、ましてやそれがシーズンの最も厳しい局面に立った時にチームを引っ張るべき人間であればなおさらである。
「チームは個人よりはるかに重要だ」
試合後『SporTV』のインタビューに、ダニ・アウヴェスはそう答えた。しかし、日曜日に起きた恥ずべき出来事の当事者として、彼自身、また特にネイマールを筆頭にしたチーム全員がそのことを肝に銘じるべきであろう。
文=ロビン・ベアナー/Robin Bairner
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