約290億円という金額とともに、ネイマールのパリ・サンジェルマン(PSG)移籍はフットボール界に極めて大きな衝撃を与えた。
PSGの世界最大のクラブになるという“プロジェクト”のターゲットとなったバルセロナは、彼らが擁した2番目のビッグネームをあっという間に奪われてしまった。
PSGのオーナーが提示した目もくらむような契約条件によって、すでに莫大な給与を手にしていたネイマールは、さらなる大金を手にすることになった。
父親らの助言に反してネイマールはこの契約に合意。リオネル・メッシの影に隠れることをやめる決断を下した。彼の才能をもってすればいつの日か世界最高との名声を得ることは確実だが、メッシのもとでプレーを続けている限りその日が訪れることはなかっただろう。
PSGは彼に最高のフットボール選手、いやおそらくこの地球上で最高のスポーツ選手になれる環境を提供すると約束した。
そして移籍して以来、リーグ・アンとチャンピオンズリーグの23試合に出場し24ゴール。数字を見ればネイマールは良いシーズンを過ごしていることに疑いはない。
だが彼のパリでの生活が短期間で終わることを示すいくつかの事実もある。そしてその背後には、避けることのできないレアル・マドリーへの移籍が迫っている。
8-0と大勝を飾ったディジョン戦。この試合はネイマールのPSGでのキャリアにおいて最も重要な試合だった。彼が4ゴール2アシストという離れ業を成し遂げたからではない。
今シーズン初頭、ペナルティキッカーをめぐりエディンソン・カバーニとひと悶着があったが、この試合でもネイマールはキッカーを譲らなかった。カバーニがズラタン・イブラヒモヴィッチが築いた得点記録を更新するまであと1点という状況だったにもかかわらずだ。
ネイマールは蹴ることを望んだが、サポーターはそうではなかった。ホームでありながら、観衆から指笛とブーイングが飛び交い、PKを蹴る際には「カバーニ! カバーニ!」というチャントが鳴り響く。それはネイマールの耳にも確かに届いていたはずだ。
試合後にネイマールは「(カバーニが)記録更新目前に迫っていたことを全く知らなかった、自身に向けられたバッシングにはひどく傷ついた」と訴えた。
Gettyimagesネイマールが光の都パリでの暮らしに失望しているという報道はここ数か月影を潜めていたが、実際のところ、問題は深刻度を増しているという。
フランス紙『レキップ』によると、ネイマールはリーグ・アンに移籍したことを悔やんでいるようだ。特にラフなタックルに対して嫌悪感を示しており、幾度となくマッチアップ相手に手で妨害を受けたことが気に入らないと伝えられている。
一方で、PSGはスター選手に満足してもらおうと必死だ。指揮官ウナイ・エメリは今週、ファンは最高額の選手に愛情を向けてほしいと語った。
クープ・ドゥ・フランスのギャンガン戦でウルトラスは「ブーイングは我々クラブの価値に反する行為だ」とするバナーを掲げたが、肝心のネイマールはこの試合に出場していない。
ネイマールは出場停止の際には、PSGからブラジル帰国を許可されている。これもネイマールがPSGに満足してもらうためのクラブの譲歩と言える。だがこれだけでは十分でないのかもしない。
バルセロナに住む息子との別居で不安を抱えているといったものから、9月の騒動以来カバーニとの関係に問題があるというものまで様々な報道がなされてきた。PSGが彼を手放す日は、そう遠くない。
もしPSGがCLを制覇するならば、その日は予想以上に早く訪れるだろう。オーナーのナセル・アル=ヘライフィとの間には、ビッグイヤーをフランス最高のクラブにもたらすことができればネイマールのミッションは完了する、という紳士協定があるという。
となるとすぐにレアル・マドリーが手を伸ばすだろう。
Gettyサンティアゴ・ベルナベウの停滞は信じられないほどだ。8月まで負け知らずったクラブは、大きく調子を崩している。マドリーはリーガの優勝争いから完全に脱落している。またコパ・デル・レイでも敗退。ジネディーヌ・ジダン監督が続投するための唯一の望みがCLの連覇だ。
今夏、フロレンティーノ・ペレス会長は彼が好む大型契約によって、銀河系軍団に大変革をもたらすことだろう。クリスティアーノ・ロナウドはようやく得点を決めはじめ、カリム・ベンゼマとガレス・ベイルも戦列に復帰。前線でBBCを形成できるようになった。
マドリーが彼を望んできたように、ネイマールもまたマドリーを希望してきた。なにより、彼はこの大きすぎるクラブを両肩に背負うことができる数少ない候補の一人でもある。
Getty Images彼がこのクラブを訪れたのは13歳の頃。20日間の滞在でトライアルを受けたネイマールのプレーに誰もが強い印象を受けた。だが彼はできるだけ早くトップチームに入りたいと願い、それが叶わなければどうなるか懸念があった。またホームシックにもかかり、交渉は行き詰まってしまった。
そして2013年にマドリーは再び交渉を持ち掛けたが、ネイマールはサントス退団後の行先に、マドリーではなくバルセロナを選択した。しかし、いまついにその時が訪れようとしている。
ペレス会長は、彼がバロンドール獲得を望むのであればそれに最適なクラブはベルナベウにあると語った。その構想はロナウドの存在によって失敗したと思われていた。だが2月に33歳になる彼の時代はじき終わりを迎える。そのときネイマールはついに、願い続けてきたスーパースターとしての地位を手にすることになるだろう。
文=ピーター・ストーントン/Peter Staunton
