Peter Bosz, Ajax, Eredivisie, 20160828PROSHOTS

ドルトムント新監督に就任したボス、ドイツでも攻撃的スタイル継続で名将の仲間入りへ

ボルシア・ドルトムントの新監督にピーター・ボスが就任することが発表された。ドルトムントは彼がここ2年で率いた4つ目のチームとなり、特に今回の就任は彼のキャリアにおいて最大のチャレンジとなるだろう。

53歳のボスにとってこの2年間は、まさに急上昇を遂げた期間である。2015年にリーグ中位のフィテッセからイスラエルの強豪であるマッカビ・テル・アビブに移り、そしてその次に率いたアヤックスでは煌めく若いチームをヨーロッパリーグ決勝まで導いた。最終的にはファイナルでマンチェスター・ユナイテッドを相手に敗れ、タイトルを獲得することはなかったものの、彼のアヤックスでの1年間の仕事ぶりはとても高く評価されている。

だが、それでもドルトムントがトーマル・トゥヘルの後任として500万ユーロ(約6億1000万円)を費やしてボスを監督に任命したのは驚きでもあり、同時にボスにとってもプレッシャーとなるだろう。彼はクラブが抱えるブンデスリーガとチャンピオンズリーグ制覇という野望を果たし、周囲からの懐疑的な声を覆す結果を残さなければならないのだ。

しかしこれと同じくらいのプレッシャーは、ボスがアヤックスの監督に就任したときも存在した。彼がチームに呼ばれたのは、クラブのレジェンドであり、監督としても4度のエールディビジ優勝を果たしたフランク・デブールの後任としてだ。しかも就任後はすぐにいい結果を残すことができず、これまでの選手としてのキャリアやテクニカルディレクターとしての仕事もアヤックスファンには好意的には捉えられなかった。ボスがアヤックスでプレーしたことがないという点もファンからの反感に拍車をかけた。

だがボスはチームを立て直してみせた。まずペップ・グアルディオラにより築かれたモダンなサッカーのトレンドとアイデアを詳細に研究して取り入れた。またバルセロナに影響を受けたボスは、ボールを失った後には5秒以内にボールを奪い返すという彼独自の”5秒ルール“を設定し、自身がアヤックスの監督として最適な人物であることを証明してみせたのだ。チームは高い位置から常に相手にプレッシャーをかけ、スピードを活かしてペナルティエリア内の危険なエリアにボールを素早く運ぶ攻撃戦術を身に付けた。そしてそれを主体としシーズンを戦い抜いた。

「『Pep Confidential (邦訳書:ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう)』というグアルディオラの本を読んだんだ。そこで彼は『どんな時でもボールを失ったとき、相手チームには必ず一人か二人フリーな選手がいる。重要なのはその二人をすぐに見つけ、アクションをすること』と言っていたよ。その本を読むまで私はそこまで意識していなかったけど、直接相手のゴールに繋がるような場面でなくても、脅威を与えられることになる要素は潰すべきだということに気が付いたんだ。グアルディオラはサッカーとは何かを本当に深くまで掘り下げて考えているよ」

ボスはオランダのニュースサイト『NRC』のインタビューにそう語っている。

GFX Info Ajax Peter Bosz

ボスがブンデスリーガで腕試しをしたいという気持ちには何の驚きもない。そればかりかドルトムントに植えつけられているプレッシャーをかける意識の高さと、スピード感のあるプレーも彼の力が発揮できることを予想させる。

彼の守備的ミッドフィルダーとしての選手キャリアは特別なものではなかったが、監督としてのボスは攻撃に重きを置き、ハイプレス、コンパクトフィールド、中央からの攻撃に注視している。ヘラクレスを率いていたときでさえ、守備に関しては二の次で常に試合を支配し、リスクを冒してでも攻撃することを求めていた。始めはうまくいかなかったものの、そのスタイルを貫いたことで、就任初年度にはチームにヨーロッパリーグ・プレーオフの出場権をもたらしたのだ。

遡ればそれを成し遂げた背景には、マッカビ・テル・アビブでの経験も活かされている。2013年に監督に就任したフィテッセで評価を高めた後は、モウリーニョ解任後のチェルシー行きもうわさされつつ、彼はイスラエルのマッカビ・テル・アビブの監督となった。マッカビ・テル・アビブはボスにとって憧れの人で、オランダが世界に誇るスーパースター、ヨハン・クライフの息子、ジョルディ・クライフがテクニカルディレクターを務めるチームだ。マッカビ・テル・アビブの監督に就任することによって、ボスはジョルディのもとを定期的に訪れていたヨハンと時折ともに過ごすことができたという。

「彼はサッカーがどのようにプレーされるべきかという彼自身のアイデアを持っていたんだ。私は選手時代にヨハンから多くの事を学んだが、後に指導者となってからも彼とともに時間を過ごす事ができるという機会に恵まれたんだ。我々は毎日サッカーの話をしていたね」

クライフの死後、ボスはそう語った。

クライフの影響もあり、ボスはマッカビでの半シーズンで成功を収めた。

そしてそこからのアヤックスだ。アヤックスの監督に就任した当初はリーグ戦の開幕から3試合でわずか1勝しかあげられず、解任されるのではという推測がメディアでは報道され、8月下旬には彼のアヤックスでの監督キャリアは終わりも同然のような状況であった。

しかしボスはじっくりと過去2年間の間に染み付いてしまった腐敗ムードを完全に取り払い、その後数カ月間で“勝てるチーム”へと進化させたのだ。その証拠にチームは21年ぶりにヨーロッパのカップ戦で決勝進出を果たしている。

「始めからピーター・ボスへの信頼は絶大だったんだ。チームが発展していることがわかったし、ファンもすぐに認めてくれたよ。ピーター(・ボス)はただただ素晴らしかったね」

現在アヤックスでフットボールディレクターを務めるマルク・オーフェルマルスは最近の『Voetbal International』誌のインタビューでそう語った。

GFX Info Ajax Peter BoszPeter Bosz AjaxGetty

ボスが作りあげようとしていたチームは素早く変化することが不可欠である。エールディビジの開幕戦に先発出場した選手のうち、その9カ月後のヨーロッパリーグ決勝にも先発した選手はたった3人のみ。ボスのスタイルに合わない選手はすぐに排除され、逆にカスパー・シレッセンのような才能のある選手はバルサのようなビッグクラブに移籍させていった。

また、アヤックスは選手獲得に関しても賢さを見せ、新加入のハキム・ジイェフはチームに重要な創造性をもたらしたし、ダビンソン・サンチェスはセンターバックとして卓越したプレーを見せた。またデイビッド・ネレスは1月にサンパウロから加入以降、貴重なオプションとして機能した。

それに加え、注目すべきはチームで再生を果たしたラス・シェーネであろう。相手を破壊するような選手よりも、テクニックと攻撃マインドに富んだ選手を好む、ボスのサッカーにシェーネは上手くフィットした。

「私はここでプレーすることのできる真のサッカー選手を探している。ポゼッションすることで試合をコントロールしたいんだよ。私には守備的なミッドフィルダーは必要ないんだ」

このボスの発言からも、彼がどれほど攻撃を重視していたかは明らかである。

ボスは本来センターバックのジョエル・フェルトマンを右サイドバックで起用することを好み、攻撃的なミッドフィルダーであるダレイ・シンクグラーヴェンを左サイドバックとして起用することでアヤックスをより攻撃的かつ相手に圧力をかけられるチームに変化させた。また若手選手を信頼して積極的に起用することもボスの特徴で、17歳のジャスティン・クライファートとマティス・デリートをチームに加えて好成績を残した。

彼にとってのこれからの戦場となるブンデスリーガでは、エールディビジで慣れ親しんだ以上に多様な戦術的なアプローチが必要であり相手に合わせた柔軟性も求められることになるだろう。しかし彼には上昇志向と適応能力の高さがある。彼の良さが発揮されればそういった問題は簡単に解決できるはずだ。

アヤックスのファンたちはわずかな時間ながら自分たちを楽しませてくれた監督を失ってしまったことを悔んでいるはずだ。彼がアヤックスで構築していた将来を見据えたプロジェクトが頓挫してしまうのは非常に残念なことであるが、クラブの首脳陣との確執もうわさされていたこともあり、ボスがチームから去ることは遅かれ早かれ予想されるべきことであったのだ。

それにボス自身も自分が世界で有数の監督の一人であるということを示したいという野心に満ちていたに違いない。その野心が彼をアムステルダムに留めておくことはできなかったのだ。

 文=ピーター・マクビティ/Peter McVitie

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