レアル・マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン監督は選手時代、一度もアトレティコ・マドリーに負けたことがなかった。思えば、当時のダービーマッチで相手側のベンチに座っていたのはディエゴ・シメオネではなかったし、ロヒブランコ(アトレティコ・マドリーの愛称)はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で決勝に進出するようなチームではなかった。
当時のアトレティコは名前の通ったチームであったものの、レアル・マドリーと比べられるような存在ではなかったのだ。
2016年5月28日、ジダンはCLのトロフィーを掲げた。しかし、レアル・マドリーの歴史的な“デシマ(11回目のCL制覇)”は、たった1日や1週間の仕事によって突然もたらされたわけではない。すべての勝利には理由がある。レアル・マドリーの11回目のCL優勝は、遡るこ約3カ月前の2月16日、奇しくもアトレティコを相手にジダン監督が就任後初めて敗戦を喫した日からすでに始まっていたといえるだろう。アトレティコが敵地サンティアゴ・ベルナベウでリーガ3連勝を達成した日、ジダンはレアル・マドリーで指揮することの難しさを痛感したに違いない。
ジダンは最初のマドリード・ダービーを迎えるまで、中盤にトニ・クロース、ルカ・モドリッチ、イスコ、ハメス・ロドリゲスを配置していた。しかし、予め想定されていた最も才能溢れた布陣を、シメオネはあっさりと攻略してみせた。アトレティコは見事にレアルの中盤を封じ込め、勝ち点3を手にしたのだった。その後、ジダンはチーム方針を一気に方向転換し、それまで忘れ去られていたカゼミロを中盤の要として起用するようになった。
要するに、この最初のダービーマッチはジダンに刺激を与え、チームのあり方と哲学を根底から覆す転機になったのだ。アトレティコに敗れて以降、ジダンはチームにムチを入れ、選手にインテンシティを要求するようになった。エゴではなく、チームのために動くメンタリティを必要としたのだ。
以降、レアル・マドリーのロッカールームでは「チーム」というワードが広く浸透するようになった。
ジダンにとって、アトレティコとの試合がどれだけ特別かということに疑いの余地はない。彼にとってマドリード・ダービーは、スペインの首都を二分する極限の試合だという以上の意味を持つのだ。監督として生まれ変わるきっかけになった試合であり、指揮官としてはじめチャンピオンズリーグを制した試合も、相手はアトレティコ・マドリーだった。
■特別な意味を持つダービーマッチ
これだけではない。ジダンにとって、初めてビセンテ・カルデロンで戦った通算2度目のダービーマッチで勝利したことも、重要な意味を持つ理由になる。
そう、今シーズンの前半戦に行われたダービーマッチでは、クリスティアーノ・ロナウドのハットトリックによって見事3−0で勝利した。
この試合でマドリーはセルヒオ・ラモスを欠いていた。しかし、ジダンは最初のダービーマッチで「ビッグマッチでは11人の選手すべてが100%の力でプレーすること」の必要性を学んだ。状態が万全ではなかったセルヒオ・ラモスをベンチに置いた決断は、最初のダービーマッチで状態が思わしくなかったベンゼマを無理に出場させて失敗したことから得た教訓によって下されたものだった。ジダンは凄まじいスピードで、指揮官として成長を遂げている。
さらにジダンは前任者たちがことごとくマドリード・ダービーをきっかけに辞任に追い込まれたことも知っている。その事実も、彼が100%の状態でダービーに臨む理由のひとつだ。
2012−2013シーズン、ジョゼ・モウリーニョはそれまで10年以上負けていなかったアトレティコを相手に、決して敗北が許されないコパ・デル・レイ決勝の舞台で敗れてマドリードを去った。カルロ・アンチェロッティは敗戦が続いたことで解任されたが、そもそもの引き金となったのは2014−2015シーズンのコパ・デル・レイでアトレティコに敗れたこと、そして、有名なビセンテ・カルデロンにおける0−4の敗戦も忘れられない。特に後者は近年のレアル・マドリーの歴史の中でも最も痛ましい敗戦のひとつだ。ラファエル・ベニテスはビセンテ・カルデロンでの引き分けによって解任されたわけではないが、この結果はその後の失速へとつながっていった。
そもそもジダンがリーガでタイトル争いをするクラブを相手に油断することはない。今はかつてのように、オサスナ、デポルティボ、スポルティング・ヒホン、マラガといったチームが優勝するような時代ではなく、「横並びの3強」と「それ以外」に分かれている。ビジャレアル、アスレティック・ビルバオ、セビージャといった強豪との試合も大きな意味を持つものの、常に上位を占めるバルセロナ、そしてもちろんアトレティコ・マドリーとの直接対決を制することが、タイトル獲得に向けた決定的な要素となる。
これらのデータや動機を踏まえれば、シメオネを徹底研究するジダンにとって、4月8日のダービーマッチは単なる1試合では済まされないだろう。あまり語られることはないが、ジダンは戦術やシステム理解にも長けた監督だ。サンシーロやビセンテ・カルデロンでの決勝で示したように、ジダンは1年以上前からアトレティコ・マドリーの研究を続けている。ピッチでもベンチでも繰り広げられるジダンとシメオネの戦いは、今やフランス人とレアル・マドリーのためのものだ。
文=フアン・ イグナシオ・ガルシア=オチョア(マルカ紙レアル・マドリー番記者)
協力:江間慎一郎
■WOWOW放送日程
レアル・マドリー対アトレティコ・マドリー
4月8日 22時30分〜
レアル・マドリー対バルセロナ
4月23日 03時30分〜
