7月29日のガンバ大阪とのダービーでリーグ10戦ぶりの黒星を喫して以来、やや調子を落としつつあるセレッソ大阪。8月に入ってからは5日のコンサドーレ札幌戦を3-1で勝利したものの、9日の清水エスパルス戦で2-3の逆転負け。今季から指揮を執る尹晶煥監督のトップ下起用でブレイクしたたキーマン・山村和也が左ひざを痛めて全治5週間と診断されるというアクシデントにも見舞われた。ここから試合が10日空き、立て直しを図って19日のジュビロ磐田戦に挑んだが、この一戦も1-1のドロー。勝ち点3を得られなかった。首位に返り咲くためにも、26日のホーム・ヤンマースタジアム長居での鹿島アントラーズ戦は是が非でも白星をもぎ取らなければならない。チーム全体が一丸となって大一番にのぞんだ。
磐田戦ではリカルド・サントスが山村のポジションに入ったが、今回は澤上竜二が先発。2018年ロシア・ワールドカップ・アジア最終予選終盤2連戦の日本代表についに抜擢された杉本健勇と前線でコンビを組んだ。高さのある2人がトップに入ることで、ゴール前には明確なターゲットができ、サイド攻撃もより活性化される。その武器をセレッソは序盤から最大限生かして攻め込んだ。
前半18分には絶好調の杉本がドリブル突破から強烈シュートを放ち、41分には水沼宏太の右からのクロスにキャプテン・柿谷曜一朗がファーから飛び出して左足を合わせるなど、たびたび決定機を作る。が、肝心のゴールが入らない。圧倒していた前半45分間の無得点が大いに悔やまれた。
後半に入ってからもセレッソの攻勢は続き、後半30分前後には丸橋祐介、ソウザ、杉本が立て続けにビッグチャンスを迎える。しかし、これも鹿島守護神・曽ケ端準のスーパーセーブに阻まれる。「足りなかったのは決定力」と杉本も神妙な面持ちで話した通り、この日のセレッソは決めきる力が明らかに不足していた。
むしろ常勝軍団・鹿島は耐えしのぶ展開が得意中の得意。「セレッソさんがちょっと落ちてきて、僕らがボールを持てるようになった」と相手守備の要・昌子源も話したように、セレッソが落ちた終盤を見計らって電光石火のカウンターを仕掛ける。後半途中から出場した伊東幸敏のタテパスをエース・金崎夢生が右サイドで引っ張り、強引に折り返したところに飛び込んだのがレアンドロ。ここまで鉄壁だったセレッソ守備陣にポッカリと穴が開いたこの一瞬をブラジル人助っ人は見逃さず、右足を一閃。値千金の決勝弾を挙げたのだ。
「決めるところで決められず、本当に大事なところで失点してしまった。後半ラストの失点が最近多くなっている。それだけ集中が乱れていること。いろいろ反省しなければいけないことが多い」と4位転落を余儀なくされた尹晶煥監督は険しい表情を浮かべた。確かにガンバ戦以降の5試合は終盤の失点で取りこぼしているゲームばかりだ。
杉本も「前が点を取らないと勝てない勝負なんでかなり申し訳ないですけど、後ろも最後まで耐える力つけないとダメ」と守備陣の奮起を促した。24試合終了時点のセレッソの通算失点は27。これはリーグ最少の横浜F・マリノスの17より10も多い。一時はセレッソもリーグ最少失点に近い位置にいたが、完封試合から10戦も遠ざかっているのは問題だ。直近の8月30日にJリーグルヴァンカップがあるものの、リーグ戦再開までは2週間ある。その期間を有効活用して、守りをいち早く修正する必要があるだろう。
2試合ぶりの無得点に終わった杉本と、中盤で豊富な運動量で攻守をコントロールした山口蛍は日本代表に合流する。8月31日のオーストラリア戦(埼玉)と9月5日のサウジアラビア戦(ジェッダ)のいずれかで勝利することが、6大会連続ワールドカップ出場を決める絶対条件だ。
6月のイラク戦(テヘラン)をケガで欠場した山口には期するところがあるだろう。最近のセレッソでのパフォーマンスは安定しているが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督から「攻撃面でもっと仕事をしてほしい」という要求をこなす努力がより必要と言える。キャプテン・長谷部誠(フランクフルト)がいる時はどうしても大先輩に頼りがちだが、彼ももうすぐ27歳。サッカー選手として円熟期を迎えている。それだけに自分からイニシアティブを取って周りを動かすくらいの存在感が必要だ。もちろんボール奪取や味方の穴を埋める仕事は重要だが、ここぞというところで前にでていく強引さや思い切りもあっていい。山口には一皮むけたところをぜひ見せてほしい。
そして、ハリル監督からずっと「注目している」と言われ、期待され続けてきた長身FW・杉本もこれまでにない覚悟を持って代表参戦する。「ホンマに生きるか死ぬか、天国か地獄かくらいの勝負だと思うんで、コンビネーションがこうだとか言ってる暇はない。もちろん戦術を理解するとか、どうやって守備をするということはあるけど、試合に出るためにまずは頑張ること。そしてチャンスがあれば点を決めたい」と本人も秘めた野心を口にした。
川崎フロンターレに所属していた2015年5月の代表候補合宿に選ばれた際、杉本は「評価してくれるのは嬉しいけど。僕はまだまだ全然。川崎で試合に出ないと話にならない」と自信なさそうに答えるのが精一杯だった。が、J1で14ゴールをたたき出し、得点王争いをしている今は全く違う。
「自信? 自信がなかったら辞退した方がいいんじゃないですか。ワールドカップ行けるか行けへんかっていう戦いなんで。自覚が変わったのは確かですね」と語気を強めたのが、内面の大きな変化を象徴していた。
杉本が出るとしたら、オーストラリア戦の終盤だろう。戦況にもよるが、リードされていればパワープレー要員、リードしていれば逃げ切るための高さ要員という位置づけではないか。いずれにしても187㎝の長身とスピード、多彩なゴールパターンは必ず日本の武器になる。セレッソのシーズン終盤の巻き返しにもつなげるべく、「未完の大器」と言われた男の凄み全て出し切ってもらいたい。
文=元川悦子
