タグ・ホイヤーがJリーグ・クラブに所属する23歳以下の若手を表彰する『TAG Heuer YOUNG GUNS AWARD』。日頃から精力的に取材を重ね、分析を続けているサッカー専門誌の編集長・編集者たちは、23歳以下の若手たちのプレーをどのように見ているのだろうか。海外サッカーに関する濃密な特集やインタビュー、コラム記事などに定評のある『footballista』の浅野賀一編集長は、日本サッカーとヨーロッパサッカーが密接につながった現状を踏まえ、ビジネス的な視点も交えながら日本の若手選手が置かれている現状と未来像を考察してくれた。
――『TAG Heuer YOUNG GUNS AWARD』についてどう思われますか?
世界のサッカーシーンでは若手をどんどん起用する流れがある中で、昨年のJリーグベストイレブンでU-23世代の選手がほとんど選ばれなかったように、Jリーグはそのトレンドに乗れていない部分があります。その中で、改めてJリーグの若手に注目する機会ができたのはいいことだと思います。
――世界のサッカーシーンで若手が起用されやすくなっている理由はどこにあると思いますか?
スポーツの論理だけでなく、ビジネスの論理もあると思います。この夏の移籍市場でも、18歳のGKジャンルイジ・ドンナルンマ(ミラン)に100億円近い金額がつけられていましたし、モナコからパリ・サンジェルマンにレンタル移籍した18歳のキリアン・ムバッペは、シーズン終了後に200億円以上の移籍金で完全移籍することが決まっています。ヨーロッパのクラブにとって選手は重要な“資産”であり、若いうちにデビューさせ、経験を積ませて資産価値を上げようという論理があります。若い選手は経験を積めば積むほど成長するので、それがスポーツ面でもいい効果を出しています。Jリーグは、ビジネス面の論理よりスポーツ面の論理、目の前の試合を勝つことにフォーカスした選手起用がなされることが多く、どうしても若手を起用しにくくなる傾向があると思います。
――5人の若手注目選手を選考していただきましたが、選んだ際の基準を教えてください。
全員センターバックから選んだんですけど、それにはいくつか理由があります。ヨーロッパに移籍する選手はFWや攻撃的MFなど、ある程度数字がはっきり出て、評価が確立されているポジションの選手が多いんですけど、センターバックは経験が必要なポジションですし、海外移籍するのは難しいと思うんですよね。僕が選んだ5人はいずれも若い頃からJリーグでの経験を積み重ねていて、センターバックの新世代のパイオニアというか、今後どのようなキャリアを歩んでいくのか純粋に楽しみな存在です。また、J1の鹿島アントラーズや柏レイソルという強豪クラブで、20代前半の若者がレギュラーとして出ていること自体を評価すべきだと思ったことも理由の一つです。
――各選手それぞれの選考理由を教えてください。
2011年のU-17W杯の頃から植田と2位に挙げた岩波拓也のセンターバックコンビが好きで期待していたんですけど、技術力の高い選手がそろっていたチームにあってこの2人は高さと強さを兼ね備えていて、将来的に日本代表でセンターバックを組むんじゃないかと当時から思っていたので、その期待も込めて選出しました。A代表にも選ばれていますし、実質的に日本の中で3番手ぐらいのセンターバックだと思っています。体格やパワーに恵まれ、気迫や雰囲気も兼ね備えているセンターバックはなかなか日本にいないと思います。
安定していますよね。足元もうまいですし、誰と組んでも実力を発揮できます。U-17W杯の頃はミスもありましたが、的確なポジションを取り続ける集中力やFWとの駆け引きなどは、試合経験を積むことでどんどんレベルアップしていると思います。
3位 三浦弦太(ガンバ大阪)
サイドバックを務められるユーティリティー性も評価できますし、代表にも選出されているので、実績面を考慮すると外せない選手ですね。同学年で同じく対人に強い植田のライバルになる選手だと思います。
4位 中山雄太(柏レイソル)
中谷よりも上の順位にしているのは、彼のビルドアップ能力に惹かれたからです。U-20W杯でも素晴らしいプレーを見せていましたし、180センチオーバーでビルドアップができるセンターバックはこれからのサッカー界で求められると思うので、面白い存在ですね。左足のフィードや足元の技術はワールドクラスだと思います。
5位 中谷進之介(柏レイソル)
中谷は対人の強さが特徴で。中山とはいいコンビだと思います。ルーカス・ポドルスキ(ヴィッセル神戸)とのマッチアップでも対等に戦っていましたし、今後、JリーグのFW陣と戦って磨かれていけば、大きく成長できるんじゃないかな、と思っています。
――センターバックを5人挙げていただきましたが、他のポジションで印象的だった選手はいますか?
見ていてワクワクする選手、試合を見に行きたくなる選手が好きなので、三好康児(川崎フロンターレ)のように予想を裏切るようなプレーをしてくれる選手を見るのは楽しいですね。また、原輝綺(アルビレックス新潟)のように戦えて対人も強くて、縦方向に走れる選手も好きです。
――TAG Heuerのモットーは「#DontCrackUnderPressure(プレッシャーに負けるな)」です。選手への取材経験から、プレッシャーに打ち勝てる選手に共通していることはありますか?
代表の選手を取材させていただくことが多いんですが、共通しているのは、みんなすごく考えていますよね。感覚でプレーしているように見える選手でも、実はすごく考えています。試合が終わるたびに、自分の何が悪かったのかを振り返っていることが分かりますし、その課題を克服するためにどうすべきかのトライ&エラーを繰り返し続けている選手が上に行くんだな、と感じています。
――日本サッカーの若手選手に対して、どのようなことを期待していますか?
まずは試合に出ることですね。それと、日本では契約満了に伴う移籍金ゼロでの移籍が多いのですが、それは選手自身の価値を下げることに繋がります。例えば3億円で移籍した選手は、その金額に見合った扱いを受けます。チャンスを与えられますし、大切に扱われるので、成功する可能性も高くなるでしょう。しかしゼロ円移籍の選手は、ゼロ円なりの扱いを受けることになります。移籍金をクラブに残した上で移籍することは自分のためにもなりますし、元所属クラブも将来に向けた投資ができる側面があるので、若い選手たちが意識を変えて自分の価値に自信を持ち、移籍の形態を改革していってほしいですね。
文=池田敏明
写真=浦正弘

【Profile】
浅野賀一
1980年生まれ。
北海道釧路市出身。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランスとして活動し、『エル・ゴラッソ』、『サッカー批評』などに寄稿。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。部活ライフ応援フリーマガジン『footies!』の初代編集長を務め、サッカー関連書籍の編集も手掛ける。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。
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投票期間:2017年11月6日(月)18:00 ~ 2017年11月26日(日)23:59
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【TAG Heuer YOUNG GUNS AWARD】
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