■「サッカーは楽しむもの」

1992年5月20日、ヨハン・クライフは、ウェンブリー・スタジアムでサンプドリア相手のヨーロピアン・カップ(現チャンピオンズリーグ)決勝を前に、バルセロナの選手たちを集めて、最後のチームトークを行なった。
チームを鼓舞するための雄たけびや、士気を高めるための叫び声をあげることはせず、当時バルセロナの監督だったクライフは、静かに、穏やかに話をした。そのメッセージは彼らしく、シンプルだった。
「今夜はいい天気だ」と始める。
「明るさも申し分ない。なにより、何千人ものファンが君たちを見るために来てくれている」
「さあ、ピッチへと行って、楽しもう」
そして、その通りになった。あの夜、ロンドンでバルセロナは初めてヨーロピアン・カップを掲げたのだった。
何よりも重要なことに、クライフはサッカーとその戦術に加えて、基本的に試合とは楽しむべきものだと信じていたのである。
サッカーに関わるすべての人にとって、楽しむべきものだと思っていたのだ。
「観客も選手も、サッカーを楽しむべきだ」と、彼はかつて記した。
「サッカーはショーだ。そうでなければサッカーではない」
もちろん、誰もがそう思っているわけではない。創造よりも破壊のほうが、はるかに簡単なのだから。
■サッカーはビジネスになってしまった
Goal最近の試合は楽しむことが難しくなってきている。カネこそが勝利か敗北かを決める要素となり、多くのリーグで結果がわかりきったものになってきてしまった。
だが、クライフはかつて「金持ちクラブを倒すことが、どうして不可能なんだ?」と尋ねたことがある。さらに、「カネの入った袋がゴールを決めるところなんか、見たことがない」とも続けた。
それは今でもその通りだが、最近では、カネの入った袋が実際にゴールポストを動かすことがあるようだ。
サッカーがビッグ・ビジネスになって、金持ちはより金持ちになり、より強く、パワフルになって、その結果、支配者になりつつある。まさに資本主義だ。
カネは試合を根本的に変えた。プレミアリーグでもチャンピオンズリーグでも、創造性よりも駆動力が重要になった。
この2つの大会は巨額の儲けを生みだし、スポーツビジネスとして成功している。
だが、それだけではない。
プレミアリーグは、以前からリーグ戦は新しい市場を開拓するための、海外へ売り出す足がかりだという考えに囚われているし、チャンピオンズリーグは断続的に拡大と改造を繰り返し、ヨーロッパのエリートクラブが、より大きなパイのピースをつかめるようになってきている。
欧州クラブ協会(ECA)のアンドレア・アニェッリ会長は、このところ、2024年大会に新しいフォーマットとして昇格・降格制度の導入を要望している。
各国リーグでの結果でチャンピオンズリーグの出場が決まるのをやめようと言うのだ。
つまり、この改革の裏にある思惑は、非常に単純だ。ヨーロッパのビッグクラブがより多くの試合に出場できることを保証し、つまるところ、もっとカネが入るようにしようというのだ。
「もしこれらの報道が真実なら、と言って真実でないとは思っていないが、チャンピオンズリーグは2024年から閉鎖的な大会になってしまう」
欧州プロサッカーリーグ協会のゲオルグ・パングル事務局長は、ドイツ紙『ビルト紙』で警鐘を鳴らす。
「毎年、同じ32のトップクラブが出場し、国内リーグのチャンピオンが本大会出場を果たせなくなる。そんなことは、まったく受け入れられない」
だが、アニェッリはそう考えていない。加えて、アニェッリを支持する者もいる。
アニェッリの主張によると、改革に賛成なのはユヴェントスだけでなく、バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリーもそうだという。奇妙なことに、この3つのクラブは、今シーズンすでに来季のチャンピオンズリーグ出場を決めている。
彼らは、現在の大会では“成績”にとって充分な保証が得られないから、サッカーに「スーパー・チャンピオンズリーグ」が必要だと言うのだ。
■近年の潮流を変えた2クラブ
Getty Images / Goalつい2週間前、我々は、二夜続けて、ミラクルなスポーツドラマを観戦した。トッテナムとアヤックスが、それぞれ、マンチェスター・シティとユヴェントスを破って、2つのセンセーショナルなサプライズを起こしたのである。
これは、サッカーにとっては偉大な勝利であり、ビッグ・ビジネスにとっては困った敗北であった。
トッテナムもアヤックスも、チャンピオンズリーグの常連クラブではない。どちらも、去年の11月、『デア・シュピーゲル』が報じた、スーパーリーグの11の創立メンバーに入っていない。5つの「ゲスト」クラブにすら名前がなかった。
スパーズはチャンピオンズリーグの前身のヨーロピアン・カップでも優勝したことがなく、アヤックスは1995年からトロフィーを掲げることができていない。それでも、アカデミー出身者が集まり、下馬評をひっくり返したのだ。
どちらもサッカー界を牽引する巨大クラブではない。限られた資金で成果をあげたのである。
アヤックスは断続的に優秀な選手たちを売りに出さなければならず、トッテナムは2018年1月以降、誰とも新規契約を交わしていない。
それでも両チームは、手持ちの資源を最大限に活用してきた。かつてクライフが言ったとおり、「どんな欠点にも長所がある」のだ。
■ここまでの道のり
Getty Images / DAZN問題があってもカネで解決することはかなわず、アヤックスのエリック・テン・ハーグ監督とトッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、自身の卓越したコーチング技術で解決してきた。
カネがないのなら、イノベーションを起こせばいい。「必要は発明の母だ」と、彼らは言う。
だからこそ、9500万ユーロでやりくりしているアヤックスが、チャンピオンズリーグ・ラウンド16で、世界一の金満クラブ、ディフェンディング・チャンピオンのレアル・マドリーを下すことができ、クリスティアーノ・ロナウドと1億1400万ユーロで契約したユヴェントスを、準々決勝で打ち負かしたのである。
一方、トッテナムは、アブダビ資本のマンチェスター・シティに辛勝し、準決勝に進出したが、これは、サッカーの新しい偉大なるバランサー、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によるところが少なくない。
実際、マンチェスター・Cの敗退にVARが劇的かつ決定的な役割を果たしたことは、皮肉この上ないことである。カタール資本のパリ・サンジェルマンも、一つ前のラウンドで、同じような状況で敗退したが、これは単純に、中小クラブをピッチから追い出そうとする2つのクラブに、ピッチ上でのルールが適用されただけに過ぎない
そして今や、準決勝で激突するのはアヤックスとスパーズなのだ。これこそ、スーパーリーグとその信奉者すべてにとって、究極の屈辱であろう。
この対戦は、スーパークラブの台頭で隅に追いやられている他のすべてのクラブにとって、希望である。エリートクラブと競いあうことができるだけでなく、勝つことができるかもしれないのだ。
■誇り高き共通項

彼らの頭にあるのは勝つことだけではない。
ただ守りに守るだけでなく、楽しいサッカーを標榜としている。
これは驚くべきことではない。スパーズとアヤックスは同じ信念を持ち、同じ起源を持つチームだ。
ビル・ニコルソンとヴィック・バッキンガムは、ペーター・マクウィリアム監督のもと、ミドルズブラFCでプレーし、攻撃的でポジショニングを重視したサッカーを共有していた。
ニコルソンはそこで学んだことをトッテナムで活用した。バッキンガムもアヤックスで同じことをし、リヌス・ミケルスやヨハン・クライフが率先したサッカー改革に道を開いた。
かつてニコルソンは、こう言った。
「ただ勝つだけではダメだ、我々は素晴らしく勝った」
1961年の二冠達成の時のキャプテンだったダニー・ブランチフラワーは、決して忘れることのないスパーズの哲学を次のように総括する。「試合が第一で、勝つことが最後だというのは、大いなる間違いだ。まったくそういうことではない」。
「試合には輝きがなければならない。スタイルにかなった華麗さをもってプレーし、前に出て、相手を倒し、手をこまねいて死を待つことはしない」
一方、クライフの教え子の一人、ロナルド・クーマンによると、「勝つだけでは充分でない。成功とは、何年も記憶に残り、語り続けられるような方法で達成されなければならない」と師から教えられたという。
つまり、スパーズとアヤックスは、歴史とサッカー哲学が結びついた2クラブなのである。
今週のチャンピオンズリーグの準決勝では、リヴァプールとバルセロナのどちらが決勝に勝ち進むため、「成り上がり」クラブがトロフィーを掲げることはできないかもしれない。
だが、そんなことは重要ではない。アニェッリのような連中がチャンピオンズリーグを閉ざされた大会にしようと全力を尽くしているときに、彼らがここに、ベスト4に残ったことが大事なのだ。
大事なのは彼らが勝ち進み、それを楽しんでいることだ。我々も試合を楽しまなければならない。クライフなら、きっとそうしただろう。
文=マーク・ドイル/Mark Doyle
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の記事です





