「デルビ・アラゴネス」、つまりアラゴン・ダービーは、まるで彼のために用意されたような舞台だった。この午後は激しく雨が降り、寒かった。だが7500人が集まったウエスカの本拠地アルコラスは、アラゴン州を代表するビッグチーム、レアル・サラゴサを相手に燃え上がり、そして岡崎慎司のゴールがごうごうと火柱を立たせたのだった。ウエスカのサポーターは年末年始にかけ、いかにも感に堪えないという面持ちで彼の得点シーンを思い出すことになるはずである。
ウエスカ指揮官ミチェルは、12試合連続でフル稼働させてきた岡崎を、過去3試合でベンチスタートとしていた。その意図は、疲労もためている日本人FWがゴールが奪えなくなっていたことや、プレーシステムにおける1トップの役割に変化をつけるなど、色々とあったのだろう。だがしかし、サラゴサ戦前の2試合で連敗すると、岡崎はこのダービーで再びスタメンの11人に名を連ね、結果を残した。2019年の締めくくりとなる「デルビ・アラゴネス」で、香川真司との“シンジ・ダービー”で、確かな足跡を残したのだ。
■誇り、意地、執念
岡崎のプレーは誇りを、意地を、執念を示さなければならないダービーのような試合によく似合う。前線で懸命に走って相手にプレッシングを仕掛け、そして何度無駄足に終わっても、何度でも、何度でも、何度でもゴール前に走り込んでシュートを狙っていく。あきらめることなく全身全霊でプレーをする姿勢は、レアル・マドリーのサンティアゴ・ベルナベウ、バルセロナのノウ・カンプ、アトレティコ・マドリーのワンダ・メトロポリターノ、サラゴサのラ・ロマレダでもどこでも、選手に求められる最たる姿勢であり、その点でこの日本人FWは文句のつけようがない。
岡崎は16分、左サイドのセルヒオ・ゴメスが放ったアーリークロスからネットを揺らしたものの、いつものように数センチ単位によるオフサイドでゴールは取り消しとなった（これはオウンゴールの可能性もあったが……）。しかし彼はがっかりした表情を見せながらも、スペイン人ほどに大げさなリアクションは取らず、すぐに切りかえてゴールを狙う。その姿勢が報われたのは、わずか4分後のことだった。縦に速い展開から、再び左サイドでセルヒオ・ゴメスがボールを保持すると、岡崎はペナルティーエリア内で相手DFエンリケ・クレメンテと見事な駆け引きを見せる。内に走り込むかと思いきや、一度足を止めて一歩後方に下がって、クレメンテの右側を突破。先んじてゴールエリアに飛び込むと、グラウウンダーのクロスを左足で押し込んだ。ボールが枠内に入るか否かの刹那に、後れを取ったクレメンテに派手に倒されて、このゴールが泥臭いと形容されるものになったのも、また彼らしい。それは泥臭く、美しい。
ウエスカはその後、サラゴサに1点を返されたものの、69分にセットプレーからジョズエ・サが勝ち越し弾を記録。サラゴサは76分にデルマズが一発退場となり、さらに82分には岡崎がアルベルト・ギティアンの退場も促している。この日本人は試合終了まで精力的にプレーし、ゴールを狙うほか、相手DFを引きつけてチームメートのためにスペースを生み出そうとしていた。前半にクロスバー直撃となるフリーキックを放っていたサラゴサのもう一人のシンジは、57分に最初の交代でベンチに下がっており、ピッチにもうその姿はなかった。ウエスカと岡崎は、アラゴンとシンジのダービー2つに勝利したのだった。
香川は交代時、「早すぎるだろ」とでも言いたげな笑みを浮かべていたのに対して、岡崎はゴールの際に満面の笑みを浮かべていた。そう、ウエスカには必死に汗を流し、努力が報われた際に見せる彼の笑顔をもっと必要としているのだ。流す汗の量が、浮かべる笑みの回数が増えれば増えるほど、ウエスカはリーガ1部復帰に近づくことになるのだから――。
とりあえず、このクリスマスと年末年始は、昔であればダビデとゴリアテの勝負にも似寄っていたダービーに勝利した私たちが、サラゴサの人たちよりも、ほんの少しだけ口角を上げた笑みを浮かべるとしよう。
取材・文＝クリスティアン・セラーノ／スペイン紙『マルカ』ウエスカ番
翻訳・構成・加筆＝江間慎一郎
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「※」は提携サイト『 Sporting News 』の提供記事です
