■今季のセリエAは違う
ストライカーと聞いて頭に浮かぶのは、クリスティアーノ・ロナウド、ロベルト・レヴァンドフスキ、リオネル・メッシ……。そう、ストライカーとして名前が挙がるのはセリエAの選手以外で、ここ数年イタリアにゴールの神様が現れることはなかった。少なくともセリエAにおけるストライカーは2016年の夏までは片手で数えるほどであったのだ。
しかし遂にセリエAでプレーする選手の中にも、主人公となる人物が出てきたのだ。今シーズンは20点以上をマークする選手がすでに6人にも上る。エディン・ジェコ、アンドレア・ベロッティ、ドリース・メルテンス、ゴンサロ・イグアイン、マウロ・イカルディ、そしてチーロ・インモービレといった面々だ。この事実は多くの経営陣や監督を喜ばせたに違いない。
20点が一つの指標であるとは言わないが、20点をマークする選手は常に必要とされており、多くのクラブが欲し探している。彼らを指揮している監督はとても満足していることだろう。
■それぞれが、それぞれのスタイルで
セリエAの得点ランキングのトップに君臨するエディン・ジェコは、ローマに移籍して最初のシーズンはうまく結果が出せなかったものの、現在リーグで27得点を挙げ多くの人を驚かせている。優雅に動く彼のプレーは音楽で例えるならばクラシック奏者とでも言うべきか。スペースを作ってそれを支配する能力があり、ヘディングの技術も高い。
ジェコを追いかけ、ここまでに25得点を記録しているのは、「本物の闘牛」とも言うべきか、トリノFWアンドレア・ベロッティだ。彼はおそらく今のセリエAの中で、オールドタイプの典型的なセンターフォワードとして一番際立っている選手だろう。血気盛んで、ゴールに向かって恐れることなく身を捧げる姿は闘牛の姿以上にけたたましい。重大な局面で正確さに欠けるという欠点を指摘する人もいるが、彼の集中力は他の誰とも比べることのできない能力だ。
得点ランキングの順位争いで、一番予期されていなかった選手がドリース・メルテンスであろう。長期離脱を強いられたアルカディウシュ・ミリクの代役として1トップに抜擢された彼は、すっかりゴールゲッターの役割に魅了されて次のシーズンもセンターフォワードとしてプレーし続けたいと希望している。しかしそれを実現するためには彼を活かすことのできるゲームシステムが必要だ。すでにベロッティと同じ24得点を決めているメルテンスは「ストライカー」への変貌を心から願っている。
これに続きこれまで24得点を挙げているのはゴンサロ・イグアインである。高額な移籍金でユヴェントスに移籍したことからミスター9000万ユーロ(約108億円)とも称されるイグアインは、ここ最近の“太りすぎ”た見た目に注目されがちであるが、体重はオーバーしつつもその動きは俊敏だ。PKなしですでに24点を記録し、ユヴェントスの偉大な攻撃陣を支えている。

イグアインと並び24得点を記録するも、サポーターから反感を買っているのがマウロ・イカルディだ。インテルサポーターたちはチームが困難な状況になったときに「やる気がない」と彼のことを批評する。だが、相手のマークを外すことが得意で点を取る嗅覚が秀でている事は確かである。シュートを打てばゴール成功の確率が非常に高い選手なのだ。皮肉な状況の中ではあるが、今後もゴール数を伸ばしていくことが予想される。
そして第33節、ラツィオ対パレルモの試合で、かねてより熱望していた20点台にたどり着いたのはチーロ・インモービレだ。前半8分、そして9分に得点を決めラツィオの勝利に大きく貢献した。ここまで22得点を決めている彼は、プレッシャーに強い選手であると言えるだろう。欠点が少なくゴールの嗅覚も持ち合わせている。ヘディングも強い。
Getty Images■セリエAのストライカーの歴史
もう随分前からセリエAで6人もの選手がゴール数20に到達することなど起こってはいなかった。まさに例外的な出来事だ。これまでは1シーズンで20ゴールを達成する選手は2~3人程度。20点越えをする選手が6人以上というデータを引っ張り出すなら、1997-98シーズンまで遡らなくてはならない。
そのシーズン、最も得点を挙げたオリバー・ビアホフは27得点を記録して当時世界最高のストライカーであったロナウドに僅差で勝っている。その年ロナウドは、イタリアで初めてのシーズンを経験し、25得点を記録していた。そしてその後に続くのが、ボローニャで22得点を記録したロベルト・バッジョ、共に21得点を記録したガブリエル・バティストゥータとアレッサンドロ・デル・ピエロ、そして20得点のヴィンチェンツォ・モンテッラと続く。
さらにセリエAでのストライカー全盛期を追ってみると、1950-51シーズンにまで遡る。1950-51シーズンはグンナー・ノルダールの34ゴールを筆頭に、最終的には計7人が19点以上を記録した。
ストライカーと呼ばれる選手たちが名を連ねる時代は、なかなかない。セリエAに限って言えば尚更だ。だが今シーズンはそれぞれの選手がそれぞれの個性を活かしながら、“ストライカー時代”を作り上げようとしている。
文=フランチェスコ・シッル/Francesco Schirru
